完璧とは、冷たくて美しい
支部の書庫、帳簿管理室。
アルフォード=グレインは、静かに扉の影から中を覗き込んだ。
そこにいたのは、ベイル=ストレイ。
長身で無表情の文書精霊──帳簿管理担当。
彼は、黙々と帳簿を整理していた。
正確無比な手つきで、書類を一枚一枚確認し、余白やインデントのズレすら許さない。
ぱらり、と帳簿をめくったベイルの指先が、ほんのわずかに止まる。
「……余白が、二ミリ広い」
誰に聞かせるでもなく、淡々と呟く。
次の瞬間、手元から定規を取り出し、正確に余白を修正し始めた。
(……二ミリ……?)
アルフォードは、無意識に額に手をやった。
普通なら気にも留めないような微差。
だが、ベイルにとっては看過できない『乱れ』なのだろう。
無言でペンを走らせ、無駄な動作は一切ない。
書類の山は、驚くべき速度で整えられていく。
ページをめくる音さえ、リズミカルで正確だった。
──それは、ある意味で理想だった。
ミスのない帳簿。
統一された記録。
揺るぎない管理体制。
(……だが)
完璧すぎるその作業に、アルフォードはなぜか、胸の奥に冷たいものを感じた。
暖かさがない。
感情の入り込む隙間すらない。
ベイルの帳簿整理は、機械的でありながら、どこか寂しかった。
(……これが、完璧な支部運営の姿なのか?)
ふと、アルフォードは自問していた。
──完璧であることと、温かみがあることは、必ずしも一致しない。
その事実が、じわりと胸に重くのしかかった。
ベイルは、こちらに一瞥もくれず、淡々と作業を続けていた。
まるで、余白一ミリの誤差さえも、世界から許さないとでも言うかのように。
アルフォードはそっと扉を閉め、静かにその場を離れた。




