ギシンの森 序章
オーガナイト討伐後、一旦ウォーロックに報告に向かったレフトと別れ、俺は基礎領域の中央広場に戻ってきていた。
レフトの試練はまだ続くため、クエストを受けている暇はない。道具なども十全に揃っている。
となれば、やることはスキルの整理だ。
俺が持っているスキルは5つ。最初からあった【戦士スキル】【斧スキル】【カウンタースキル】【文章スキル】とレベル5で増えた【物理防御力強化1】にレベル10で増えた【ストレージ拡張】だ。
今は【斧スキル】が【トマホーク】を習得するところまで、【物理防御力強化1】が最初の【物理防御力1%アップ】だけ習得済み。
ストレージはまだスペースが余ってるくらいだからとる必要はないし、【斧スキル】にめぼしい技はなく、【文章スキル】を上げる予定はない。
【戦士スキル】か【カウンタースキル】か。
ヴァルキュリア戦のレベルアップで得たスキルポイントを振れば、どちらも能力アップと技の習得がひとつずつだ。能力については、攻撃力と防御力の差はあれど、どっちを取ってもあまり変わらない。
器用貧乏に2つの能力だけをあげるという選択肢もない。
どちらに振り切るか、それが問題だ。些細な。
『斧を使いたいなら、盾かカウンターのスキルをオススメしますよ』
騎士の言葉が脳裏をよぎる。
せっかくのレア武器だし、メイン武器としては斧を使っていくことなるだろう。盾はスキルがなくても使えるし、せっかく持ってるカウンタースキルを取りたくない理由はない。
まあ、深く考えても仕方ないしな。
【物理防御力1%アップ】
【アームシールドを習得】
新しい技の習得だ。
ガラードの使っていたフットスタンプというのも使ってみたいし、相手にダメージを返す技の存在も気になるところだ。しばらくはこのスキルにポイントを振ってみることにするか。
斧でカウンター。
チートが使える時は先手必勝で、普段は後手必勝か。いや、後の先が取れても必ず勝てるとは限らないけど。
「待たせたな」
スキル整理が終わるのを待っていたかのようなタイミングで、レフトの声が聞こえた。全く待っていないが、ここはあえてこう答えよう。
「ああ、全く。待ちくたびれたよ」
「嘘つけ」
杖で叩かれた。
「すぐ来たんだ。そんなに待ってないだろ?」
「ごもっとも」
まあ、今回は俺の悪ノリが原因なので文句は言わない。
「で、次の目的地は?」
戦闘の準備は万端だ。
「王国領域だ」
◇
王国領域の西部は自然地区になっており、切り立った岩山や果ての見えない湖、鬱蒼と茂った森などが広がっている。
今回の目的地は森、その中でも【ギシンの森】というエリア名が付けられている場所だ。森の1部ではあるがダンジョンになっている為入口は1つしかなく、その入口の扉は閉ざされており、ビクともしない。
「急いできた意味なっ!」
横にあった立て札を読んだレフトが杖を木に叩きつける。八つ当たりへの報復のように、赤い実が落ちてきてレフトの頭にポスッと当たった。
「ライト」
ムスッとした顔でレフトが立て札を指さす。見ろということか。
┏ ギシンの森 侵入可能条件 ━┓
┃ レフト 15 ┃
┃ ライト 14 ┃
┃ ┃
┃ ┃
┃ ┃
┃ ┃
┗━ 合計レベル 029/106┛
なるほど。
「仲間が集まるまで待たなくちゃならないと」
参加者達による協力プレイ。その強制である。
少なくとも、他に4人の挑戦者が来るのを待たなくてはならない。あるいは、今から仲間を4人集めて連れてくるか。
その上で低いレベルでは、合計レベルの条件を満たせない。しかも、現時点での成長限界は21なので、106を満たすためには6人が必須だ。
「ルーク達を呼ぼうか?」
レベルは分からないが、他に呼べるプレイヤーは思い浮かばない。レフトはレフトでいるかもしれないが。
「……そう、するしか、ないか」
「いや、無理強いはしないけど」
そんなに歯を食いしばられると、呼びにくい。
そうして躊躇っているうちに、新たな来訪者が現れる。
「そんなにつらい内容なのか? 黒い魔法使いさんよ」
2メートル近い体躯を誇るオールバックの魔法使い。ライダーだ。魔法使いゆえに鎧はつけられず、防具らしい防具は胸当てだけだが、ちょっとやそっとの攻撃ではビクともしなさそうな迫力がある。
そして、このタイミングでここにいるということは、俺たちと同じペースで、ユリウスと【小領域の主】を倒してきたということか。
強そうなのは見た目だけではないらしい。
レフトに対する俺のように、その横にはスーツの女が寄り添っていた。
「ほう、これは厄介な試練だ」
ライダーは看板を見ても、余裕の笑みを崩さない。自分と、おそらく連れの女の名前を書いて、岩に腰掛ける。
ピコン、と目の前にメッセージウィンドウが表示された。
┏ ギシンの森 侵入可能条件 ━┓
┃ レフト 15 ┃
┃ ライト 14 ┃
┃ ライダー 19 ┃
┃ ゼクレテーア 16 ┃
┃ ┃
┃ ┃
┗━ 合計レベル 064/106┛
連れのOLはゼクレテーアというらしい。そして、強そうな見た目はしてないが、レベルは俺よりも高いと。いや、俺だって毎日ヴァルキュリア戦でデスペナ食らってなければ届くと思うが。
などと考えてると、ライダーが立ち上がった。
「待っているのも暇だな」
石の上にも3年という諺があるが、彼の気はそんなに長くないらしい。
「そちらに当てがなければ、我がギルドメンバーに声をかけようと思うが、どうかね?」
「ボス」
レフトに向けての質問だったが、ゼクレテーアが先んじて反応する。
「なんだ、テーア?」
「ギルドには、わたくしよりレベルの高いメンバーはいませんので、レベル条件が満たせませんわ」
「そうであったな」
失念していた、とライダーが豪快に笑う。
「それで、そちらにあてはあるのかね?」
「あるにはあるが、こっちもレベルはわからないな」
改めて問われ、レフトが答える。
でも、俺の、伝手だからな? リアルではお前も知り合いかもしれないが、ゲームで繋がってるのは俺だからな?
「まあ、当たるだけはーー」
「その必要はないぜ」
そう答えたのは、いつの間にか入ってきていた狩人風の男だ。
そして、見た目はらしくないが、このタイミングで現れたということは彼も魔法使いなのだろう。
「連れも遅れてくるんで、合わせて6人。丁度だろ?」
飄々とした笑みを浮かべながら、立て札を操作する狩人。
┏ ギシンの森 侵入可能条件 ━┓
┃ レフト 15 ┃
┃ ライト 14 ┃
┃ ライダー 19 ┃
┃ ゼクレテーア 16 ┃
┃ オルバー 21 ┃
┃ ジャスティス 18 ┃
┗━ 合計レベル 103/106┛
扉は開かない。
「ギルドへゆくぞ。テーア」
「かしこまりました」
同じ表示を見て、ライダーとゼクレテーアは即座に動き出す。ギルドにレベルを上げるあてがあるのだろうか。
「俺達は……どっかでレベル上げするか」
ヴァルキュリア戦で上がったばかりで上げるのは大変だろうが、俺が1番弱いしな。
「……あぁ、そうだな」
「暗い顔してどうした?」
「なんでもない」
なんでもありそうな顔だったが、話したくないのなら仕方ない。レフトを連れて離れようとするも、目の前にオルバーが立ち塞がった。
いつもならレフトを呼び止めたと判断するところだが、今回は心当たりがある。
「……何の用だ?」
俺が答えると、オルバーは満足気に頷いた。
「ちょっと力を借りたいんだが、今ヒマか?」
暇ではないのはわかっているだろうが、あえてこの言い回しをするということは、あの時と同じ要件なのだろう。
「悪いが、俺もレベル上げないと行けないから暇じゃないな」
「まあ、それはそうか」
表向きの文言に乗っかりつつ、やんわりと断るも、オルバーの余裕は崩れない。
「なら、ストックをやると言ったら?」
「ストック?」
「ストック経験値だ」
「いや、意味は知ってる」
序盤のプレイヤー間の格差をなくすためか、レベルには21という成長限界が設けられている。では、それを超えてモンスターを倒した時に経験値はどうなるのか。
その答えがストック経験値である。
いつでも使える経験値として溜まっていき、上限が解放されたらレベルに還元されるようになっているのだ。そして、このストックは他者への譲渡も可能となっている。
オルバー自身のレベルは21なので、ストックを持っていることは不思議じゃない。
だが、
「どうして、俺にこだわるんだ?」
「こだわってるつもりはないが……」
一呼吸置いて、オルバーが続ける。
「お前が強いことは知ってる」
その言葉に嘘は感じられなかった。
いつ? どこで?
初めて声をかけてきた時から知っていたのか?
コフの庭園での一件があった直後。あの時点で、俺の強さを知っていた黒い弓を持ったプレイヤー。
「まさか、お前がーー」
一歩踏み出した瞬間、チートが発動した。
「ーーーー」
「俺が、なんだ?」
オルバーが続きを促してくるが、その先の言葉を口に出すことは出来なかった。
「……なん、でもない」
ニコラ(仮)の協力者はこの男ではない。思い返してみれば、彼女、と言っていた。毒矢の相手は女性プレイヤーだ。
外見が男性プレイヤーの可能性は否定出来ないが。
「経験値をくれるってんなら、行ったらどうだ」
話が進展しないと思ったのか、レフトが口を挟む。
「怪しいヤツだが、嘘をついているようには見えない」
「辛辣だな」
歯に衣着せぬ物言いに、オルバーが苦笑する。
気持ちを切り替えろ。
解決しない問題は考えない。まずは、ギシンの森に入るためのレベル条件をどうやって満たすかだ。
「……俺とレフトの2人分のストックを用意出来るか?」
「悪いが、用意出来るのは1人分だけだ」
「なら、経験値は1ーー」
「悪いが、連れて行けるのは1人だけだ」
俺の言葉を遮って、オルバーが言う。
受けるか、断るか。選択肢は2分の1に絞られた。
レフトは言いたいことは言ったとばかりに腕を組んで笑みを浮かべている。
「わかった。力を貸そう」




