そのとき、支部は進みはじめた
ギルド・ラストリーフ支部、午前の光差す職員作業室。
アルフォード=グレインは、静かに立ち止まって支部全体を見渡していた。
職員たちは、誰に指示されるでもなく、それぞれの持ち場で自然に動いている。
リリアとサラは、カウンターで来訪者対応をこなしながら、必要な書類を無言で手渡し合う。
ベイルは、カミーユが提出した帳簿に目を通し、うっすらと頷いた。
ハナミは、備品リストを片手に茶を飲みながら、新人たちの動きを目だけで追っている。
ヨハンは、何か思い出したように資料棚をあさり、「あった」と呟いてメモを取った。
マルコは、誰にも気づかれないように椅子の高さを微調整していた。
そして──
ミーナ=ルクトリア。
特別に声を張るでもなく、表立って指揮を執るわけでもない。
それでも、彼女が軽く一言交わせば、場の空気が自然と流れを取り戻す。
案件ファイルの差し出し方、受付カウンターへの合図、休憩室で交わされる小さな笑い声。
彼女の存在が、支部に穏やかなリズムを生み出していた。
(……指示を出した覚えはない)
(だが、動いている)
アルフォードは、静かに思った。
効率だけを追い求めた数字の束では、到底測れない“何か”が、ここにはあった。
冷たい改善指標だけでは生まれない、温もりのある秩序。
(そうか……これが)
ミーナが、そして皆が、少しずつ積み上げてきたもの。
指示で動くのではなく、互いを見て、支え合いながら進んでいく力。
アルフォードは、静かに目を伏せ、ほんのわずかに口元を緩めた。
(この支部は──確かに、進みはじめた)
窓の外、柔らかな光が差し込み、支部の空気を優しく満たしていた。




