「新たなクオレマ」の物語
醜き者達への復讐を果たしたノエル。
すべてを見ていた人形師は、何を思うのか。
随分と派手な呪いをかけたものだ!人間の顔が絶望や恐怖で歪む瞬間、私にはこれが最上の娯楽さ。
面白いものを見せてもらったよ。ノエルとやら。
お前には感ずることはできなかっただろうが、お前の所業にクオレマの心がどれほど苦しみ苛まれたか、見ものだったぞ。
お前の願い通りクオレマはお前の事を覚えていない、自分が何者に動かされているかわからず怯え、激しく嘆く様は……
ああ、もしも私に慈悲の心が残っていたなら、思わず助けずにはいられなかったろう!
さて、お前はこの復讐劇においては才能があったようだが、この先はどうかな?
お前は関係のない罪なき者までその呪いで殺した。どんな代償があるか、それとも何もないのか、私には見当もつかん。
私はあくまでも三つ目を願った者しか殺したことがないのでね。
クオレマの器の中で、この惨劇をショーとして楽しんでいたティルグ・ベルヴェルグが賞賛のような、皮肉を語り掛ける。
ノエルの強い意思、恐ろしい復讐心にクオレマの意思が勝つことはできず、
この出来事はすべてノエルが一人で行ったもの。
しかし、自分一人の意思の力で人形の体を、呪いの力を使うことは容易ではなかった。
コレットを屋敷から連れ出した後、ようやく意識をクオレマに返したが、今のノエルにはこの老人の皮肉を相手にする力も残っていない。
ティルグ・ベルヴェルグがわざわざクオレマと自分の二人分の意思で動き続けていたのはこういう理由があったというわけだ。
ノエルよ、私は私を死の国へ連れ去ろうとする死神の姿を想像して、このクオレマという人形を作ったのだ。
まさかそのクオレマにそっくりな人間が現れ、これ程までの強い憎しみを湛えた悍ましき死神になるとは!
私は人間としての生の最後に、最高のものを手掛けることが出来たのだと確信した。お前のおかげだ。
無限の暗闇の奥からコツコツと足音が近づく。
それはやがて光のないはずの闇の中で不思議とその姿をはっきりと現した。
赤い瞳に銀色の長髪、白い法衣のような衣装に身を包んだその青年は、先ほどまで聞こえていた老人の声とは違う、少し高めのはきはきとした声で名乗った
「私が人形師ティルグ・ベルヴェルグ。死神に敬意を払うには姿くらい見せぬとな。
感謝をするぞ、ノエル・クオレマよ」
なんだ、あんた、死にかけの、いや、死んじまった老いぼれじゃあなかったのか?
ノエルはその姿に驚きようやく口をきく。
目の前に現れたその男の年頃は自分より少し年上の、二十代半ばといったところか。
「我々はもう人としての命を捨てた者。
ここでは己が望んだの姿でいられる、わざわざ死に際の醜い姿で現れるわけなかろう。
これは私がまだ人形師として人々に知られていた頃の姿だ」
人々に知られていた頃の姿か、人間を憎んでいると抜かしながら案外未練がましいんだな。
結局あんたも人間を捨てることはできないんじゃないのか?
「口の減らん奴め、かつて私は人を超えた天才として崇められていたのさ。
人でありながら上位者として扱われる快楽を凡人のお前は知らんだろう、本当に人を超えた私にはこの姿こそ相応しいというわけだ。
さて、私の姿の事などどうでもいい。あのような面白いものを見せられては、私はお前をクオレマとして認めざるを得ない。
お前にも望みの姿を与えようではないか」
ティルグ・ベルヴェルグがその手で見えない針と糸を操るような仕草を見せ、不思議なひも状の光がノエルの意識を取り巻く。
不死にして究極の人形師は、いとも簡単にノエルに新しい姿を与えたのだ。
青い瞳に黒い長髪。漆黒の法衣を纏った新しきノエルは、
目と髪の色こそ違えど今目の前にいるベルヴェルグの姿の模倣であった。
「ふっ、なんと悪趣味な奴だ」
「俺を殺したのはクオレマではなくあんただ。俺にとっての死神は、あんただからな」
人ならざる人形師は、この生意気な死神をいたく気に入り、愉快そうに笑った。




