書類で決まれば楽でした
支部案件管理室の一角。
アルフォード=グレインは、静かにその様子を観察していた。
担当しているのは、若手職員のエドリック=トーン。
小柄な体を懸命に伸ばしながら、山積みの案件ファイルを分類し、対応状況を次々とチェックしている。
「ええと……マニュアル第十二条、案件進捗確認は三日ごとに記録……よし!」
小さく頷き、ペンを走らせるエドリック。
(……規則通りだ。正確ではある)
アルフォードは、手元の帳簿と付き合わせながら、彼の作業を評価していた。
書類処理はきっちりしている。
ミスもない。
だが──
応対している依頼人たちの表情は、どこか微妙だった。
「ここにサインをお願いします。それから、次回の来訪はこの日時で」
エドリックの声は堅苦しく、マニュアル通り。
依頼人は、戸惑いながら署名し、無言で帰っていった。
(……温度がない)
アルフォードは、胸の奥にわずかな違和感を覚えた。
書類の上では完璧。
けれど、現場で求められているものは、それだけではない。
──その時だった。
近くの棚で、カミーユ=フロリネッタが帳簿の整理をしていた。
彼女は書類を抱えながら、ふとエドリックの背中をちらりと見た。
エドリックも気づいたらしく、一瞬だけそわそわと落ち着かない様子を見せる。
誰にも聞かれないような小声で、ぼそりと呟いた。
「……僕、カミーユさんよりは……先輩なんですが……」
誰に言うでもない、自己確認のような呟き。
しかしカミーユはそれに気づく様子もなく、嬉しそうに新しい案件ファイルを抱えて受付へと戻っていった。
エドリックは、そっとため息をつき、またマニュアルに目を落とす。
(……書類の上では、完璧だが)
アルフォードは、静かに目を閉じた。
現場には、マニュアルには載らない“やりとり”が、確かに存在している。
それを知らなければ、本当の意味で現場を回すことはできない──
そんな予感が、静かに胸を満たしていった。




