数値にない“満足”って何ですか?
支部長室の中、朝の柔らかな光が窓から差し込んでいた。
アルフォード=グレインは、デスクに並べられた成果報告書に目を走らせていた。
提出された各種データは、全体的に悪くない。
依頼人対応件数、斡旋成功率、苦情件数──すべて、基準を満たしている。
(順調だ。数字だけ見れば、だが──)
ひとつ、妙な点があった。
ミーナ=ルクトリアの担当案件だけ、妙に依頼人満足度が高い。
にもかかわらず、数値上は特別な成果として現れていないのだ。
(何かが……引っかかる)
アルフォードは眉間に皺を寄せ、ファイルを手繰った。
ちょうどそこへ、静かにベイルが現れる。
「支部長、報告書の提出分、確認いたしました」
「助かります。ところで……」
アルフォードは、手にしていたミーナの案件ファイルを掲げた。
「この案件、成果データが曖昧です。斡旋内容の詳細な記録が見当たらないのですが」
ベイルは無表情で答えた。
「……標準フォーマットには記載項目が存在しません。支部内台帳──旧式のほうに、補足記録があるかと」
「支部内台帳?」
「はい。ゴルザン前支部長の時代に運用されていた、非公式記録です。現在も一部職員が併用しております」
アルフォードの胸の内に、ざらりとした違和感が広がった。
(そんな非公式の……感情混じりの記録に?)
そこへ、通りがかったヨハン=ブリッジスが、紙束を抱えながらぼそっと呟いた。
「そいつ、門前払いされてたやつだろ。前任支部で」
アルフォードがぴくりと反応する。
「……どういう意味ですか」
ヨハンは肩をすくめるだけだった。
「出典ないから、信じるかどうかはお任せ。俺の脳内ログだし」
ベイルが無言でヨハンに鋭い視線を送る。
ヨハンは「へいへい」と手をひらひら振りながら去っていった。
支部長室には、再び静寂が戻った。
アルフォードは、整然と並べられたファイルに指を這わせた。
本来なら、整った数値と報告を見れば満足できるはずだった。
なのに、どうして──この小さな齟齬に、これほど心が引っかかるのか。
耳の奥に、ヨハンの軽口が蘇る。
『前任支部でも、ああいうの、いたんだよな。数字にはならなかったけど、助けてもらったって依頼人は多かった。でも、結局“成績不良”で切られたけどな』
支部内の誰も、特に驚かなかった。それが、この世界の常識だった。
(成果は数字で語れ──それ以外は、管理の枠外)
アルフォードは、無意識にファイルを並べ直し、静かに息を吐いた。
冷静な顔の裏で、何かがじわりと広がり始めているのを、否応なく自覚していた。




