第二十六話 起床
メリサは硬質化した雷で編まれた椅子に腰掛け、ベッドで眠るフレイとバレットの寝顔を眺めていた。
窓から朝陽が差し込み、部屋を照らしている。ポカポカとした陽気が心地良く、窓に近付き、空を見上げる。雲一つない晴天だった。
メリサはしばらく空を眺めた後、ゆっくりと振り返った。フレイの鼻の穴から膜状の炎が膨れ上がり、鼻ちょうちんを形成していた。
「わぁ、きれい」
ベッドに近づいて手を翳してみると、炎で出来た鼻ちょうちんはほんのりと温かかった。鼻ちょうちんの内側で炎が渦を巻いているのが美しく、しばし見惚れる。
鼻ちょうちんが鈍い音を立てて割れ、それが合図となったかのように、フレイは目を覚ました。
「おはよう、お母様」
「おはよう、フレイちゃん」
寝惚け眼を擦るフレイの頭を撫でる。
「ガルル」
目が覚めたバレットは、ベッドからメリサに飛びついてきた。甘えるように、泡状の髪の毛をメリサの体に擦りつけてくる。
「ふふっ、くすぐったい。おはよう、バレットちゃん」
メリサは両手をバレットの背中に回して、軽く抱き締める。しなやかな肢体は静かに燃える炎のように美しかった。
しばらくバレットの柔らかい体を堪能していると、扉をノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
メリサが返事をすると、扉が開いて、従業員――エレザ・ミチェスが寝室に入ってきた。軽くウェーブがかかった金髪に、吊り上がった金色の瞳で、黒色のブラウスの上から紺色のコルセットワンピースを着用している。リオルが術式で誕生させた人工生命だった。
「メリサ様、フレイ様、バレット様、朝食の準備ができましたので、酒場にご案内いたします」
エレザは恭しく一礼すると、メリサたちを促した。
「エレザさん、すぐ行きます」
メリサはフレイとバレットの手を引くと、エレザの後についていく。
エレザは先頭を歩きながら、フレイとバレットをチラチラと見ていた。フレイとバレットは不思議そうな表情を浮かべている。
「あの、顔に何かついているの?」
フレイは自分の顔を指差しながら、先頭を歩くエレザに問い質していた。
「いえ、何もついていませんよ。ただ二人とも可愛いので、ついチラチラと見てしまいました。可愛い子が大好きなので。ですが、困惑させたのなら、謝ります。すみません」
エレザは立ち止まると、振り返り、フレイとバレットに向かって深々と頭を下げる。
フレイとバレットは顔を見合わせると、ほんのりと頬を染め、頭をポリポリとかき始めた。
メリサはほんわかした気分で、その様子を眺めていた。
「コホン、では行きましょうか」
エレザは軽く咳払いすると、階段を降り始めた。メリサたちもエレザに続いて、階段を降りていく。
オープン前の酒場は静まりかえり、いつもの賑やかさは感じられなかった。
朝食が用意された木製のテーブルに案内されて、メリサたちは椅子に腰掛けた。
「オープンまで時間があるので、ごゆっくりお召し上がりください」
エレザは頭を下げると、厨房に入っていった。
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