お茶と道具と、やすらぎと
支部の一角にある、小さな休憩室。
木の香りがほのかに漂うその場所には、昼下がりの穏やかな時間が流れていた。
窓際の丸テーブルでは、ハナミ=ルードンが湯気の立つポットを静かに傾け、マルコ爺さんが無言で湯呑を受け取っている。
ふたりの間に、言葉はほとんどない。
けれど、不思議と居心地の悪さはなかった。
──そんな空気の中に、ふらりとカミーユ=フロリネッタが現れた。
「あのっ……ここ、使ってもよろしいでしょうか?」
ちょっとだけ遠慮がちに、けれど期待に満ちた声。
ハナミはちらりと目を上げ、そして無言で隣の椅子を指さした。
カミーユは、ぱぁっと顔を輝かせて、そっと腰を下ろす。
「失礼いたしますわ……」
ハナミは無言で、カミーユのカップにも紅茶を注いだ。
淡い琥珀色の液体から、ふわりとやさしい香りが立ち上る。
マルコ爺さんは何も言わず、ただカップを持ち上げ、一口。
カミーユも、それにならってカップを両手で包み込む。
──しばらく、誰もしゃべらなかった。
だが、カミーユは不思議と落ち着いていた。
(……なんだか、落ち着きますわ)
ハナミは、ぽつりと言った。
「こういう時間を守るのも、支部の仕事のひとつよ」
カミーユはきょとんとした。
「……支部のお仕事、ですの?」
「そう。人も、空気も、全部、支えていかなきゃね」
そう言うハナミの横で、マルコ爺さんが無言で小さく頷く。
カミーユは、紅茶をそっと口に運びながら、思った。
(支えるって、依頼人様に対してだけじゃないんですのね)
(支部の中にいる皆さま──職員の方々同士の、空気を守ることも……)
人と人との間に流れる、見えない何か。
それを大切にすることも、仕事のひとつなのだと。
ミーナ=ルクトリアは、そんなカミーユの様子を、休憩室の入り口からそっと見守っていた。
(少しずつ、ちゃんと支部に馴染んでいってる)
その背中に、静かにエールを送るように、ミーナは小さく微笑んだ。




