“満足”の正体を探して
支部記録室の扉を開けると、かすかに紙とインクの匂いが漂ってきた。
アルフォード=グレインは、無言で棚に並ぶ分厚いファイル群に目を走らせる。
(データだ。すべての答えは、記録の中にある)
そう自分に言い聞かせながら、次々とファイルを手に取った。
ミーナ=ルクトリアが担当した案件だけでなく、支部全体の過去案件にまで範囲を広げる。
成功例、失敗例、満足度の高かった斡旋──すべてを洗い出す。
だが。
(……妙だな)
アルフォードは眉間に皺を寄せた。
数字だけでは説明がつかない成功例が、いくつも出てきたのだ。
条件に完璧に合致していたわけでもない。
標準フォーマットに従っただけでもない。
むしろ、微妙に規定を外れた柔軟な対応──依頼人の状況に合わせた臨機応変な対応が、満足を引き出しているケースが目立った。
(ただの偶然か?)
アルフォードは、無意識に手元のファイルをきっちりと揃え直した。
データに乱れはない。記録も整理されている。
だが、数値化できない要素が確かに存在している。
それが、今の支部の「空気」にも影響しているのかもしれない──
そんな考えが、頭をよぎる。
(馬鹿馬鹿しい。感情論に振り回されるべきではない)
そう自分に言い聞かせながら、アルフォードはさらに奥の棚に手を伸ばした。
埃をかぶった一冊の台帳。
表紙には、かすれた文字で「支部内対応記録──第一号」とだけ記されていた。
(……これが、支部内台帳の原点か)
ぱらり、とページをめくる。
そこに並んでいたのは、機械的な数値でも、定型文でもなかった。
一件一件、依頼人の話に耳を傾けた跡。
小さな心情の変化、背景事情、斡旋に至るまでの細かなやりとり。
そして──
ページの余白に、走り書きされた一文。
『成果は数字だけで測れない。人は、聞いてもらえたことを、忘れない』
ゴルザン=ルクトザークの署名が、そこにあった。
アルフォードは、しばらくその文字を見つめたまま動けなかった。
(……数字だけでは、測れないものが、確かに存在する──)
初めて、真正面から、その事実を突きつけられた気がした。
ファイルを閉じる音が、記録室に静かに響いた。
アルフォードの胸の奥で、何かが小さくきしんだ。




