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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第3章 U18トーナメント編

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それぞれの戦い

「いきなり始まるのかよ!?」


 開会式とか、顔合わせとか。ゲームなら存在しそうなイベントは一切なく、俺は円形闘技場の中にいた。

 敵はもちろん、キングレオではない。

 フィールドには漆黒の獅子の代わりに、黄色い猫獣人がいた。彼もプレイヤーなのだが、おっかなびっくりと辺りをキョロキョロと見渡しており、挙動不審だ。

 あ、こっちに気がついた。


「……よかったぁ。間違ったのかと思いました」

 敵に襲いかかるというよりは、遭難中に見つけた通行人に助けを求めるように、獣人が近づいてくる。

 その首には、赤い宝石のついた黄金のネックレスがかかっていた。

「リオン……?」

「え? あ、はい。なんで名前をーー」

 目と目が合った瞬間、リオンの目は真ん丸に見開かれる。その驚いた顔は、完全に猫のそれだった。

「ライト!」

 不安はどこへやら、リオンは嬉々として笑みを浮かべる。

「知り合いがいて、よかったです!」

「いや、これから戦うんだけどな?」

「わ、わかってま……るよ」

 無邪気なリオンと話していると敵意を削がれるが、負けるわけにはいかないのだ。1人でも負ければ、予選を勝ち抜くことは格段に難しくなる。

 俺が勝つことは本戦に行くための最低条件だ。


「なら、そろそろ始めようか。負けるつもりはないけどな?」


「僕だって……相手がライトだろうと、勝つよ」

 気合いを込めて拳を握ると、リオンは距離をとって、腰の鞘から剣を抜いた。市販品で強化もしてなさそうな変哲のない【(はがね)(つるぎ)】だ。

「応援してやりたいのは山々なんだが、勝つのは俺だ」

 楽しそうに剣を向けてくるリオンに対抗し、俺も常夜の斧(オールナイトアクス)を構えた。初日に戦ったことがあるから、初見殺し(チート)は発動しない。

「どっからでもかかってこい! リオン!」

「うん!」

 元気に頷き、リオンは大きく息を吸い込んだ。

「行くよ!」

 裂帛と共に獣人が飛び出した。

 一陣の風が走り抜け、俺の体は怯まされてしまう。気持ち的には相打ち上等なのだが、ひとつも身動きがとれない。

 赤い光を帯びた剣が鋭く振り下ろされた。


 ◇


 ライトとリオンの戦いが始まった頃。同じ見た目の、けれど決して交わることのない円形闘技場では、漆黒の魔法使い(MAGE)がスーツ姿の魔法使い(MAGE)と相対していた。


「……ゼクレテーアか」

 ファンタジー世界には不似合いな黒いスーツ。知的さを感じさせる眼鏡に、低い位置で纏められた黒い髪。秘書という言葉が似合いそうな見た目から、レフトはそう推察した。


「えぇ、覚えて頂いて光栄ですわ。レフト」

 ゼクレテーアは静かに肯定し、名前を呼び返す。

 2人が会うのは、ギシンの森を終え、魔法使いのクエストの最後の試練の説明を受けて以来。つまり、昨日の夜ぶりとなる。

 自己紹介が済んだところで、レフトは手に入れたばかりの武器を構えた。


「武器を新調したようですね」

「あぁ、しかもこれは星具(せいぐ)だ」

「……星具(せいぐ)ですか」

「これさえあれば、最終試練のクリアは揺るがない」

「……揺るがない、ね」

 憂いを帯びた顔に微笑を称え、ゼクレテーアはため息を零す。

「レフト。ひとつ、賭けをしませんか?」

「賭けだと?」

「えぇ、賭けです」

 レフトが聞き返したのは、賭け、という言葉が彼女のイメージにそぐわなかったからだ。だが、聞き間違いではないとわかり、レフトは質問を切り替える。

「何を賭けるんだ?」


「最終試練の即時降伏、などはいかがかしら?」


「何のためにだ?」

「何のため、ですか」

 ゼクレテーアの顔から笑顔が消えた。

「はっきり言わせて頂くならば、あなたが邪魔だからです」

「それはコンビのお前らがいても、俺には勝てないって認めてんのか?」

「勝ち残る確率が下がるだけですわ。図に乗らないでくださいな」

「安心しろよ。俺は1対9でも負けはしない」

「なっ……」

 レフトの開き直った言い返しに、ゼクレテーアが怯んだ。

「これは十二宮星具だ。それを持つ奴は他にいないだろう。そのアドバンテージがあれば、負けることはない」

 勝ち誇るでもなく淡々と、けれど事実であるかの如く堂々と、レフトは笑う。

「気に入りませんわね」

 ゼクレテーアは不快感を隠そうともしなかった。

「ですが、我が主もあなたの強さには一目置いていらっしゃいます」

「だから、お前が俺を辞退させるって話か」

「えぇ、それが秘書の役目ですから」

 ゼクレテーアの手に槍が現れる。夜色の持ち手の先に、湾曲した金色の刃が埋め込まれた一品は、ひと目で市販品とは違うと判断出来そうな業物だ。


「まあ、いいだろう。で、俺が勝ったら?」

「わたくしが辞退しましょう」

「いや、それじゃ俺にメリットがないだろ」

「敵が減りますよ?」

「面白みも減るだろ」

 いやらしく笑みを浮かべるゼクレテーアの問いかけに、レフトは満面の笑みを向け返す。予想外の反応だったのか、ゼクレテーアは呆気に取られた表情で固まった。

「細かいことは気にするな。それよりも、後悔しないように全力で来いよ?」

「……無論。手を抜くつもりなどありません」

 レフトは左手に杖を、ゼクレテーアは腰を落として槍を構える。


星具(せいぐ)の力を見せてやるよ!」

偃月刀(えんげつとう)のサビにして差し上げますわ!」


 2人の魔法使い(MAGE)は同時に地面を蹴った。


 ◇


 ライトとリオン、レフトとゼクレテーアの戦いが始まる少し前。同じ見た目の、けれど決して交わることのない円形闘技場では、赤髪のバンドマンが、騎士と相対していた。


「悪いな、待たせたか」

「私も今来たところですよ」

 待ち合わせの常套句のようなやり取りに、ロキは口元を緩ませる。一方の騎士は、真面目の顔のまま首を傾げた。

「……もしや、JJの?」

「いかにも!」

 名を訊ねられ、ロキは思わずポーズを決める。


(ジュエリー・)(ジャンキー)のリーダー、トリックスターのロキとは、俺のことだ」


「やはりそうですか。実は、娘がファンなのですよ」

「それは、光栄だ」

 ニヤけそうな頬を律し、ロキは努めて不敵な笑みを浮かべた。それが、ロキというキャラクターに求められる笑みだから。

「さあ、戦いを始めよう!」

 くるっと回って、両手を広げ、らしい仕草でロキは構える。だが、騎士は構えなかった。星が描かれた大盾は体から外れているし、剣に至っては鞘から抜いてすらいない。


「その前にひとつだけいいだろうか」

「いいだろう。言ってみろ」

 謙虚な騎士に、ロキは傲岸不遜な態度で応じた。娘とか言っているから、策士でもない限り、相手の方が年上だろう。

 だが、そんなリアルのことは関係ない。

 そして何より、ロキには強者の余裕に浸れるくらいの秘策(・・)があった。


「私は無駄な争いを好まない騎士(KNIGHT)であるし、娘の憧れの人を叩きのめすのも忍びない。降伏を、しては頂けないだろうか?」

「悪いが、断る」

 ロキはにべもなく提案を切り捨てる。

「敵の方が強そうだからと言って諦めるのは、ロキには相応しくない。知恵を蓄え、策を巡らし、格上だろうと滅ぼさんとする。それが、ロキだ」

「なるほど。それは失礼をした」

 盾を持ち直し、騎士は鞘から剣を抜いた。

「私も覚悟を決めよう」

「では、改めて。戦いを始めようか、優しい騎士様?」

 そう言いながらも、ロキは武器を構えない。代わりに、不敵な笑みを浮かべ、上に向けた手で手招きをする。

 わかりやすく言えば、挑発した。


「やれやれ、後の先が得意なのだが……仕方ない」

 理解した上で、騎士が動く。

 守りから攻めへ。しっかりと構えていても、そこには僅かな隙が生まれる。熟練者同士ならば、勝敗を分けるかもしれない小さな隙が。

「さあーー」

 ロキが動いた。普段からは考えられないほどの、目にも止まらぬ速さで、騎士の懐へと潜り込む。その動きを、初見で(・・・)見切ることはほぼ不可能。

「名も無き騎士よ」

 続けて放つのは、貫手と呼ぶのもおこがましい速いだけの突き。けれど、盾の内側に入られた騎士にそれを防ぐ術はない。

「さようなら」


 単調な突きが、騎士の胸を貫いた。


 だが、スキル技ではなく、武器すら持たない、攻撃低スペックの(DOP)(PEL)(GAN)(GER)の一撃だ。

 不意をつかれたことに驚き、大したダメージではないと余裕を取り戻し、予想外の大ダメージに面食らって、HPが0となり絶望の表情をーー


「あれ?」

 眼前の騎士は浮かべていなかった。

 面食らうまではロキの想像通りだったにも関わらず、騎士の顔に浮かぶのは優しげな笑み。絶望どころか慌てる様子もなくーー消えもしない。


「超加速からの即死級攻撃か。まるで()のようだ」

 ロキは驚いた表情を作りながら(・・・・・)、焦ったように距離を取った。だが、実際は倒しきれなかったことへの驚きはあっても、焦りはない。

 ロキのチートーーより厳密に言うなら、ロキの模倣している(・・・・・・)チートの優位性は、一撃を凌がれたくらいでは揺るがないのだから。


「お返ししよう」

 騎士は赤く輝く剣を振り上げる。

 だがロキは、全力で逃げるでもなく、防御の構えを取ることもなく、余裕の笑みを浮かべていた。何せ、カンスト値(・・・・・)まで上がっているのは素早さと攻撃力だけ(・・)ではないのだから。

「アズカウンター」

 真っ赤な鋒がロキに触れる。

「えっ……嘘」

 それだけで、ロキのカンストしていないHPが削り切られた。

 驚き、余裕からの面食らって絶望。相手にさせたかった表情をロキ自身が浮かべる形となり、2人の戦いは誰よりも(・・・・)早く(・・)決着を迎えた。


【  チームL  VS   星狩りの剣  】

【 ロキ(Lv17)VS ガラード(Lv21(・・))】

【  LOSE        WIN   】


 こんにちは、銀です。

 後輩くん(チート)担当じゃないのかと思った皆様は驚かせてしまいましたね。

 でも、今回は防具(ARMOR)ガイドとして、ガラードの盾についての補足情報です。

 察してる方もいるかもしれませんが、あれは星具【楯座の盾(スキュータムシールド)】。使用者のHPが0になった時、MPをHPに変換して回復する特殊効果を持っています。

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