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第10話 直したはずの線が、また切れた

 その朝、三日前に直したばかりの乾燥庫から煙が出た。

 中には冬向けの薬草が入っている。

 火が出る前に止められたものの、棚の半分が湿ってしまった。

 私は現場に立ち、焦げた線を見た。

 自分の使った銅線だった。


「申し訳ありません。まず、保存できる薬草を出しましょう」


 倉庫係が、口を結んで籠を運んだ。

 普段はよく笑う人なのに、今日は何も言わない。

 私が直したから大丈夫だと、彼は扉を閉じたのだ。


 アダが駆けつけた。

 親方も続いて来る。

 私は施工記録を出し、線の位置と通した魔力を説明した。

 親方は焦げた端を折り取ると、鼻へ近づけた。


「妙な匂いだな」

「銅線に被せた絶縁材が、溶けています」

「温度が上がりすぎたのか?」


 私もそう考えて、熱の流れを確認した。

 調整陣は、予定した温度で止まっている。薬草を乾かす低い熱しか出していない。

 焦げているのは、新しく入れた線の周囲だけだった。


「残りの線は?」


 修繕室の棚から、同じ巻きを持ってきた。

 王都の商人が、先週届けた品だ。箱には王宮工務室の検査済みの印がある。

 ナナさんが納品書を広げる。

 通常の耐熱品より、少し高い。


 昼前、納入を仲介した男が呼ばれて来た。

 私が状態を説明すると、彼は焦げた線を遠目に見た。


「王宮認可の品ですよ。使う側が、魔力を通しすぎたのでしょう」

「その可能性も調べています。試験へ立ち会ってください」

「若いお嬢さんの魔法で試したところで、証明には」


 私は親方へ目を向けた。

 彼が、乾燥庫の調整器を外して持ってくる。

 私の魔法ではなく、実際の機器を使う。熱の目盛りを固定し、二種類の線を同じ長さに切る。

 ナナさんは、市の検査係も呼んでいた。


「私を信用しなくて結構です。両方を、同じ条件で見てください」


 仲介の男は、立会いの紙へ署名することをためらった。

 親方が、立ち会わないなら、それも記録すると言った。

 男は椅子へ座った。

 私は未使用の線を板へ置き、乾燥庫と同じ強さの熱を当てた。

 端が柔らかくなる。

 別の仕入れ先の線は、その熱で変わらなかった。


「検査印は偽物か」


 親方が低く言った。

 私は首を振った。


「印だけではわかりません。材料が途中で入れ替わった可能性もあります」


 触れたものの過去を読める魔法があれば便利だったろう。

 私に見えるのは、今ここで起きた反応だけだ。

 同じ線を使った修繕を、すべて探し直さなければならない。

 試験を終え、仲介の男は、商品を持ち帰って確認すると申し出た。

 私は断った。

 破片も未使用の巻きも、検査係が封をする。確認に必要なら、立会いの下で同じ品を渡す。

 自分だけで調べた証拠を、手放してはいけない。弁護士との面談で聞いたことが、ここで役に立った。


 辺境伯へ報告すると、彼は真っ先に事故の有無を尋ねた。

 怪我人はいないと伝えると、連絡係を呼ぶ。


「該当する設備を一度止める。必要なところは代用品を回そう」

「交換は、私が今日中に」

「いくつありますか」


 私は記録を見た。

 十一か所。

 言いかけていた言葉が止まった。


「親方と手分けします」

「そうしてください。損害の報告も必要です。倉庫係の話を聞き、何が残せたかを確かめて」


 その仕事から逃げたかった。

 線を交換するほうが、薬草を駄目にした人に会うより楽だ。

 けれど、辺境伯は私の代わりに謝るとは言わなかった。


 倉庫へ戻り、私は棚の前に立った。

 倉庫係は、薬草を紙の上へ広げていた。


「使う前の材料試験をしていませんでした。検査済みの表示を信用しました」


 彼は手を止めた。


「全部が悪くなったわけじゃない」

「はい。ただ、残りも薬師に確認してもらいます」

「それなら手配してくれ。使っていいか、俺には決められない」


 許してもらったとは思わなかった。

 必要なことを言ってもらえた。

 私は薬師への連絡をし、損害の一覧を一緒に作った。


 修繕室へ戻ると、アダが検査板を洗っていた。


「私、あの線で灯りを直しました」

「ピップの?」

「はい。熱は少ないけど、気になるから」


 私は頷き、回収を頼んだ。

 アダはすぐに走り出しかけ、扉の前で止まる。


「私も、使う前に調べなかったです」

「方法を教えていませんでした。次から一緒にします」


 彼女の責任と、私の責任を、同じにはしなかった。

 そうすると、自分の責任も逃げずに見られた。


 夕方、封をした材料箱に、立会人三人の名前を書いた。

 親方と私と、倉庫係。

 ナナさんは納品書の原本を保管し、写しを王都へ送る準備をした。


 箱の脇には、同じ商人が納めた水門の調整器の帳簿があった。

 私は二つの書類を並べた。

 推奨番号の筆跡が同じだった。


「親方。水門の立会い、返事は来ましたか」

「来月だとよ。人が足りないらしい」


 冬の本格運用には間に合わない。

 私は点検簿を開き、赤い線を引いた。

 何かを直す前に、止めなければならない仕事があった。

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