出典不明、それでも正確
書庫の一角、過去案件履歴室。
アルフォード=グレインは、山積みになった古い台帳を前に、ため息をついていた。
そこへ、紙束を抱えたヨハン=ブリッジスが、だるそうな足取りで現れた。
「んー……この依頼人、見たことあるな。二年前、改名して職探しに来たやつだろ」
あくびまじりに、さらりと口にする。
アルフォードは、思わず身を乗り出した。
「出典は?」
即座に問う。
ヨハンは、涼しい顔で肩をすくめた。
「俺の脳内ログだけど? まあ、間違いないよ」
(……根拠なし、か)
アルフォードは、眉間に皺を寄せた。
だが、念のため台帳をめくり、過去の記録を確認する。
──そこには、確かにヨハンの言った通りの履歴が残っていた。
前の支部で懲戒三件、改名後に再就職を試みた記録。
(……本当に、正確だ)
アルフォードは、内心で軽く頭を抱えた。
ヨハンの脳内には、膨大な“支部の過去”が蓄積されている。
だが、それはどこにも正式な形で残されていない。
あくまで、彼個人の記憶頼み。
(……こんな状態では、組織としての再現性がない)
無言で台帳を閉じながら、アルフォードは静かに考えた。
この情報を、個人の脳内に閉じ込めたままにしておくべきではない。
──いつか、外に出す必要がある。
ヨハンは、特別な自覚もなく、再び紙束を抱えて歩き出した。
「んじゃ、俺、履歴更新しとくから。急ぎなら……ま、言ってよ」
手をひらひらと振りながら、適当な調子で去っていく。
その背中を見つめながら、アルフォードは小さく息を吐いた。
(必要な情報は、正しく記録され、共有されるべきだ──)
そんな、当然のはずなのに、これまで気づかなかった常識が、静かに胸に刻まれた。




