第16話 封の下に隠されていたもの
ローデ様の机には、三種類の図面が置かれていた。
王宮の庭園で使う調整器。
市場の乾燥庫へ納めた耐熱線。
オルディンの水門へ納めた調整器。
どれも同じ商人を通し、工務長の認可を得ている。
「製造所の帳簿を、確認しました」
ローデ様は、図面の端に数字を書いた。
請求に使われた材料と、実際に出荷された材料。その単価が違う。
耐熱線も、通常品に色を付けたものだった。
私の指は、焦げた絶縁材の感触を思い出した。
「王宮で、同じものを使った場所は?」
「噴水の動力室です。昨年、設備を替えています」
私の知る図面は、工務室が渡した完成図だった。
そこには、耐熱線を使うと書いてある。
私は修繕のたびに、その表示を信じていた。
ベルトン技師と一緒に地下へ下りた。
噴水は退職後、止められたままになっている。
送水管の水を抜き、封のある箱を検査官の前で開いた。
「止めてあったのが幸いですね」
箱の中の線は、すでに飴色になっていた。
ベルトン技師は、ためらわずに切り離した。
隅にある小さな帰り線へ、私は探り針を近づける。
オルディンの水門で感じた、妙な戻り方だった。
「設計と違います。高い流量になったとき、停止の信号が別の端子へ行きます」
大きな魔法陣も、命令を伝える線は小さい。
線がひと筋ずれるだけで、機械は違う動きをする。
図面と内部を照らし合わせると、端子の位置が上下逆だった。
「これを、水門へ使っているのですね」
ベルトン技師が言った。
私の背中を、冷たいものが走った。
「町へ行く水を止める命令が、逃がす水路の門へ行くかもしれません」
その場で断言はできなかった。
水門の内部を、私はまだ見ていない。
ただし、同じ型番と製造所であることは、帳簿が示していた。
地上へ戻り、伝言石を使った。
辺境伯ではなく、親方の声が返ってきた。
『こちらも、封を開けた。戻り線がおかしい。今、旧式の操作盤へ切り替えている』
「新しい調整器は使わないでください。図面と違う材料です。熱で接続が外れます」
『わかった。一番門は終えた。二番と三番は、替えの歯車が要る』
強い流量で開閉するための歯車まで、仕様より薄かった。
手動へ切り替えても、その歯車は使う。親方は、予備を急いで集めているという。
私は製造所の住所をローデ様へ伝えた。
検査官は王都で交換部品を押さえ、領へ送る手配をした。
夕方、フェラン様が拘束された。
製造所への支払いにない金が、彼の縁者の商会へ渡っていた。
叔父の名も、その商会の出資者にあった。
未払いの賃金を材料費の帳簿へ混ぜ、材料費の差額を商会へ戻す。
書類の数を増やして、見る人が途中で諦める仕組みだった。
証拠は、私一人が揃えたわけではない。
銀行員、会計検査官、製造所の職人、ヴィヴィアン様の帳面。
それぞれが持っていた一枚を、順に合わせた。
翌朝、王妃陛下に呼ばれた。
検査の区切りで、出席命令を解除するという。
雇用契約についての支払い命令も下りた。立替分四十二枚が確認され、合計三百三十枚を受け取れる。
「こちらで、改めて修繕の責任者を務めませんか」
陛下は、私の顔を見てお尋ねになった。
報酬と権限を見直すという提案だった。
それは、以前と同じ条件の復職命令ではない。
私は一度、考えた。
「ありがとうございます。ただ、今はオルディンの仕事を続けたいです」
「そうですか」
陛下は私の決断を受け止めた。
そして、王宮の技師を一人、領へ派遣すると決めてくださった。
来たときと違い、帰りの馬車にはベルトン技師が乗る。
部品も積んでいる。
「若いころ、西辺で働いたことがあるんですよ」
技師はそう言って、腰へ工具袋をつけた。
私は握手をした。
修繕の仕事を、私は王宮へお返しした。
その仕事を引き受けた人と、今度は一緒に働くために帰る。
馬車が出る前、もう一度だけ伝言石を使った。
辺境伯が出た。
「明日から帰ります。四日後には」
『待っています。山に雨が続いている。道を急がずに』
私は石を布に包んだ。
馬車の窓の外、王都の空にも、低い雲が広がっていた。




