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Side:足利高氏
屋敷の前で赤橋家の者を名乗る者達に文を渡された。
仙太郎は本物の赤橋家からの文か疑っているようだが、おそらく本物だろう。
執権様ならば黒金の言う通りに我が家に来られる。
しかしながらわざわざ文なのだ、書いたのは一人しかおるまい。
オレの部屋で文を開けて読むが、思った通りの人物からの物だった。
勇気を出して書いたのであろうが、特におかしな事ではないと思うがな?
オレも返書をせねばならぬので、返書をする為にもしっかり読まねばならぬ。
………ふむ、文面からは分からんな?
多少は性格などが読み取れるかと思ったが、やはり無理そうだ。
黒金の目を頼りにするしかあるまいが、書いた者の名は分かっておる。
というより、最後に書いてあった。
「登子と書いてあるところを見るに、確実に婚姻相手であろうな。
顔合わせは婚儀の時まで無理だが、文で先にというところか。
今日は多少稼げたがまだまだ足りん。もっと稼がねばな」
今は文をお互いに送りあうぐらいで良かろう。
たまに贈り物を加えて文と共に贈る。それぐらいしか出来んか。
今までならば積極的にこちらに引き入れようとしたのだろうが、今は黒金がおるからな。難しい。
とはいえ、少なくとも黒金はオレの目の前に現れたのだ。
で、ある以上は、神がオレに何事かを成せと言っておられるという事であろう。
稀人の多くは何事かを成す為に現れるという。
もちろんオレに何が成せるかは分からぬし、本当にオレに関わりがあるかも不明だ。
黒金は壇ノ浦の後、いきなりオレの前に出てきておる。
つまり壇ノ浦で黒金のやるべき事は一旦終わったという事だ。
そして次にオレの前に来ておるのだから、何かしらの理由と関わりはあるはず。
それに黒金の話は様々な書に散見するので調べたのだ。
斯明という陰陽師の前に現れたものの、京の都の結界を強くする事と清盛公に憑いた妖怪を倒しておる話があった。
しかし斯明という陰陽師に関して何かあったのかいうと、そこに関して書いてある書は無い。
とはいえその斯明という陰陽師は、凶妖との戦いで亡くなっておる。
これをどう考えるべきか?
黒金は斯明という陰陽師の霊力がどれほど強くなったのかは分からぬと言っていた。
それはそうだ、黒金は壇ノ浦で神隠しに遭っておるのだからな。
しかし斯明という陰陽師を鍛える為に神が遣わしたのならば、関わりはあったという事になる。
実際に京の都の凶妖は斯明という陰陽師が犠牲にならねば倒せなかったという。
その為に黒金が居たとしたら、オレもそういうものとの戦いがあるという事か?
しかしこれ以上は霊力が上がらんのだが……。
いやいや待て待て、結論を出すには早い。
既に霊力が上がらぬオレに妖怪がどうとかいう話はあるまい。
となると別の事のはずだ。それが何なのか…………分からん!
今は考えても無駄だな。その時が近付けば分かろう。
とにかくまずは赤橋家の娘に返書をせねば。
適当にこちらの事が分かるように書けばよかろう。
あまり詳しくは書けぬ故に、適度に思っておる事と文を受け取った事を喜んでおると書けばいい。
まだ一度目だしな。
そうと決まればささっと書くか。
最初から色々と書いても理解できんだろうし、後で書く事が無くなっても困る。
やはり適度に書くべきだな。
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Side:黒金
又太郎が赤橋家の娘と文のやり取りを始めて一月ほど経った。
婚姻はまだまだ先で、今はまだ決まっただけらしい。
斯明も婚姻が決まってから婚儀まで長かったからなぁ。
そう思っていたら、単に相手の年齢が理由だった。赤橋家の娘は今十三歳らしい。
で、又太郎が十五歳なので、お互いにちょっと早いとなったそうだ。
昔の稀人が若くして子を生むと危険だと言っていたらしいので、早くの婚儀は危険だと考えられている。
実際、若くして子供を生むと亡くなる事が多いんだそうだ。
なので稀人の言っていた事は正しいと言われている。
又太郎も特にどうこうとは言っていないので、そもそもそういうものらしい。
武家にとって重要なのは子を生す事なので、それが出来ない年齢だと結構婚儀まで時間が掛かるんだってさ。
僕には関係ない事なのでどうでもいいし、今のところは興味も何も無い。
だって本人が視れない以上は分からないからね。
なら何かを思う事もないよ。何かされた訳でもないし。
又太郎は妖怪退治の為に色々と僕から教わるようになった。
ちなみに義観さんも、今は陰陽術を習う事を認めているみたい。
鼠や烏の式神を見て使えると思ったんだろう。気持ちは分かる。
烏の式神に先の方を確認させたり、空を飛ばせて文を届けさせるとかね。
又太郎が実際に赤橋家の娘との文のやり取りに使ってるし。
相手はビックリしたらしいけど、今は気に入っているそうだ。
文の中に烏の式神を待っているとか書かれていたんだって。
烏の式神を飛ばすのはいつでも出来るんだけど、毎日飛ばすのも面倒くさいんだよ。
又太郎もそれを知っているので、飛ばすのは五日に一回と決めている。
赤橋家にご迷惑になる云々と書いて宥めたみたいだ。
なんとか治まったらしいが、向こうは頻繁に文のやり取りがしたいらしい。
義観さんは「良かったではないか」と言っていたが、又太郎の顔は何とも言えないものになっていた。
面倒だし気が乗らないんだろうね、気持ちはよく分かる。
何回も同じ事をさせられると飽きるというのはあるからさ。それはどうしようも無い。
僕も子供達にねだられて、何度も古兵や影兵を出してたもん。
暇なのかは知らないけど、僕にもやるべき事があったから大変だったよ。
今思い出しても大変だったなぁ、という思い出が甦ってくる。
竹若や仙は亡くなってるだろうけど、子葉と双葉は生きていると思うんだよね。
会いたいかと言われると微妙だけど、会いたくない訳じゃないし……難しいところだ。
そもそも僕の事を覚えているかどうかも分からない。
「誰、こいつ?」とか言われたくないんで、想像すると微妙な気分になってくる。
今日は雨で外に行けないから暇でしょうがない。
寝てもいいんだけど、夜に眠れなくなるのが辛いから起きているしかないしなぁ。
ん? 誰かこっちに来る?
「黒金殿、いらっしゃる?」
「はーい、居ますよー」
ガラッ!
「失礼するわね。少しお話でもしない? 暇になってしまったのよ」
「うん、いいよ。僕も暇でしょうがなかったし」
「そう? それは良かったわ。皆、一室に集まって話をしているのよ」
「ああ、それで霊力の集まってる部屋があったんだ。
皆も暇だったんだね。雨が降ってると仕方ないけど」
「そうね。それじゃ行きましょうか」
「はーい」
誰が来たんだろうと思ってたら「上杉の方」だったよ。
この人、結構屋敷中を自分の足で動いてるんだよね。
正室の「金沢の方」は誰かに呼びに行かせたりするんだけど……性格なのかな?
それとも正室は自分で動いちゃ駄目なんだろうか?
武家のしきたりって面倒くさいんだよね、いちいち。
子供達の事を思い出してたからか、気楽だった斯明の家の事も思い出しちゃったよ。
そこまで懐かしいという意識は無いけど、それでも懐かしかったのかな?
とはいえ京の都にはなー………何かがないと行く気にならない。
僕がここに出てきたのも気になるしね。
相変わらず又太郎を神様の眼で確認すると。
まだまだ時間はあるって出るんだよ。
という事は何かがあるとしても、まだ先なんだろうね。




