ここの制服にマニュアルはありますの?
昼下がりのカウンター裏。リリアとサラが、窓口対応の合間にこそこそと話していた。
「ねぇ、ミーナちゃん……最近さ」
「はい?」
ミーナが顔を上げると、リリアが苦笑いを浮かべて寄ってくる。
「支部長の指示、細かすぎない?」
「ああ……」
ミーナは曖昧に笑った。
支部長──アルフォードは、事あるごとに新しい業務手順やルールを持ち込んできた。
窓口対応も例外ではない。
「お客様ご案内の際は、三歩前に出て、まず礼。その後に台詞は定型文を使用──」
「いや、接客業じゃないんだけどなぁ」
リリアが肩をすくめる。
横で、サラが無言で頷いた。
(サラさんが頷いてる時点で、相当だ……)
「しかもさ、この前の書類提出手順、見た? 『一枚ずつ確認しながら手渡すこと』って、いちいち書かれてんの」
「見ました……。なんだか、細かいですよね」
ミーナもため息をつく。
現場では、柔軟な対応が求められることも多い。
なのに、型に嵌めようとする指示ばかりが増えていく。
「そりゃあ、ミス防止にはなるかもだけどさ。リズムってもんがあるじゃん?」
リリアがぼやきながら、机に肘をついた。
そこへ、カミーユが元気よく現れた。
「ミーナ先輩! 窓口業務のマニュアル、拝見しましたわ!」
「う、うん。どうだった?」
ミーナが苦笑交じりに尋ねると、カミーユはぴしっと背筋を伸ばして答える。
「……とても、興味深かったです! でも、あの、少しだけ思ったのですけれど──」
「うん?」
「ここの制服に、マニュアルなんてありませんわよね!」
きらきらした笑顔で言い切るカミーユ。
リリアが吹き出した。
「それな!」
リリアの発言の後に、サラも無言で小さく親指を立てた。
ミーナは、思わず笑いながら思った。
(マニュアルじゃ測れないこと、たくさんあるよね)
アルフォードの作ったルールは、たしかに必要だ。
でも、支部には──
人が動いて、人が笑って、人が迷う、そんな“生きた空気”が、何より大事なんだと思った。
「じゃ、午後もがんばろっか」
「おー!」
リリアが元気に手を挙げ、カミーユもぴょこんと真似をした。
サラも、無言で2人の真似をする。
ラストリーフ支部は、今日もなんだかんだで回っている。




