Lの戦い リオン
リオンの初手。【おたけび】からの【スラッシュ】の流れは、彼が思い描いていた以上に上手くはまった。
教えてもらった2つの技を使いこなして、成長を見せつける。それは、あの邂逅以来、リオンがずっと考えていたことだった。
「まだまだ行くよ!」
機先を制した勢いに任せ、リオンは斬撃を重ねる。
そうしているうちにライトは怯みから回復し、夜色の斧を振り上げた。
リオンは攻撃を中断し、距離をとる。
ライトの斧は、肩の上で赤く輝いていた。
「今度はこっちから行くぞ」
「スキル技……でも、この距離なら」
片手斧のリーチは、片手剣とさほど変わらない。攻撃力は高いかもしれないが、構え方からして、ライトが放とうとしているのは【スラッシュ】と似たようなスキル技だ。
そう判断して、リオンは後ろに下がった。
が、ライトは距離も詰めずにその場で、力任せに腕を振り下ろす。その手から、斧がすっぽ抜けた。
「え……?」
目を丸くして、リオンが立ち止まる。
その体を、輝きを帯びたままの斧が貫いた。
「なっ、え……え?」
状況が飲み込めないリオンは、2割近く減少した自分のHPバーとお腹につけられた傷、そして、ライトの顔を見比べて、首を傾げる。
何が起きたのかと。
「スキル技って、手を離しても発動するんですか?」
が、すぐに考えるのをやめ、やった人に聞いてみる。
「今のはな。他のは知らないけど」
「そう、なんですか。なるほど」
ふむふむと納得しておくことにして、リオンは剣を構え直した。やる気は十分、と意気込むリオンに対し、ライトは武器も構えずに頬を掻く。
「あのさ、リオン」
「はい! なんでしょう」
「敵に言うのもなんなんだけど」
言いながら、ライトは開いた手を前に突き出した。
リオンの知識から答えを導き出すなら、それは魔法を放つ構えだ。だが、戦士は魔法を使えないということもリオンは知っている。
「トマホークは、ジャベリンと違って、ブーメランみたいに戻ってくるから、そこにいると危ないぞ」
「え……?」
と、呟いて、リオンは言葉の意味を順番に考える。
トマホークは知らない。
ジャベリンはルークが使ってた技だ。
ブーメランはわかる。
戻ってくるから、そこにいるとーー
「危ない……? にゃふっ!」
ようやく事態を把握したリオンの体を、回転しながら戻ってきた斧が貫いた。まとまに食らったせいでHPは大きく削られ、バーが黄色く染る。
「や、やりますね」
姿勢を整えながら、リオンはポーションを取り出そうとしてーー固まった。
この戦いで、アイテムは使えない。
始まる前にパナケイアからそう言われていたことを、今、思い出したのだ。
「でも、まだ半分残ってる。勝負はここからだ」
剣を構え直し、リオンは敵に向き直る。トマホークの一撃を食らってから立て直すまで隙だらけのはずだったが、ライトはその場から動いていなかった。
その意味を理解出来ないほど、リオンは抜けていない。
「お待たせしました。今度こそ、倒し切ってみせます」
「やれるものならな」
「やりますよ。僕は、勝たなきゃならないんだ」
「……拠点化ってのは、そんなに魅力的なもんなのかね」
ライトが苦笑いと共にため息をこぼす。
その言葉にリオンは首を傾げ、次いでトーナメントの本来の景品を思い出した。ライトの勘違いを正すために、リオンは慌てて首を振る。
「違う、違う。僕が勝ちたいのは、ギルドに入れてもらうためでーー」
「……ギルドに?」
「そう。ルークと一緒に、【獣人連合】ってとこにね」
「獣人連合か。似合いそうだな」
ライトも知っているギルドらしい。ルークからは大手だから安心と聞いていたものの、自分が聞いたことがなくて不安の残るリオンだったが、思わぬところで裏付けが取れた。
「このトーナメントで戦績を残せば、入れてくれるって話なんだ。だからーー」
改めてギルドに入りたいという決意を胸に、リオンは大きく息を吸い込んで、吼える。
「勝つよ!」
「またかっ……」
おたけびは成功し、ライトが怯んだ。攻撃に移ろうとしていたのか、片足が浮いた不安定な姿勢で止まっている。
リオンはスラッシュで距離を詰めつつ攻撃し、さらに至近距離で斬撃を重ねた。ライトが怯みから回復して攻撃に移るまでに、少しでもダメージを与えておかなければと、必死に。
それでも、反撃を受けては元も子もないから、斧の動きには目を光らせていた。遠距離攻撃もあることはわかっているから、リオンの目的は逃げることではなく、防ぐことだ。
そのために、横目で常に斧を捉え続ける。
ーー逆に言えば、斧に気を取られていた。
「え……」
突如として地面が揺れ、リオンは動けなくなった。意志とは関係なく止められるそれは、怯み状態だ。
眼前のライトが笑みを浮かべている。
「相手を怯ませられるのは、お前だけじゃないってことだ。俺も全身全霊で戦ってやるよ」
不遜な笑みを浮かべ、ライトは斧を持ち上げた。
「正子の闇!」
空が夜に染まる。
透き通るような青空は、全てを飲み込むような星空へ。暑く輝いていた太陽は、静かに光る満月へ。円形闘技場の壁には松明が宿り、仄かな光が場を包む。
「さぁ、準備は整った」
月光に怪しく煌めく斧を構え、ライトが笑う。
「全力で楽しもうぜ、リオン!」
「望むところです! ライト!」
心の底からの笑顔で、リオンは飛び出した。
夜色の斧と鋼の剣がぶつかり合う。
しかし、鍔迫り合いにはせず、2人は軽く引いた武器を再びぶつけ合った。独特の金属音が響く中、リオンはより早く剣を戻し、振り下ろす。
「くっ……」
その一撃を鈍足の戦士は防げなかった。
だが、すぐに反撃の刃が放たれる。
リオンは素早く剣を引いて斧の一撃を防いだ。それからまた武器をかち合わせ、一瞬の隙をついてダメージを与える。
スキルや技量に関係のない剣戟においては、素早さに勝る獣人の方が優位だ。
ダメージ量は微々たるものだが、回復は出来ない。塵も積もれば山となる。
これを続けていればーー勝てる。
勝ち筋を見つけたリオンの耳に、ピキッと聞きなれない金属音が聞こえた。
何の音か。リオンにはわからない。
だが、ライトの攻撃の手が緩んだことだけはわかった。
「今だ!」
剣を上段に構え、力を込めて、一瞬止める。発動させるのは、現時点で1番ダメージが期待出来る4連撃スキル【トライアングル・ストライク】。
システムのアシストを受けて走り出した刀身は美しい三角形の斬撃を刻み、その中心に鋒を突き立てる。
その動きを予知していたかのように、赤い盾が差し込まれた。
そして、リオンの剣が折れた。
「え……あれ!?」
どうやって動きを読んだのか、どこから盾を取り出したのか、なぜ剣が折れたのか。
リオンの頭が疑問符で埋め尽くされる。
「武器破壊か。運が悪かったな」
心を読んだかのようにライトが呟く。その手には徐々に輝きを失いながら横回転する夜色の斧。
疑問は2つ解消されたが、武器を失ったリオンに打つ手はない。
「でも、これも勝負だ」
ライトは動きの止まった斧を真上に持ち上げ、くるりと回す。スキル技の一振で、半分を維持していたリオンのHPは全損させられた。
「強過ぎますよ。ライト」
笑みを残し、リオンが砕け散る。
【 獣人連合(仮) VS チームL 】
【 リオン(Lv17)VS ライト(Lv17)】
【 LOSE VS WIN 】
こんにちは、銀です。
今回は【獣人】について。
人間に次ぐ人気の種族ですが、その理由は人間と同じで、その中での選択肢が多くあるからです。
リオンは猫ですが、犬や狼、狐といったメジャーな獣人から、猿や虎、狸まで色々な種類の獣人が選べます。猿は猿人? そこは、大目に見てください。
全体的には物理攻撃力と素早さが高めとなっていますが、動物の種類によっても変わるのが面白いところです。




