U18トーナメント 開幕
「来たな」
王国領域の闘技場。息も絶え絶えに辿り着いたその入口の前で、漆黒の魔法使いが仁王立ちしていた。
「おま……な、何で……そんなとこに、いるんだよ」
正確な時間は確認してないが、余裕も持ってついたわけじゃないはずだ。
「細かいことは気にすんな。それより、早く行くぞ」
「わ、わかってる……」
「いいから。早く行くぞ」
そう言って、レフトは進もうとする俺の手を引っ張って、進ませまいとしてくる。
言ってることとやってることがちくはぐだ。急げというのに邪魔してくるし、焦ってる様子もない。むしろその表情は、笑いを堪えきれないようにニヤついていて……
「お前……ロキか?」
「おっ、今度は早かったな」
魔法使いの顔で驚いて、ミュージシャンはニヤリと笑う。流石に2度目だから驚きはない。あえて気にすることがあるとすれば。
「なんでお前がここにいるんだ?」
「お前と同じだよ」
「ってことは、U18トーナメントの参加者か……」
また面倒なことになってきた。
そんな事を考えていると、ボーンと、闘技場のほうから銅鑼の音が聞こえてくる。
「ほら、始まるよ」
そう言って笑ったロキの体は光り輝いていた。いや、ロキのだけじゃない。俺の体も輝いている。
「どうなって……」
「きっと、レフトはわざと言わなかったんだろうけど、受付のレニウムに伝えれば、参加メンバーはどこにいても控え室に転送されるんだよ。
ログインさえしてればな?」
「なっ……それをーー」
早く言えよ。
という俺の声は転送にかき消された。
【控え室】
色を取り戻したこの風景は、ロキがそう呼んだ部屋なのだろう。というか、闘技場の蘇生部屋だ。
その証拠に、俺達の向かいには【パナケイア】と思われるNPCが立っている。
「U18トーナメントへの参加、ありがとうございます」
パナケイアが恭しく頭を下げた。
「私は案内役の【バナジウム】と申します」
って、違うのかよ。
短く切り揃えられた茶髪に、派手さはないながらも整った顔。細身ながらも背が高く、着ているのは闘技場と壁と似たような地味なワンピースーーは試供品という設定なら同じか。
名前も似ているから関係者設定なのだろう。
うん。わからん。
レフトinロキ以上に見分けがつかない。
彼女を口説こうとしていたルークなら見分けられるのだろうか。
「【チームL】の皆様で間違いないでしょうか?」
「あぁ、そうだ」
バナジウムの問いに、いつの間にか横にいたレフトが胸を張って答える。
「ってか、なんだチームLって」
「レフトのLだ」
「ロキのLでもある」
レフトに続き、反対側でロキが答えた。
「って、なんでここに?」
「言っただろ」
不敵な笑みを浮かべたロキの顔が迫る。真っ直ぐに迫ってくるイケメンは、直前で向きを変えると耳にふっと息を吹きかけて、
「お前と同じだって」
意味深に呟いた。
「……まさか」
「3人1組が条件だからな」
視線を向けると、レフトはあっさりと白状した。
「……さいですか」
レフトが呼んだのなら今は何も言うまい。
むしろ、その説明を聞いて腑に落ちたこともある。
レフトは俺と別れたあとでロキにも同じ待ち合わせ場所を伝えたのだろう。だから、そこに俺が来ることを知っていたロキは、あの場所にレフトの姿で現れることが出来たのだ。
「チームLの皆様。説明を再開してもよろしいでしょうか?」
「あぁ、続けてくれ」
不安げに聞いてくるバナジウムにレフトが答えた。
そこに異論はないので口は挟まないが、俺はLじゃない。軽いでも光でもない。断じてない。
「まず、今回は参加者が予定を上回る人数だったため、総当り形式の予選を行わせていただくことになりました」
バナジウムの言葉に合わせ、彼女の背後にテキストが表示された。聞き取れなかった人のための工夫だろうか。
「全12ブロックの予選で1位を獲得したチーム。及び、2位のチームから試合の合計時間の短かった4チームを加えた16チームにて、本戦のトーナメントを行って頂きます。
景品にも変更はなく、優勝チームには闘技場の1部を【拠点化】する権利が与えられます。
しかし、新たに増えた予選を勝ち抜いたことに対する景品が何も無いというは不憫だということで、各ブロックで1位になったチームには、領域解放戦に関わる情報が提供されることとなりました」
まくし立てるように説明し、バナジウムは頭を下げた。確かに、これは後ろの文章必要だわ。
「次に、予選のルール説明に入らせて頂きます」
バナジウムが、案内役らしく右手を上げた。そこに、5×5格子状の表が現れる。対角線の1本に線が引かれたこれは、試合の表だ。
「このブロックの参加チームは、4チーム」
その言葉に合わせて、表の1番上にIからL文字が浮かぶ。一瞬チーム名かと思ったが、他の参加者がレフトと同じ発想だとは思えないので、例なのだろう。
それを示すように、戦ってもいないのに表に〇と×の記号が現れた。
「試合の形式は1対1で、総当たり戦となります。アイテムの使用は不可能ですが、HP・MPは満タンの状態で始まります。なお、勝負に引き分けは存在しません。勝ちは1点、負けは0点のカウントとなり、チーム全体の勝ち点で勝者が決まります。同点のチームがある場合には、より早く決着をつけたプレイヤーのいるチームが勝者となります」
バナジウムの説明に合わせて、〇×が消えたり現れたりする。まあ、図解を見なくてもなんとなくわかる話だ。
聞き飛ばしても理解には困らないだろう。
「試合は全6試合が同時に行われます。なお、八百長を防ぐために、対戦カードはランダムに組ませて頂いております。質問がなければ話を進めようと思いますが、よろしいでしょうか?」
バナジウムの質問に合わせて、【はい】と【もう一度聞く】と【質問する】のボタンが空中に現れた。ここは迷わずに【質問する】を選択。
「質問はなんでしょうか?」
選択肢が消え、バナジウムが首を傾げる。
「試合と言っていたが、それは対戦が行われるということか?」
「いえ、違います。勝利条件は相手のHPを0にするか、ギブアップさせること。そのための手段までは規定しておりません」
想定の範囲内だったのか、バナジウムの言葉に淀みはない。
「例えば、じゃんけんなどで勝敗を決め、敗者がギブアップするのなら、それで試合は終了となります。1本勝負が不服ならば、対戦を行えば決着がついても、試合は終了とはなりません。以上です」
例題まで付け加え、バナジウムは得意げに胸を張った。心なしか口角も僅かにあがった気がする。質問の答えよりも、俺はNPCの自然な姿に思わず感心していた。
「それは勝手に決められるのか?」
「いえ、普段と同じです」
レフトからの質問にも、バナジウムは間をおかずに答える。だが、例題は付け加えて来なかった。相も変わらず、含みのある笑みを浮かべてはいるが。
「相手次第ってことか……」
戦闘に自信がないのか、ロキは静かに項垂れる。まあ、変身種族は全体的にステータスの低い種族だからな。
「他の質問がなければ転送しようと思いますが、よろしいでしょうか?」
バナジウムの質問に合わせて再度、【はい】と【もう一度聞く】と【質問する】のボタンが空中に現れる。
ここも迷わずに【質問する】をーー
「やってくれ」
指が空を切った。
レフトが答えたせいでボタンが消えたのだ。しかもその内容は俺が選ぼうとしていたのとは正反対。質問を打ち切る答えだった。
ジトッと不服さを込めた視線を送ってみる。
「お前が質問すると長くなるんだよ」
レフトは肩を竦め、半眼を向けてきた。
「今の質問は良かったけどな。それで、最低限のことはわかったからもういいだろ」
「いや、他にもいろいろと聞きたいことがーー」
「次に進んでも、よろしいでしょうか?」
少し声を張り上げて、バナジウムが聞いてくる。
「まだだ。まだ質問がある」
「もちろんだ。やってくれ」
はいといいえの選択肢は出てきたが、口で答えた。
が、レフトが反対の回答をしたためか、バナジウムは困ったような顔を浮かべる。いや、2人同時に喋ったから聞き取れなかっただけか。
ならばもう一度言おう。
「かしこまりました」
と、思った瞬間、バナジウムが頭を下げた。
時差で理解したのかと思ったが、違う。ボタンが押されたのだ。俺でもなく、レフトでもなく、ロキの手によって。
「では、転送を開始します」
しかもそれは、【はい】の方だった。
床に魔法陣のような幾何学模様が現れ、全身が輝き始める。控え室に転送された時と同じような光だ。地面を見なかったが、さっきも同じように魔法陣があったのだろうか。
「悪いな、ライト。今はレフトに賛成だ。それくらいは、わかる」
「残念だったな」
徐々に光に包まれていく中、2人は笑みを浮かべていた。
少しは申し訳ないと思っているのか、ロキは苦笑いを。
レフトは勝ち誇ったような強気な笑みを。
「くっ、覚えてろよ」
俺はベタな悪役風の捨てセリフを返すことしか出来なかった。
「では、ご武運を」
かくして、輝きは最高潮となり、景色が移り変わる。
この時、俺はバナジウムの言葉の意味を取り違えていた。いや、正しく言うなら、意味を軽くとらえすぎていたのだ。
転送された場所は、決戦の舞台だった。
こんにちは、銀です。
ついにU18トーナメントが始まりました。
待ち受けるプレイヤー達を前にライト達3人はどう立ち向かっていくのか。そして、勝利するのことは出来るのか。
彼らの戦いを心行くまでご堪能ください。




