あなたのやり方は、非効率です
その日の朝は、いつもと変わらぬ静けさに包まれていた。
ミーナ=ルクトリアは、応接スペースで依頼人と向き合っていた。
机に広げられた資料を前に、ミーナは丁寧に相手の話に耳を傾け、時折うなずきながら、慎重に言葉を選んでいた。
「……わかりました。では、いくつかご提案できる職種がありますので、こちらをご覧ください」
そう言って資料を差し出す動作も、どこか慎重だった。
支部長室から、その様子をガラス越しに眺めていたアルフォード=グレインは、眉間に皺を寄せた。
(時間がかかりすぎだ)
数値管理、効率重視。それがギルド本部の基本方針だ。
一人の依頼人に対し、ここまで個別対応に時間をかける必要があるのか──
アルフォードの脳裏に、冷たくそんな疑問が浮かぶ。
やがて応接スペースから戻ってきたミーナに、アルフォードは声をかけた。
「ミーナ=ルクトリアさん、少し時間をいただけますか」
ミーナはきちんと姿勢を正して頷き、支部長室に入った。
アルフォードは無駄な前置きもなく、淡々と切り出した。
「あなたの依頼人対応について、いくつか指摘があります」
ミーナは静かに、聞く体勢を整える。
「斡旋プロセスに時間をかけすぎです。依頼人の感情に寄り添うことは理解しますが、感覚に頼りすぎてはいませんか?」
アルフォードは、手元の資料を指で叩いた。
「業務は論理で動かすべきです。あなたのやり方では、組織としての効率性が損なわれる」
一言一言が、冷たく空気を切り裂いた。
ミーナは、拳を握りしめることも、反論することもせず、ただ深く頭を下げた。
「ご指摘、ありがとうございます」
その声はかすかに震えていたが、すぐに立て直すように表情を引き締めた。
アルフォードは、それ以上何も言わなかった。
──必要以上に干渉しない。それが、管理者としてのあるべき距離感だと信じていた。
ミーナが静かに部屋を後にすると、支部長室には重たい沈黙が残った。
アルフォードは、ふと視線を落とし、報告書類に目を通し始めた。
だが、どうにも集中できない。
机の上に広げられた書類は、確かに整っていた。
成果も、数字上は順調だ。
それなのに、胸の奥に、拭えないざわめきがあった。
(本当に、あれは……非効率なのか?)
そんな疑問を抱く自分自身に、アルフォードは戸惑いを覚えた。
効率と論理。それこそが、組織運営の絶対条件のはずだった。
だが──
さっき、応接スペースで交わされた小さなやり取り。
依頼人がミーナに向けた、あのほんの少し柔らかくなった表情を、アルフォードはなぜか、頭の片隅から振り払えずにいた。
(組織は数値で動かす。満足度も、効率も、数字に還元されるべきだ)
(それなのに……)
アルフォードは、無意識に手元の資料を並べ直した。
きっちりと揃った紙束。
──だが、心の中のざわめきだけは、いくら整えようとしても収まらなかった。




