案件ファイルの向こう側
翌朝。
ラストリーフ支部の資料室では、ミーナとカミーユが山積みの案件ファイルに囲まれていた。
「さて、カミーユさん。今日からOJTを本格的に始めます」
「はいっ! どんなお仕事でも頑張りますわ!」
カミーユは両手をきゅっと握り、やる気に満ちた顔で答える。
(う、うん……その勢いはすごいけど、今日やるのは地味なファイル整理なんだけど……)
ミーナは内心でそっとツッコミを入れながら、案件ファイルの束を指し示した。
「まずは、こちら。過去の依頼案件のファイル整理です。内容確認して、必要に応じて更新記録を付けていきます」
「わかりましたわ!」
カミーユは早速、ファイルを手に取った。
パラパラとめくる指先は、意外にも手際がいい。
「こちらの方、無事に就職されたのですね……記録まで残っているなんて、感動ですわ」
「え、えっと、はい。支部ではすべての斡旋記録を一定期間保管するルールになっていまして……」
説明しながら、ミーナはカミーユの意外な反応に驚いていた。
ファイルの中の細かなメモ、付箋、追記──普通なら見落としがちな部分にも、カミーユはきちんと目を通している。
「この記録の“確認済”印、色分けされていてわかりやすいですわね」
「えっ、そ、そうですか? たしかに、そういう工夫もありますけど……」
(普通、そこまで気づかないよ……?)
思わずミーナは見直した。
「次はこちらの案件を見てみましょう」
「はいっ!」
別のファイルを渡すと、カミーユは慎重に開いて確認を始めた。
やや巻き髪を揺らしながら、真剣な表情で書類に向き合っている。
(……テンションは高いけど、できる子なのかも)
そんな考えが、ミーナの中にじわりと広がる。
そこへ、資料室の奥からひょっこり顔を出したのはハナミだった。
「お茶、いる?」
「ぜひいただきたいですわ!」
満面の笑みで答えるカミーユに、ハナミは小さく吹き出しながら紙コップを二つ置いていった。
ベイルもちらりと様子を見に来たが、カミーユの几帳面な作業ぶりに特に何も言わず、すっと引き下がった。
(ベイルさんが何も言わないって……すごいことかも)
そんなことを思いながら、ミーナも一緒にファイル整理を進める。
カミーユは、慣れない作業に苦戦しつつも、一つひとつ丁寧にこなしていった。
「これ、ミーナ先輩。確認お願いします!」
「はい、ありがとう。……うん、完璧です!」
思わず笑顔になる。
今日のOJTは、順調すぎるくらいだった。
(明日から、実際の案件にも少しずつ触れてもらおうかな)
そんな希望を胸に、ミーナはそっと手帳に小さなメモを書き加えた。
『カミーユ:吸収力高め。テンションは高いが、素直で前向き』
──支部に新しい風が、本当に吹き始めている。
そう感じながら、ミーナはファイルを閉じた。




