キカイなヤツら
「うぉらァ!」
怒号と共に10体を超えるモンスターを消し飛ばした1人のプレイヤー。顔の半分以上が機械に覆われたその姿は、機械人間か。
ちょこっと豆知識によれば【機械人間】は耐久型のステータスのはずだが、あの数のモンスターを一撃で倒したということは、レベルが高いのだろう。
モンスターを蹴散らした赤いハンマーも、胸につけた金色のプレートも、継ぎ接ぎだらけの黒いズボンも、見るからに初期装備ではなさそうだし。
「見つけたぞ」
性別基準はわからないが、角ばった顔とバリトンボイスは男性を彷彿とさせる。
男は豪快にハンマーを振り上げると、周囲のモンスター諸共、レフトに叩きつけた。
「くっ」
レフトは咄嗟に男の攻撃を受け止める。が、軽々と吹き飛ばされてしまった。
偶然当たってしまった、のではない。
「ようやく見つけたぞ、魔法使いレフト」
男は襲いかかってくるモンスター達を素手で軽くあしらいながら、レフトへと近づいていく。
「くそっ」
助太刀に行きたいところだが、モンスターが邪魔で上手く近づけない。
「これで終わりだ!」
男は大きなアクションでハンマーを振り下ろす。
レフトが転がって躱すと、男は地面に当たって弾いたハンマーを、力任せに振り回す。
レフトは立ち上がり、跳んだ。男は追いかけるようにしてハンマーを振り上げる。レフトは紙一重でその攻撃を躱した。
「お前もしつこいな、カーバレー」
「その名は捨てた」
鈍足なはずの機械人間だが、レベル差故か、確実にレフトとの距離を詰めてきている。
「今の我は、アーケイン!」
アーケインと名乗った男は不敵な笑みを浮かべ、高々とハンマーを振り上げた。
「アルカナを統べるものだ!」
赤く輝くハンマーが勢いよく振り下ろされる。
だが、直線的な攻撃を躱せないレフトではない。空振ったハンマーは勢いよく地面に叩きつけられた。
「無駄だ」
地面が揺れ、アーケインを中心としてモンスター達が消滅する。そして、離れていたはずの俺の動きが止められた。
「しまっ!」
スキル技の追加効果による怯み状態か。
近くにいたレフトも躱せなかったようで、動きが止まっている。その隙を逃さず、アーケインがハンマーを叩き込む。
魔法使いの体が軽々と吹き飛ばされる。
「まだ死なんか。しぶといな」
確実にトドメをさそうと、歩き出すアーケイン。その体が下がった。
「ぬ……」
蟻地獄だ。地表の騒動に新たな獲物の気配を感じて現れたのだろう。
アーケインは這い上がろうと必死にもがいているが、体は着実に沈んでいる。さっき俺がしたようにモンスターを生贄にしようとしても、掴むだけで倒してしまうので無理だろう。
「運がなかったな。アーケイン」
抵抗を諦めた大男を見下ろしながら、レフトは杖を構える。
自身の守りが疎かになっているが、近くにいたモンスターはアーケインが消し飛ばした上、残った個体も蟻地獄へは近づいていかない為、狙われる心配は無さそうだ。
一方、蟻地獄から離れている俺の元にはハンマー攻撃の余波を免れたモンスターが寄ってくる。
目下対処すべき敵は、ラビーヴァとヤゴ(仮)に、2匹の蝙蝠(仮)を加えた4体の群れか。
「行くぞ!」
開幕の合図代わりに幼虫へ剣を振り下ろす。レベル6に達した俺のひと振りは、ラビーヴァを一撃で粉砕した。
続けて剣を振り上げ、蝙蝠を切りつけるーーが浅い。
「ファッ!」
蝙蝠が負けじと空気砲を放つ。
HPが僅かに削られ、ゲージの色が緑から黄色に変わった。半分を切ったのだ。だが、怯まなければ問題はない。剣を振り下ろし、切り裂く。
蝙蝠はポリゴンの欠片となり、消滅した。残るは2体。
体を回転させるようにして、蝙蝠に袈裟斬りを浴びせる。今度はしっかりと当てることが出来、蝙蝠は一撃で消滅した。
あと1体。
ヤゴは、顎を鳴らせながら迫ってくる。
攻撃自体はラビーヴァの体当たりと変わらない。つまり対処法も同じだ。剣を構えたままギリギリまで引きつけて、
「ラーヴォ!」
「ここだ」
サイドステップで攻撃を躱し、無防備な背中へ向かって剣を振り下ろす。
「ラーヴォ!」
ヤゴはポリゴンの欠片となり、消滅した。
「っと、回復しとくか」
まだ半分残っており簡単に死ぬHPではないが、モンスター達は未だ増え続けている。
指をスライドさせ、メニューを表示。アイテムの欄を開いて、HP回復ポーションをーー
「あれ?」
初期手持ちとして2種の回復ポーションが10個づつあったはずだが、今は【MP回復ポーション】しか入っていない。
「しくじったな」
「しくじりましたか」
思わず呟いた一言が誰かとシンクロした。
そちらを向くと、黒い逆立った短髪に、水色のコートを纏った男がいた。人ではあるようだが、その見た目から職業の予想はつかない。
手には短剣を持っているが、構えてはいない。
それでも彼は襲われず、むしろモンスター達は彼を避けるように他のプレイヤーの方へ向かっている。
「お前は、何者だ?」
斧を向けつつ訊ねると、男は静かにこちらを向いた。
その手には奇妙な音を発する赤い木の実がひとつ。
「そのアイテムが、このスタンピードの原因か?」
「目敏いですね」
俺の疑問に、男は小さく笑みを浮かべる。
「スタンシード」
「何?」
「このアイテムの名前ですよ」
見せびらかすように男は赤い木の実【スタンシード】を掲げ、勢いよく地面に叩きつけた。木の実が潰れ、悲鳴のような不快音が響き渡る。
とっさに耳を塞ごうとするが、体が動かない。
スタン状態だ。
「名前の通りの効果でしょう? さらにーー」
男が短剣を投げてくるが、動けなくては避けられない。短剣は肩に刺さり、僅かなダメージが入る。
そして、HPバーの横に表示される雷のようなアイコン。
「武器に錬成することで、敵を確実に麻痺させます」
このゲームにおける麻痺状態は、効果時間の長いスタン状態のようなものだ。時間が経ってば自然回復するし、解除用のアイテムも存在する。
まあ、持っていないし、持っていても自分には使えないのだが。
「1度きりですが」
そういいながら、男は短剣を引き抜いて、足に刺してきた。実証のつもりかもしれないが、すでに麻痺しているので真偽は不明だ。
「極めつきは、種を少しだけ傷つけた場合。この場合は漏れ出る音でモンスターを引き寄せる効果がーー」
「ずいぶん、詳しいんだな」
「それほどでも」
トン、と体が押される。麻痺状態では力を入れることが出来ず、斧を構えた姿勢のまま後ろに倒れてしまう。
「あぁ、そういえば、最初の質問に答えていませんでしたね」
短剣を構えながら、男が笑顔で見下ろしてくる。
「私はムウシ。あなたとの初の対戦が今日でよかった」
喉元に短剣が突きつけられる。
直前のものとは違う、黒い刀身に金色の龍が彫り込まれている高そうな短剣だった。投擲用とは別なのだろうか。
「さあ、ショウタイムと、おっと!」
不気味な笑みを浮かべていた男だが、突然、大きく後ろに飛んだ。
瞬間。男がいた場所を、火球が通過した。
「……マジシャン」
何があったのか確認するために起き上がる。……起き上がれた。麻痺は自然回復したらしい。
正面には、杖を突き出して走って来る黒い魔法使い。
「回復しろ!」
叫びながら、小さな箱を投げてくる。
あの箱は、プレイヤー間で物のやり取りをするときに物を見られたくない人が使う包装機能だ。本来は。
レフトは投げやすいようにしただけだろうが。
足に刺さった短剣を抜きながら、箱を受け取ろうと手を伸ばす。
まっすぐこっちに向かってくる箱を見ながら『コントロールいいな』と思っていると、短剣が箱を貫いた。
短剣は勢いをなくしてその場に落ち、箱は中身と共にポリゴンの欠片となって消滅した。
反射的に振り返ると、短剣が飛んできていた。
身体を転がして、なんとか躱す。起き上がるよりも前に顔を上げて状況を確認。
――そこに男の姿はなかった。
気がつけば、あれだけいたモンスターの群れもいなくなっている。原因たるムウシがいなくなったからか。
「ライト! 大丈夫か!」
レフトが周りを警戒しながら、隣にしゃがむ。
「ああ、大丈ぶくっ!」
「いいから回復しろ! 死ぬぞ」
今の頭への一撃もダメージ判定でてるんですけど。とは口にしないで、差し出されたHP回復ポーションを受け取り、一息に飲み干す。
「ったく、アイテムは十全に揃えとけよな」
「悪かったな」
待たされたり、プレイヤーに襲われたり、予定外のことが起こり過ぎただけで、本来なら初期分で足りるはずだったんだ。
もっとも、1番使ったのはコルニスと戦いなのだが。
「……なあ、俺たちの共有ストレージ作っておこうぜ」
共有ストレージとは通常のアイテムストレージとは別に二つ作れるストレージであり、パーティーメンバーで道具の共有をしたい時などに作るものだ。
許容量は人数×2であり多いわけではないが、備蓄枠とは違いストレージなので戦闘中に出し入れすることが可能。
と、ちょこっと豆知識に書いてあったものである。
「今回みたいなことがあった時のためにな」
アイテムを短剣で落とされたことを気にしているのだろう。
「わかったよ」
了解の意を込めて、こちらから作成の申請を送る。
「ところで、アーケインは倒したのか?」
「いや、蟻地獄に飲まれただけだ」
「そうか」
ヤゴの消化が終わって次の獲物を狙いに来たってところか。まぁ、俺やレフトじゃなくてよかったと思っておこう。
「話してた感じだと、知り合いなのか?」
「ん? あぁ、ベータの時のな」
レフトは手元に現れたウィンドウをいじりながら、答えた。
「なかなかにぶっ飛んだやつだぞ」
「だろうな」
それは見てたらわかる。
「こっちに来てたムウシは?」
「知らないプレイヤーだな。見た目が違う可能性はあるが」
「たしかに」
ベータテストの時と同じ姿である必要はないからな。
レフトやアーケイン(元カーバレー)は2人の反応からして同じ姿を使用しているようだが。
「……よし! これで大丈夫だな」
レフトが申請を受け入れたことで、空白だったストレージ枠の1つが共有に変わった。と思われる。見た目の変化はないが、問題はないだろう。
名前も変えられるらしいが、その辺はレフトに任せるとして、
「で、呼び出した用件は?」
俺は呼び出されたからここにいるのだ。他に何かあるわけじゃないが、それだけは聞いておかないと。
「ああ。実は、協力してほしいクエストがあるんだ」
そう言って、レフトは不遜な笑みを浮かべた。
皆さん、こんにちは。
今回は武器とD装備について。
アーケインとムウシは初期装備とは思えない武器を持っていましたね。レフトと同じベータテストの出身だから、D装備なのではないかと思いましたか?
1話前のレフトを思い出してください。衣装は凝っていたのに、杖は簡素なものだったでしょう。
何が言いたいのかというと、武器はD装備には出来ません。つまり、あの2人は発売日の午後には、何らかの方法でレア武器を手に入れていたということです。
只者ではありませんね。何者なのでしょうか?
と、謎を残したまま、物語は新たな局面を迎えます。




