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没落ギルドの仕事斡旋人2~辺境支部を支える、小さな物語~  作者: ほたてといか
第四章 観察記録、それは定性的な冒険
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沈黙の番人

アルフォード=グレインは、静かにドアの前に立ち、内側を観察していた。


中にいるのは、ハナミ=ルードン。


彼女は、一言も発することなく、黙々と作業を続けていた。


帳簿を開き、報酬伝票と照合し、記録に間違いがないかを確かめる。


手元には、お茶の湯気をたてるポットが置かれているが──彼女はそれすらも気に留める様子はない。


(……音がない)


ペンの走る音。

紙をめくる微かな気配。


それ以外、何もない空間。


アルフォードは、知らず息を潜めた。


──本来なら、こうした無駄のない空気を歓迎すべきだった。


だが、ハナミの沈黙には、奇妙な“重さ”があった。


無駄を省いた結果の静寂ではない。


まるで、周囲の乱れすら飲み込んでしまうような、しなやかな圧力。


(……この人物が、支部の裏を支えているというのか)


アルフォードは、眉間に小さく皺を寄せた。


報酬処理は、金銭管理に直結する。

支部の信用を左右する、もっとも厳密でなければならない業務だ。


本部なら、複数名で相互チェックを行う案件だ。


だが、ここでは──たったひとり。


ハナミは、無言で帳簿を閉じた。

そして次のファイルを手に取り、また作業を始める。


流れるような手つき。

だが、その動きには確かに“人間の温度”があった。


──間違えないために、整えられた動作。

──支部の誰かが困らないように、気づかれない形で補完される小さな配慮。


それらが、言葉ではなく、行動に刻まれている。


(……あの沈黙は、ただの無口じゃない)


ようやく、アルフォードは気づき始めていた。


ハナミ=ルードン。

彼女は、静かに、だが確かに、この支部を支えている番人なのだ。


報酬処理室を後にする時、アルフォードはふと振り返った。


ハナミは、こちらを一瞥もせず、黙々と手を動かし続けていた。


その背中は、無言のまま──しかしどこまでも、頼もしかった。


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