0099
Side:黒金
あれから二年経った。
今日は仙太郎が元服する日だ。
そして義観さんと仙太郎が執権の家に行っている。
既に又太郎は十七歳になっており、そろそろ婚儀かとも言われているけど、まだ早いと言っている人もいるみたい。
僕は一応屋敷で待っているけど、又太郎と共に暇を潰している。
仙太郎の晴れ舞台の日に妖怪退治に出かける訳にもいかないからね。
仕方ないんだけど、暇をしている。
「本当に暇だ。オレの元服の時にも暇を潰していたのだろう? よく暇潰しが出来たな。
書も大半は読んでしまったので、今さら読んでもなぁ。ほとんど覚えてしまっておるし」
「そうだね。僕も暇な時に読ませてもらってるけど、もう覚えるくらい読んだよ。
そしてあの頃の事の嘘が多い事にビックリしたけどね」
「黒金はわざわざ自分が覚えている事を書き出してくれたじゃないか。
あの書、執権様がとても喜んでおられたぞ?
オレも複写してある物を読んだが、驚く事が多かった」
「私もですよ。あれは当時の事がとても分かりやすく書かれていましたしね。
源平の頃はそのような世であったのかと、大変に感じ入りました。
それに当時の京の都も……」
「そうですね。京の都の賊の件には笑ってしまいましたが」
「ああ、鎧を着ているが、下は褌のみというところですか。
アレは確かに貧乏臭いと言いますか、なんと言いますか……」
「袴を引っ掛けてしまう事があるので下は履かない。
という賊の言い分も分からなくはないのですが、それを貧乏くさいとは……ふふふ」
「ですが、その姿を想像すると本当に、ふふふふふふ……」
「確かに情けない姿ではありますからなぁ。
といっても武士ではなく賊ですから左様なものでしょう。
実際に賊の中には未だにそういった姿の者がおりますしな」
「「まあ!」」
「そういえば妖怪退治に行ってる山で何回か賊の討伐を行ってるけど、たしかに下は履いてなかったね。
おかげで濃い脛毛がハッキリと見えてたよ」
「「す、すね……ふふふふふふ」」
「まあ、賊なぞあんなものであろう。
実際にオレ達が妖怪退治と賊の討伐をしておるからか、鎌倉の町は昔に比べてようなったとも言われる。
町の中でも怪しい者は見ぬようになったしな」
「そういえば、そういう奴ら見なくなったね。最初の頃は確かに居たのに」
「そいつらが居なくなったのは、黒金の所為というか御蔭でもあるのだがな?
太刀や槍で襲ってくる者は叩き殺すし、殴りかかってくる者は薙ぎ倒すであろうが」
「それは僕に喧嘩を売ってくるのが悪いんだよ。
それで町中が安全になるのなら良いじゃない。
実際に表立って賊紛いの事をするヤツは居ないんだしさ」
「実際、黒金に殺されるとなれば一斉に止めたみたいだからな。
今は外から来た者達ぐらいであろう、鎌倉の町で賊を行うのは。
それもこちらに喧嘩を売ってきたら容赦なく始末しておるからな」
「結果として厳しくした方が賊が減るという事ですね?」
「ええ。賊も己らが殺されるような、危険なところには来ぬという事でしょう。
所詮は賊ですので、その程度と言えますがな」
「おっと、帰ってきたみたいだよ」
「そうか、帰ってきたか。これで仙太郎も一人前の男子であるな。
昔と比べて随分と落ち着いたとは思うが、それでもまず否という悪癖が治っておらん。
あれはどうにかならんものか」
「あの子はとにかく自分の知らないものには否と言ってしまうのですよね。
ですが何れそれが言えない時が来るでしょう。その時にどうするのか……」
「大丈夫です! なぜ晴れ舞台の日に、そのような事を言われねばならぬのですか」
仙太郎が入ってくるのを分かっていて、ああいう事をあえて口にしたね。又太郎はさ。
とはいえ、そう言われてしまう仙太郎にも問題があると思うんだけど?
未だに悪癖は治ってないし。
「まあ、言いたい事は分かるの。
そろそろ仙太郎も多少は落ち着いて熟慮する事を覚えねばな。
否とは言えぬ時が必ずや訪れる。それは間違い無い」
「はい。それは分かっておりますが……」
「ま、元服の日にこれ以上言うても仕方あるまい。
仙太郎は執権様の一字と祖先である源義国公にあやかって、足利仙太郎高国となった」
「足利仙太郎高国でございます。これからも宜しくお願い致しまする」
「仙太郎高国。これからもよろしく頼む」
「おめでとう、仙太郎高国殿」
「仙太郎高国殿、立派になりましたね」
「ははっ!」
「仙太郎の婚姻相手はまだ決まっておらぬ。
血筋の事もあるでな、ワシも色々と悩んでしもうたわ。
その所為で未だ決まっておらんのだ。すまぬな」
「いえ、父上が悩まれるのは最もと思います。
私も血筋の事を言われると、なかなか難しいとしか思えませぬ故に」
「そうだな。
又太郎は赤橋家からの話であったから決まったが、仙太郎には血の遠い者を宛がうべきかと考えておる。
しかし庶家から選ばねば口煩いであろうからのう……」
「確かに一門は色々と口煩いでしょうな。
どこかから選ばねばなりませぬが、なるべく血の遠そうなところから選ぶしかありますまい。
庶家の者達にも言えませぬし、血筋の話は五月蝿い事が多いですから」
「確かにのう。
なるべく遠くならよいのだが、そうすると全く関わりの無いところからとなる。
それはそれでどうなのだと言われかねんし、難しいわ。
とにかく血の遠いところを選ぶようにせねばな」
「ま、今日は仙太郎の元服なのです。
オレの時と同じように祝おうではありませんか。
黒金、肉は用意してあるのだろう?」
「用意してるよ。
ちょうど二日前に獲れた猪は食べごろだから、良いんじゃないかな?
猪鍋か、それとも派手に丸焼きにして食べるか。僕はどっちでも良いと思うよ。
まあ、本当に丸々一頭を焼く訳じゃないけどね」
「私は丸焼きというのを食べてみたいが……」
「おおっ! 新しい事に否と言わず試してみるか。
元服の記念だ、黒金の言う丸焼きにしてみよう。
オレも手伝うからな」
という事で、僕が料理するのが当たり前になっている台所外の庭に出て、棒を四本立てて用意する。
実は鍋が釣り下げられるように、幾つかの鉄製の物は作ってあるんだよね。
これもそのうちの一つだ。
細長い杭みたいになっていて、それを交差させて上に鉄の棒を乗せられるようにする。
そして鉄の串に大きな肉の塊を刺し貫いて焼き始める。
下から弱火を当ててジックリ時間を掛けて焼かないといけない。
かつて斯明と二人で交代しながら焼いたなぁ。
物凄く手間隙が掛かって面倒なんだけど、美味しいんだよ。
今回は手伝いが又太郎だけど、たぶん大丈夫でしょ。上手くいくと思う。
刺した鉄串をぐるぐる回しながらゆっくりと焼いていき、時間を掛けながら焼いていく。
脂が下に落ちて焼け「ジュッ」と音が鳴るが、その匂いに又太郎はお腹が空いてきたらしい。
気持ちは分かるよ、良い匂いがするんだよね。
それでも我慢してジックリと焼き続け、そして完成した塊肉は複数の皿を使って乗せて運ぶ。
食事の部屋に運ばれた大きな塊肉を見て驚く皆。
そして「早く食わせろ」と言わんばかりの又太郎。
呼び出した影兵に削ぐように切らせ、まずは元服した仙太郎に肉を乗せた皿を渡す。
それを一口食べて驚く仙太郎。
外はカリッとしていて、中の部分は脂が染み出してくるんだ。
「これは美味い! こんな美味しい肉を食べたのは初めてだ!」
その後は義観さんが受け取ったが、その後に渡された又太郎はすぐに口に入れて食べている。
とんでもなく早かったけど、そんなに食べたかったのか。
ちょっと呆れてくるけど、これが又太郎とも言えるかな?




