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公式チート・オンライン  作者: 紫 魔夜
第1章 戦いの始まり編

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洋館のクエスト

 レフトの依頼を受け、俺たちはコンビニを訪れていた。もちろん現実ではなく、ゲームの中だ。幻世(コスモス)は現実を摸しているから、実際にあるコンビニだろうが。

 目的は装備の新調である。

 (デザイン)装備は幻世(コスモス)でも反映されるらしく、リアルな世界には不釣り合いなローブを翻しながら、レフトは勝ち誇った笑みを浮かべる。

「ベータテスターである俺が、手本を見せてやるよ」

 混沌の世界(カオスワールド)のほうで試したから、手本はなくても大体はわかるのだが。

 ちなみに、俺の服装は無地のTシャツに短パンという初期設定のままの服装だ。流石に味気ないので、VRY(ブライ)が溜まったら買い揃えようかとは思っている。

「いらっしゃいませ」

 レジの前に立ったレフトに向かって、コンビニの制服に身を包んだNPCの女性が丁寧に頭を下げる。


「レジですか? それとも、買い物ですか?」

【レジ】【買い物】【やめる】


 女性店員の言葉に合わせて、ウィンドウが現れた。【レジ】という選択肢は向こうではなかったな。

「買い物だ」

 レフトが答えると、ウィンドウが消えた。ボタンではなく、声で答えることも出来るらしい。

「かしこまりました」

 店員が頭を下げると、いかにもゲームな買い物画面が現れる。これも声に反応するのだろうか。

「HP回復ポーションを2つと、MP回復ポーションを1つ、それから解痺(かいひ)ポーションを3つ」

「HP回復ポーションを2個。MP回復ポーションを1個。解痺(かいひ)ポーションを3個ですね?」

 おぉ、すごい。

 もしかして、向こうのも声で出来たのか。

 ちなみに解痺(かいひ)ポーションとは麻痺を回復させるためのアイテムである。それを3個とか、さっきの戦闘引きずり過ぎだろ。

「そうだ。ストレージに入れてくれ」

「かしこまりました」

 店員は短く頭を下げるが、レフトは待たずに戻ってくる。

「ありがとうございました」

 店員は客がいなくなっても律儀に頭を下げていた。こういう所はNPCらしいな。


「何か質問は?」

 得意気な顔を見せられると質問したくなくなるのだが、残念ながら1つだけ確認しておきたいことがあった。

「レジってのはなんだ?」

「あぁ、それか」

 レフトは辺りを見渡したかと思うと、おもむろにデザートの置かれた棚に手を伸ばす。その中からシュークリームを掴むと、レジに叩きつけた。

「レジで」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 店員が頭を下げると、【少々お待ちください】という文字が浮かび上がる。

「なぁ、レフ――」

「黙ってみてな」

「…………」

 はい。

「……………………」

 字面から予想した通りっぽい。言葉で説明してくれればそれで納得したぞ。ほぼ使わないだろうし。

 と、無言で訴えかけてみるが、レフトはどこ吹く風といった様子だ。

「在庫の確認が出来ました」

 文字が消え、店員が顔を上げる。

「これで」

 キザな魔法使いは無駄にキメたポーズで、スマホを取り出した。

「かしこまりました。こちらのコードを読み込んで、精算を行ってください」

 店員の言葉を聞いて確信した。

 要するに、現実のコンビニの商品を幻世(コスモス)で購入したのだ。

「あとで【取りに行く】よ」

「……かしこまりました」

 スマホをかざしながらレフトが宣言すると、一瞬だけ店員の動きがぎこちなくなった。聞かれる前に答えたから処理に時間がかかったのか。

「ありがとうございました」

 深々と頭を下げる店員には目もくれずに、レフトが戻ってくる。


「わかったか?」

「……十分にな」

 ふてぶてしく答えたつもりだが、レフトは気にした様子もなく笑った。全くこいつは……

「他には?」

「とくにない」

「なら、お前も必要なものを買っとけよ。回復アイテム、とかな?」

「わかってるよ」

 レフトと入れ替わるようにしてレジに向かった。

「いらっしゃいませ」

 店員はレフトの時と同じように頭を下げる。まあ、人によって対応が変わっても困るのだが。


「レジですか? それとも、買い物ですか?」

【レジ】【買い物】【やめる】


 言葉と共に選択肢のウィンドウが現れる。

「買い物で」

 レフトに倣い、ボタンは押さなかった。

「かしこまりました」

 店員が頭を下げ、買い物画面が現れる。

「とりあえず、HP回復ポーションを3個で」

「HP回復ポーションを3個ですね?」

「はい。ストレージに入れてください」

「かしこまりました」

 店員は短く頭を下げる。同時に道具の追加と所持金の減少を示すウィンドウが現れ、消えた。さっきは見えなかったから、買い物をした本人にしか見えないものだろう。

 店員は顔を上げて、にっこりとした笑みを浮かべる。


「他に何かございますか?」

【レジ】【買い物】【やめる】


 問いかけともに表示させる選択肢。もう一度、買い物を選択した。

「かしこまりました」

 店員の反応や買い物画面にさっきと違いはない。

 細かく買い揃えるのは後にして、武器も見ておくか。


「あ、武器は買わなくていいぞ」


「え?」

 レフトの声が聞こえ、振り返る。

「武器は買わなくていいぞ」

「なんで?」

「理由は後で説明してやるよ」

 レフトは不敵な笑みを浮かべていた。


 ◇


「で? そろそろ教えてくれるのか?」

 幻世(コスモス)にある鬱蒼(うっそう)とした森の中。昼間だというのに太陽の光が届かないその場所に、ひっそりと存在する古びた洋館。侵入者を拒むかのように固く閉ざされた扉の前で、レフトは立ち止まった。

「あぁ、そうだな」

 振り返ったレフトは不敵な笑みを浮かべている。

 この洋館がクエストの目的地であることは教えてもらったが、次は何を話してくれるのか。


「【魔導師ウォーロック】の弟子の1人に【ユーサイズ】という魔法使い(メイジ)がいたらしい」

 レフトは楽しげな表情でストーリーを語り出す。

「そいつは優秀だった。だが、人間としては未熟だった。

 だから、ウォーロックは強い魔法を教えることを躊躇っていた。そのことを知ったユーサイズは、数冊の魔法書を持って出奔。この【星月夜の洋館】に身を潜めて、独自に魔法の研究を続けているらしい」

「なるほど」

 ありがちな設定のような気はするが、クエスト1つのためにそのストーリーがあると考えると、感慨深いものがある。

 だが、知りたいのはそこじゃない。

「そんなに焦るなよ」

 思ったことが顔に出ていたのか、レフトは心を読んだかのように答える。

「そのユーサイズだけどな、実力は本物なんだよ。力だけじゃなくて、頭脳もな。そんな奴が無防備に、丸腰でこんなところにいるわけが無いだろ?」

「仲間がいるってことか?」

「んー、仲間ってよりは手下だな。はぐれ者とか悪人とか罪人とか、表舞台に居られない奴らが集まってきて、それを従えてるみたいな」

「なるほど」

 先が読めた。

「つまり、その手下が武器をドロップするってわけだ」

「あぁ、それも店売りよりいい武器をな?」

 俺の推測に、レフトはにやりと笑い返す。一応知りたかったことは知れたが、同時に新たな疑問が発生した。

 ここまで伏せていないといけないことか? 

「誰かに聞かれたら困るだろ」

 レフトが俺の心を読んだかのように答える。顔に出ていたのだろうか。

 と、そんなことはどっちでもいい。

「聞かれたら困るか?」

 落とすアイテムは店売りより高価な武器かもしれないが、そもそもクエストで入手出来るものならば、聞かれたところで関係はないはずだ。

 何日か経てば攻略サイトにだって公開されるだろう。

「残念ながら困るんだよ」

 レフトはふっと勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「今はまだ言えないが、この洋館で手に入るのは、武器だけじゃないんだからな」

「……そうか」

 これ以上は、聞いても教えてくれないだろう。


「じゃあ、行くぞ?」

「あぁ」

 レフトがゆっくりと手を伸ばし、扉に触れた。重厚な扉が光を放ち、一瞬にして消える。同時に荘厳な洋館さえも跡形なく消え去っていた。

 目の前に広がるのは広く深い暗闇だけ。

「どうなってんだ……よ?」

 状況を把握しているであろうレフトに聞こうとして、その姿がなくなっていることに気がついた。

「おい、レフト」

 振り返ってみるが、どこにもいない。背後にあった林道さえも消え去っていた。

 気がつけば、俺の服装も革製のよろいに変わっているし、腰には剣がぶら下がっている。


「もう、始まってるのか……?」


 俺のつぶやきに答えるように、闇の中で何かが紅く光を放つ。鬼火のような紅い光は、左右に揺れながら、少しずつ大きくなっていく。いや、違う。近づいて来てるのだ。

「コー……シュー」

 闇の中に浮かび上がったのは、兜を被った人の顔。ただし、死んだ人間の、とでも表現するべきだろうか。右半分は腐敗し、左半分は骨が露出。頭上の兜も壊れかけだ。

 おおよそ生気というものが感じ取れないながらも、眼窩では紅い鬼火が静かに燃えている。

「コー……シュー」

 ゆっくりとその全身が明るみに出た。

 身に纏うのは重厚な鉄の鎧。その下からのぞく肉体は人の形を保っているが、場所によっては骨が露出するほどに抉れている。右手などは完全にただの骸骨だ。

「ゴォー!」

 耳をつんざくような叫び声。見た目といい、演出といい、クオリティは凄いが、凄すぎてちょっと引くレベルだ。

「シュー!」

 異形の頭上に赤い下向きの三角形が出現する。モンスターを表すカーソルだ。その上には【ローグ・コープス】という固有名と緑色のHPバーが表示されている。

 ローグの意味は、悪人だったか。コープスの厳密な意味は知らないが、ゾンビ系統を示す言葉だろう。

「ゴォー……シュゥー」

 いつの間にか、【ローグ】の右手に片手斧が握られていた。どこから取り出したのかわからなかったが、気にしても仕方ないのだろう。

 真っ暗だった空間は、いつの間にかボロボロになった部屋へとその姿を変えていた。

 ローグの手元で、夜空を写したような黒い斧が怪しげに光る。

 それが開幕の合図となった。

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