だから、一度だけでいいんです
夕方、支部の執務室。
ミーナは、デスクに山積みになった依頼ファイルを見つめながら、深いため息をついた。
アルフォードが導入した新しい斡旋手順。
たしかに、数字上の効率は上がっている。
けれど、どこかで引っかかる感覚が、どうしても消えなかった。
(これで、本当にいいのかな……)
迷っている自分に、苛立ちすら覚える。
そのとき、そっと背中に声がかかった。
「ミーナ先輩」
振り向けば、カミーユが真剣な顔で立っていた。
「先輩なら、大丈夫ですわ」
それだけ言うと、カミーユはぺこりと頭を下げ、また自分の持ち場に戻っていった。
(……カミーユさん)
小さな背中を見送りながら、ミーナは心を決めた。
そして、ファイルを抱えて、支部長室の扉をノックした。
「失礼します」
中にいたアルフォードが、顔を上げる。
「どうかしましたか、副支部長」
ミーナは一歩踏み出し、きゅっとファイルを胸に抱きしめた。
「一度だけ、自分のやり方で、対応させていただきたいんです」
アルフォードは、わずかに眉をひそめた。
「理由は?」
「……数字だけじゃ、見えないこともあると思うからです」
一瞬の沈黙。
アルフォードは目を伏せ、指先で机を軽く叩いた。
「──いいでしょう。ただし、結果はきちんと数字で報告してください」
ミーナは、胸の奥でぱっと光が灯るのを感じた。
「はい!」
元気よく頭を下げて、部屋を出る。
(たった一度でも、いい)
(自分の目で、自分の手で、確かめたい)
支部の廊下を歩きながら、ミーナは心の中で小さく拳を握った。
カウンターでは、リリアとサラが雑談している。
その向こうに、談話室で待つ依頼人たちの姿が見えた。
よし、やろう。
私は、私だから。
人と人を、ちゃんとつなぐために。
ミーナは、まっすぐカウンターへと向かっていった。




