↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/24

第13話 王都へ行く理由を、私が決める

 召喚状には、出席する日時と、持参する書類が列挙されていた。

 私の雇用契約の控え。支払記録。材料の領収書。

 王宮で知った仕事上の情報について、必要な範囲で証言するよう命じる文面もある。

 叔父の手紙とは違った。

 戻って、殿下の機嫌を取れとは書いていない。


「王宮へ、行きます」


 朝の打ち合わせで、私はそう伝えた。

 親方は頷き、アダを自分の隣に呼んだ。


「水門のほうは、俺が見る。供給元は立会いを断ってきた。保証を盾にするなら、まず領の役所で安全命令を出す」

「必要なら、封を開けてください」

「お前が書いた戻りの記録がある。検査官の立会いで開けることになった」


 冬向けの運用を始めなかったことに、町の農家から不満が来ていた。

 灌漑用の水を一度多く流し、溝を洗っておきたいという。

 水門守りと親方は、手動で少量ずつ流す方法を選んだ。

 手間は増えたが、いきなり新しい調整器へ負荷を掛けることは避けられる。


 辺境伯は、領を空けられなかった。

 私も、付き添ってもらうことは望まなかった。

 雇用の問題で、彼まで王都へ呼びつけられるのは違う。


「顧問弁護士に同行してもらいます。護衛も二人」


 彼は地図を広げ、安全な宿場を指した。

 私は旅程に頷き、それから尋ねた。


「ご自分も、一緒に行きたいとは思わないんですか」


 辺境伯の指が止まった。

 聞かれたくないことを聞かれた顔だ。


「思います」


 私は少し安心した。

 聞き分けがよすぎると、自分だけが心細い気がしてしまう。


「ですが、あなたは一人で決められる人です。戻る場所も、ここにあります」


 机の端に、小さな伝言石が置かれた。

 領主館と対になった石で、短い声を送れる。長く使えば熱くなるため、伝えることは先にまとめる必要がある。


「仕事の連絡用ですね」

「もちろん。無事に着いたと知らせてください」

「ほかの話をしても?」


 辺境伯が、少し笑った。


「むしろ、そちらを待っています」


 私は石を受け取り、布に包んだ。

 失くさないよう、道具箱とは別に鞄の内側へ入れる。


 出発の朝、アダが玄関まで来た。

 ピップの灯りも持っている。

 線を取り替え、試験を終えたものだった。


「昨日、お父さんからお礼をもらったんです」


 彼女は、小さな干し魚の包みを差し出した。

 私が受け取ろうとすると、慌てて引っ込める。


「これは先生のじゃなくて、見せに来たんです。自分でもらったので」


 私は吹き出した。


「はい。あなたが直した灯りですから」

「でも、一つなら分けます」


 今度は本当に、一つを渡してくれた。

 私は礼を言い、旅の食料へしまった。


 王都まで四日。

 最初に町を出るときとは、馬車の中が違った。

 持っている書類を、私は読めるようになっている。

 何を聞かれたら弁護士に答えてもらうかも、相談してある。

 それでも王都の尖塔が見えたとき、胃が縮んだ。


 王宮の客室へは入らず、公証人組合の宿に泊まった。

 夜、伝言石を温めると、辺境伯の声が返ってきた。


『無事に着きましたか』

「はい。宿で夕食をいただきました」

『何でした?』

「魚の煮込みです。こちらはお砂糖を使わないんですね」


 食事の話をしていると、石の冷たい表面が気にならなくなった。

 私は窓を閉め、椅子に座る。


「今日は、王宮を見ただけで怖くなりました」


 少し間があった。

 石は相手の顔を映さない。だから、彼がどういう表情で聞いているかはわからなかった。


『明日は、何から話す予定ですか』

「契約です」

『では、その一枚をいちばん上に。順に話してください』


 励ましより、その助言が役に立った。

 私は契約書の控えを、鞄の手前へ移す。

 声を使う時間が、あと少しになった。


「帰ったら、航海の本を貸してください」

『もう、探しておきました』


 別れの挨拶をして、石を布へ戻した。

 机の上の鞄を見た。

 明日、王宮へ入る。

 呼び出されたからでもあるけれど、自分の仕事の値段を、自分の名前で話すためだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。