第19話 「誰でもできる仕事」の報告会
雨の夜から二週間後、王都で公開の査問が開かれた。
材料の不正は、王宮だけの問題ではなくなっていた。認可を受けて納められた設備は、各地の橋や倉庫でも使われている。
出席したのは、それぞれの領の代表と、王宮の監督者たちだった。
私は証言者の席に座った。
隣にはガルド親方。ベルトン技師は、検査した部品を前の机へ並べていた。
アダは来なかった。
町で授業を受ける予定を、変える必要はない。
彼女の作業記録は、親方が持参している。二番門の職人も署名したものだ。
フェラン様は、監督官の席にいた。
以前のように香油の匂いを漂わせてはいない。
商人と叔父も、その脇に座っている。
「材料の変更は、許容される範囲でした」
工務長がそう主張すると、ベルトン技師は検査結果を示した。
正規品と納入品を、同じ条件で動かしたものだ。
納入品だけが、仕様書の半分の負荷で傷んだ。
そこへ、製造所の責任者が出荷記録を出す。
作るときから、別の用途の材料だった。
「工務室の指示で、型番だけ合わせました」
責任者はそう述べ、指示書を提出した。
署名を検める間、室内に紙をめくる音が続いた。
私が急に強い魔法を使って暴いた事実ではない。
曖昧に済ませた人たちの記録が、今は順に読まれている。
次に、水門へ来た整備係の説明があった。
彼を派遣したのは、商人だった。
工務長が拘束される前に指示を受け、検査前の状態へ戻すよう言われたという。
持参した委任状は、封を開けた箇所の調査だけを認める古い書類だった。
水門へ入る際、停止中の機器へ接続するための説明書を、領の許可があるように見せかけていた。
「なぜ、調べる前の状態へ戻す必要が?」
査問官の質問に、商人は答えなかった。
フェラン様が、代わりに口を開いた。
「彼女が、無断で開けたからです。王宮を辞めたばかりの小娘が、自分の権限を勘違いし」
私は安全命令の写しを出した。
オルディン領の検査官が立ち会い、封を開けた日時が記されている。
そのとき、私は王都にいた。
「私が開けたものではありません。検査官の判断です」
親方が、立会いの記録を続けて出した。
整備係の入室を認めた役人の判断についても、別に調べることになった。
辺境伯は、その報告を隠さなかった。
自分の領の手続きにも欠陥があったと、私たちの書類へ添えていた。
最後に、王太子殿下が呼ばれた。
監督した事業の承認書が、机へ並べられる。
殿下の署名が、何枚もあった。
「報告は、工務長に任せていた」
「危険を知らせる別の報告も、届いています」
ベルトン技師の交換申請。私の材料費照会。領からの点検要求。
却下の署名も、殿下のものだった。
「こうした細かなことを、全部確認していては」
言葉が止まる。
殿下は、証言者の席にいる私を見た。
「リネット。君なら、なぜ気づかなかった?」
私は、持っている紙を揃えた。
「封の外から見えない材料も、ありました。図面を信用した箇所もあります。私にも見落としがありました」
殿下の表情が、わずかに緩んだ。
私は、続けた。
「だから、修繕の手順を変えています。使う前に材料を試し、別の人にも図面を見てもらいます。ただ、予算の承認や、不正な発注まで、修繕係一人では確認できません」
親方が小さく頷いた。
私は、殿下の言葉を借りる。
「誰でもできる仕事だと、おっしゃいましたね。覚えれば、私以外の人もできます。今も、町の見習いが覚えています。けれど、誰かが時間を使って、責任を持ってする仕事です」
殿下は何も言わなかった。
会場の後ろで、筆記係がペンを止めずに書いていた。
査問のあと、工務長は免職された。
王宮会計と各領の検査記録を証拠に、商人とともに横領、文書偽造、安全命令を妨げた行為で裁判へ送られた。
王都を発つまでの間に判決も届いた。双方の財産の一部が押さえられ、被害のあった設備の交換費と町の補償へ回される。
刑期については、私が決めることではなかった。
叔父については、私の賃金を受け取った金の流れと、母の家の賃料が確認された。
二年分の四十八枚が、家へ戻される。後見の終わった財産へ手を出す権限は、すでに失っていた。
商会の出資も、自分が関わった不正を免れる理由にはならなかった。
私には、三百三十枚の支払い通知が渡された。
銀行へ受け取りに行くと、数字の増えた通帳が戻ってくる。
金貨の山を見たわけではない。
それでも、今度は確かに、私の口座だった。
殿下の施設監督権は取り上げられた。
新しい監督官には、工務と会計を別々に報告する仕組みが渡された。
私が戻らなくても、王宮は直されていく。
それがわかると、ようやく、退職が本当に終わった気がした。




