受付は戦場でしてよ?
支部のカウンターは、朝からにぎわっていた。
リリア=カスカータが冒険者相手に、陽気に笑いながら応対している。
「了解っす☆ あとはこの用紙、サクッと記入お願いしまーす♪」
テンポよく、しかし砕けすぎない絶妙な距離感。
一方、サラ=メルトは無言で隣に立ち、リリアの指示を聞きながら、必要書類を滑らかに手渡していく。
まるで言葉を交わさずとも通じ合っているかのような、完璧な連携だった。
(……回っている)
アルフォード=グレインは、支部の片隅からその様子を観察していた。
リリアは、相手によって器用に口調を変えている。
貴族らしき依頼人には、深々と頭を下げながら、
「いつもお世話になっておりますぅ〜」
と、語尾を柔らかく引き伸ばす。
そして、話している間にサラが無言でペンを差し出し、必要箇所に付箋を貼った書類を手渡す。
冒険者には、逆にフレンドリーな調子で押し切る。
「っすっす、サインだけお願いしまーす☆ 次、番号札もらってね〜」
サラはその間も無言でスタンプを押し、整理券を手渡す。
(この無秩序……いや、違う。これは、秩序だ)
アルフォードは、わずかに目を細めた。
たしかに個々の対応は統一されていない。
だが、客も依頼も滞ることなく流れていく。
誰も戸惑わず、誰も苛立たず。
そこには、言葉にできない“現場の温度”があった。
──そんな時だった。
新しく来た若い依頼人が、ふと感嘆したように言った。
「わあ……ギルドの受付って、すごいんですね」
それに反応したのは、たまたま通りかかったカミーユ=フロリネッタだった。
ぴしっと胸を張り、きらきらした目で力強く言い切る。
「受付は戦場でしてよ! 速さと正確さ、それに優雅さも必要なんですの!」
──なぜか誇らしげだった。
(……優雅さ?)
アルフォードは、密かにツッコミを入れたが、黙っておいた。
リリアがくすっと笑い、サラが隣で小さく、しかし確かに呟いた。
「……うん」
それだけだった。
けれど、その一言が、この支部の受付を支える静かな矜持のように響いた。
(……戦場、か)
アルフォードは、密かに心の中で呟いた。
ここには、書類には載らない秩序が、たしかに存在している。




