表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/66

このフォーマットじゃ見えませんわ

数日後、支部の一角──窓口カウンター裏の小さな応接スペース。


ミーナは、カミーユを連れて、依頼人との初めての実地対応に臨んでいた。


「では、こちらの用紙にご記入をお願いします」


カミーユが笑顔で依頼人にフォーマットを手渡す。


そのフォーマットは、アルフォード支部長が導入した標準書式。


──希望職種、経験年数、強みを三つ、すべて数値化して記入すること──


依頼人は、眉をひそめながらペンを握った。


「……こういうの、ちょっと苦手で……」


ミーナはそっとフォローに入る。


「大丈夫ですよ。ゆっくりで結構ですので」


(やっぱり、難しいよね……)


心の中でため息をつきながら、ミーナは依頼人を見守った。


──数値で語ることが、必ずしもその人を表すとは限らない。


かつてのゴルザン支部長なら、こんなフォーマットを笑い飛ばしていたかもしれない。


「字が下手でもいい、書けるとこだけで十分だ」


そんな豪快な声が、幻聴のように蘇る。


依頼人は、なんとか欄を埋め、苦笑いしながら用紙を差し出した。


カミーユがそれを受け取り、ミーナに目配せする。


(うん、ありがとうカミーユさん)


書類を確認しながら、ミーナはふと、カミーユの表情を見た。


少しだけ、困ったような顔をしている。


応接スペースを離れ、カウンター裏に戻ったところで、カミーユが小声でつぶやいた。


「……このフォーマットじゃ、見えませんわね」


「え?」


ミーナが振り返ると、カミーユは書類を見つめたままだった。


「皆さまがどんな想いでここにいらしたのか、数字だけでは、やっぱり見えてきませんわ」


ミーナは、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。


(カミーユさん……ちゃんと気づいてるんだ)


「そうですね。私たちの仕事って、たぶん……数字だけじゃ、測れないところもあるんだと思います」


そっと、カミーユに微笑みかける。


カミーユも、ほっとしたように微笑み返した。


「ゴルザンさんなら……どうなさったかしら」


その言葉に、ミーナは一瞬、目を細めた。


(ゴルザンさんだったら……たぶん)


「きっと、『まずは茶でも飲め』って言ってましたね」


ミーナが笑うと、カミーユもくすりと笑った。


「ええ。数字や書式より、顔を見て、声を聞くことを大事になさってましたもの」


「……懐かしいな」


自然とこぼれるミーナの声。


そして二人は、思い出にひととき浸るように、沈黙が流れる。


遠くで、支部長室の扉がぴしゃりと閉まる音がした。


(……支部長には、内緒にしとこ)


ミーナは心の中で、そっと苦笑いした。


その様子を、遠くからリリアがニヤニヤしながら眺めていた。


サラは──無言で、そっと新しい案件ファイルを差し出した。


それだけで、気持ちを汲み取ってくれたのがわかった。


「……ありがとうございます」


思わず、ミーナとカミーユは小さく頭を下げた。


それぞれの手元に積み重なる書類と、静かな支え合いだけが、そこにあった。


ミーナは改めて思う。


(私たちは、きっと、まだまだ学ぶ途中なんだ)


でも、迷ってもいい。

間違っても、立ち止まってもいい。


大事なのは、誰かの未来に、ちゃんと手を伸ばそうとすること。


カウンター越しに、依頼人たちの笑顔がぼんやりと浮かんで見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ