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『――――の事、よろしく頼むね、ユウ君』
とある大切な人の母親に言われたたった一言の台詞だ。
陽だまりを彷彿とさせるその一言が、真っ黒で空っぽの頭に響き渡ってゆく。まるで黒のパレットに白の絵の具を落としたように。
――でも。
自分はどうすればよかったのだろう?
自分はどのように行動していけばいいのだろう?
ぐちゃぐちゃと、頭の中でそのふたつの疑問が掻き混ぜられていく気がした。
それこそ、灰色のように。
「――…………………………、」
かれこれ生まれてからの朝の数だけ経験しているが、いまだに『目が醒める』瞬間というものはひどく曖昧だと思う。カーテンの隙間から零れる朝日が、ボンヤリと黒く開きかけの眼に光の筋となって頭の中まで差し込んでくる。靄のかかった思考が、それでいつものように再稼働する。
「…………、」
周囲を陽の眩しさで顰めてるだろう顔で観察してゆくと、この部屋――今の今まで寝ていたこの部屋は、記憶にある部分がひとつもなかった。
例えば、ワインレッドの生地に金色の刺繍が散りばめられたカーテン。
例えば、頭上にある、朝日を美しく反射するシャンデリア。
例えば、さっきまで惰眠を貪っていた純白のベッド。
などなどなど。
一見、何の変哲もない家具や調度品に見えるそれらは、しかし――。
(どこだ、ここは……?)
寝起きで跳ねてる黒髪をガシガシと掻きながら、眼を瞑る。
再稼働直後の頭をフル回転させ、昨日の記憶を遡行する。
――――昨日の重苦しい雨の空気の匂いと一緒に、不幸とともに蘇る『あの事』を思い出す。
『自分』と呼ぶ少年――柳刃優希と。
『彼女』と呼ばれる少女――短冊紗希の。
彼、彼女の――2人の、分かれ道となったあの日の事を。




