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「人ならざる者」の物語

願いによってクオレマの一部となったノエル。

彼はもう「人ならざる者」。

そして、クオレマの器の中でもう一人の「人ならざる者」と対話をする。

「あんたがこの呪い人形を作った狂人か、初めて見た時からこの人形には何かがあると予感していた。

とんでもない芸術だ。いいや、執念か?」


ノエルは三つ目の願いによって、死と引き換えにクオレマの一部となった。

そして、クオレマをただの精巧なドールではない、呪いを齎す者として動かし続けてきた張本人、「ティルグ・ベルヴェルグ」の一部ともなった。


一体となった事でベルヴェルグの負の感情がノエルの中にも溢れてくる。


「あんたにも憎い者がいるんだよな?成し遂げたいことがあるんだよな?」


ノエルはベルヴェルグの怨念に同調を呼びかけたが、自分だけの聖域を、完璧なる存在を、ただの人の子に侵されたベルヴェルグには届かない。

彼は狂気の芸術家、そして完璧な作品であり呪いそのもの。それを恐れぬ者を歓迎するわけがない。

老人形師の冷たい声だけがその場に響いた。


「よくも私の作品に傷をつけてくれたじゃないか、小僧。お前は今に後悔するだろう。

人ならざる者に、呪いそのものになるという事がどういう意味か……。

クオレマとなった我らは二度死ぬことはない。長い旅の間に、お前は苦しみ、苛まれ続けるだろう。

なぜなら、お前は私と違う。人を愛している」


ベルヴェルグもまたノエルの心がわかる。

彼には憎い相手がいる、でもそれは愛する者たちを守るための人間らしい感情。

彼は人の体を捨てたが、紛れもない人間なのだ。

老人の声はさらに言葉を続ける。


「欲深き者も、罪なき者も、クオレマの呪いで惨めたらしく死に追いやる残酷さに、

お前のように人間であることを捨てられない者が耐えることが出来るというのか?

己の所業に嘆き苦しむクオレマの心にも耐えられるのか?」


忌まわしい肉体を捨てたノエルとベルヴェルグは今は魂か、死者の怨念か。

クオレマという器の中でお互いに姿は見えない。闇の中で対話をする。


「あんたはなぜ、呪い人形にこんなにも脆い心を与えた?

自己の矛盾に苦しみ、命を奪わせないでくれと懇願し、いつまでも死に慣れないこの人形は、

本当に完璧な存在だと言えるのか?」


老人形師はノエルの問いに答える。


「所詮お前はただの人間、お前はクオレマにはなれない。ここに来るべきではなかったな。

私はクオレマに心を与えたのではない、私にわずかに残っていたくだらない感情を、ここに捨てたのだ。

人を信じ、慈悲を持ち、自らの手で希望を与えることが出来るとおごり高ぶってる。

そんな愚かな人間の残りカスだ」


怒りと呆れの混じった声で語っていた人形師がふいに小さく笑う。


「それらは最早、この私には一片も残ってはいない。私の物ではない感情で、この人形があたかも人の様に苦しむさまを、私は観客として楽しんでいるのだ。

大いなる力を持ちながら、抗えぬ運命に絶望し打ちのめされる。

そうさ、私は命を弄ぶだけの無感情な死神を作ったわけじゃあない。人形とは人を模したモノ。

だから私の要らないものをすべてくれてやったのだ。故に、クオレマは「完璧な作品」。

そして私は死を超越し、恐怖を克服し、この完璧な作品と一体となり生き続ける。だが……

お前のような不純物が現れるとは誤算だった。くくく、私はまだ不完全だったようだな」


ベルヴェルグは己を完璧であると賞賛し、不完全であったとも嘲笑した。

これは彼の本心。その不完全さを突かれたからこそ、不純物を忌々しく思っているのだ。


「あんたがどれだけ捻くれているのかはよくわかったよ。そして俺がどんな運命を辿るのかも。

それでも……ベルヴェルグさんよ。あんたの力を、クオレマの力を少し貸してくれないか?

欲深く醜い人間の死に様を俺にも見せてくれないか?」


「お前も三つ目を願った強欲な人間だというのに、よく言う。

直接は見ていないが、お前の死に方はあまりに無残。さぞ苦しかった事だろう?」


老人形師は鼻で笑ったが、ノエルがこれからしようとしている事には反対する気はない。

そのためにクオレマは存在しているのだから。


「お前の狙いなどとうにわかっている。ここにはお前以外にも欲の塊のような人間の臭いがする。

クオレマはそういう場所に導かれるように、そして願い人を導くように出来ているのだ。

しかし……この力も体も、お前に使いこなせるかな?

ふふ、お前のような青臭い人間と話をするのはどれくらいぶりかわからないが、まぁ楽しませてもらった。

お前の憎しみとやらが、クオレマの力を使うのに相応しいかどうか見てやってもいいだろう。だが……」


声は次第に遠のき、ノエルに小さく囁く。


「この呪いは強い。使い方を間違えればどうなるかな?

私はどんな物語が展開されようが、楽しめるなら構わんがね」



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