初めての斡旋業務ですわ!
支部の相談室に、ぴりりとした空気が流れた。
カミーユ=フロリネッタは、依頼人を前にして固まっていた。
「……そういう型通りの話じゃなくて、もっとちゃんと、こっちの事情を考えてくれないのか?」
依頼人の語気は、決して怒鳴っているわけではない。
だが、その一言でカミーユの頭は真っ白になった。
「は、はい……申し訳、ありません……!」
声が上ずり、手に持ったメモが微かに震える。
(どうしましょう……想定していた質問と違いますわ! どう答えれば……)
焦れば焦るほど、口から出てくるのはマニュアル通りの定型句ばかり。
依頼人の眉間には、うっすらと皺が寄っていた。
──そのとき。
「お話、少し詳しく伺ってもよろしいですか?」
ふわりと空気が和らいだ。
ミーナ=ルクトリアが、自然な笑顔で歩み寄ったのだ。
依頼人は、戸惑いながらも、ぽつぽつと事情を話し始めた。
過去の職場での経験、家族の状況、今抱えている不安。
カミーユは、傍らで俯きながら、そのやり取りを必死に耳に刻んだ。
ミーナは、依頼人の言葉を遮らず、時には相槌を打ち、時には「それは大変でしたね」と、静かに共感を重ねていく。
そのやりとりに、依頼人の肩の力が少しずつ抜けていった。
(どうして……どうして、私はできなかったんですの……)
カミーユは、悔しさと情けなさで胸がいっぱいになった。
──数分後、依頼人は穏やかな顔で相談室を後にした。
カミーユは、しゅんとしたまま、机の角を指でつついている。
ミーナは、そんな彼女にそっと声をかけた。
「カミーユさん、大丈夫。失敗って、次に生かすためにあるんですよ」
カミーユは、ぎゅっと拳を握った。
「……でも、私、せっかくミーナさんに教えていただいたのに……」
声がかすれた。
ミーナは、そっと微笑んだ。
「大丈夫。教わったことって、最初から完璧にできるものじゃないんです。私も、いっぱい失敗しました」
カミーユは、顔を上げた。
「……次は、ちゃんと、聞きますわ。依頼人様のお話を、ちゃんと……」
その瞳は、涙をこらえながらも、確かな決意を湛えていた。
ミーナは、そっと背中を押すように、にっこりと笑った。
(うん、大丈夫。……この子は、きっと乗り越えられる)
支部の一角に、またひとつ、小さな芽が生まれた。




