それは演説のように
数日後の朝、ラストリーフ支部には、妙な緊張感が漂っていた。
「これより、定例朝礼を始めます」
支部中央に立つアルフォード支部長が、冷静な声で宣言する。
職員たちは、それぞれ持ち場から集まり、整列する。
もちろん、カミーユもぴしっと背筋を伸ばして立っていた。
「まず、書類提出率について。目標達成率は82パーセント。前回比+3パーセントです」
淡々と読み上げられる数字の羅列。
支部内に、静かな沈黙だけが広がる。
ミーナは手帳を手に、必死にメモを取っていた。
(たしかに、数字は大事だけど……)
どこか、温度のない空気が支配していた。
「次に、業務改善案の進捗について──」
さらに続く硬い報告。
誰も口を挟まない。
ベイルは無表情でメモを取り、ハナミは無言で腕を組んでいる。
遠い目をしてカウンターの飾り棚を見つめているリリアは、すでに意識がどこかへ飛んでいそうだった。
ヨハンは抱えた書類束をずり落としそうになりながら、ぼんやり立っているし、
チットは伝書ポーチをぱたぱたと指で叩き、落ち着かない様子で……
(なんか、みんな固まってる……)
ミーナも背筋を正したまま、ただ耐えるしかなかった。
アルフォードは一通りの数字を読み上げると、無表情のまま締めくくる。
「以上。本日の朝礼を終了します。各自、改善案の確認と推進に努めてください」
張りつめた空気の中、解散の合図だけが冷たく響く。
そのときだった。
「……お顔、固まりましたわ」
ぽつりと、カミーユの声が聞こえた。
周囲が、ピシリと凍りつく。
慌ててミーナが振り向くと、カミーユは引きつった笑顔を浮かべていた。
「その、たいへん立派なご説明でしたけれど……皆さま、お顔が……とても……」
しどろもどろになりながら、必死にフォローしようとしている。
ミーナは、ぎこちない笑顔でカミーユの肩をぽんと叩いた。
「だ、大丈夫だから……! ありがとう、カミーユさん……!」
支部内に、かすかな笑い声が漏れる。
リリアが小さく肩を震わせ、ハナミもため息まじりに微笑んだ。
(……うん。やっぱり、こういう空気も、支部には必要なんだ)
ミーナは、静かに思った。
数字だけじゃない。
笑ったり、肩の力を抜いたり、そんな瞬間も、きっとこの場所には欠かせない。
カミーユの無邪気な一言が、凍りかけていた支部の空気を、ほんの少しだけ溶かしていた。




