第13話 王都へ行く理由を、私が決める
召喚状には、出席する日時と、持参する書類が列挙されていた。
私の雇用契約の控え。支払記録。材料の領収書。
王宮で知った仕事上の情報について、必要な範囲で証言するよう命じる文面もある。
叔父の手紙とは違った。
戻って、殿下の機嫌を取れとは書いていない。
「王宮へ、行きます」
朝の打ち合わせで、私はそう伝えた。
親方は頷き、アダを自分の隣に呼んだ。
「水門のほうは、俺が見る。供給元は立会いを断ってきた。保証を盾にするなら、まず領の役所で安全命令を出す」
「必要なら、封を開けてください」
「お前が書いた戻りの記録がある。検査官の立会いで開けることになった」
冬向けの運用を始めなかったことに、町の農家から不満が来ていた。
灌漑用の水を一度多く流し、溝を洗っておきたいという。
水門守りと親方は、手動で少量ずつ流す方法を選んだ。
手間は増えたが、いきなり新しい調整器へ負荷を掛けることは避けられる。
辺境伯は、領を空けられなかった。
私も、付き添ってもらうことは望まなかった。
雇用の問題で、彼まで王都へ呼びつけられるのは違う。
「顧問弁護士に同行してもらいます。護衛も二人」
彼は地図を広げ、安全な宿場を指した。
私は旅程に頷き、それから尋ねた。
「ご自分も、一緒に行きたいとは思わないんですか」
辺境伯の指が止まった。
聞かれたくないことを聞かれた顔だ。
「思います」
私は少し安心した。
聞き分けがよすぎると、自分だけが心細い気がしてしまう。
「ですが、あなたは一人で決められる人です。戻る場所も、ここにあります」
机の端に、小さな伝言石が置かれた。
領主館と対になった石で、短い声を送れる。長く使えば熱くなるため、伝えることは先にまとめる必要がある。
「仕事の連絡用ですね」
「もちろん。無事に着いたと知らせてください」
「ほかの話をしても?」
辺境伯が、少し笑った。
「むしろ、そちらを待っています」
私は石を受け取り、布に包んだ。
失くさないよう、道具箱とは別に鞄の内側へ入れる。
出発の朝、アダが玄関まで来た。
ピップの灯りも持っている。
線を取り替え、試験を終えたものだった。
「昨日、お父さんからお礼をもらったんです」
彼女は、小さな干し魚の包みを差し出した。
私が受け取ろうとすると、慌てて引っ込める。
「これは先生のじゃなくて、見せに来たんです。自分でもらったので」
私は吹き出した。
「はい。あなたが直した灯りですから」
「でも、一つなら分けます」
今度は本当に、一つを渡してくれた。
私は礼を言い、旅の食料へしまった。
王都まで四日。
最初に町を出るときとは、馬車の中が違った。
持っている書類を、私は読めるようになっている。
何を聞かれたら弁護士に答えてもらうかも、相談してある。
それでも王都の尖塔が見えたとき、胃が縮んだ。
王宮の客室へは入らず、公証人組合の宿に泊まった。
夜、伝言石を温めると、辺境伯の声が返ってきた。
『無事に着きましたか』
「はい。宿で夕食をいただきました」
『何でした?』
「魚の煮込みです。こちらはお砂糖を使わないんですね」
食事の話をしていると、石の冷たい表面が気にならなくなった。
私は窓を閉め、椅子に座る。
「今日は、王宮を見ただけで怖くなりました」
少し間があった。
石は相手の顔を映さない。だから、彼がどういう表情で聞いているかはわからなかった。
『明日は、何から話す予定ですか』
「契約です」
『では、その一枚をいちばん上に。順に話してください』
励ましより、その助言が役に立った。
私は契約書の控えを、鞄の手前へ移す。
声を使う時間が、あと少しになった。
「帰ったら、航海の本を貸してください」
『もう、探しておきました』
別れの挨拶をして、石を布へ戻した。
机の上の鞄を見た。
明日、王宮へ入る。
呼び出されたからでもあるけれど、自分の仕事の値段を、自分の名前で話すためだった。




