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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:黒金(くろかね)



 「まあ、あれだ。オレも嫁御を貰うので色々と入用になる。

 分かるであろう? 家の銭に手をつける訳にはいかんからな。

 ならば自力で稼ぐしかあるまい。他に方法があるか?」


 「いや、まあ、それはありませんけど……。

 とはいえ稼いで何かを渡すつもりですか?

 まずは様子見でいいんじゃないかと思いますよ?」


 「そうかもしれんが、こういうのは最初が大事だとも聞いたのでな。

 相手は赤橋北条家の娘だ。正直に言えば格上の家からの嫁なので扱いにくい。

 それも分かるであろう?」


 「それはよく分かりますけどね。正直に言って扱いにくいと思います。

 何をされるか分かりませんし、面倒な事を言い出される事もあるでしょう。

 特にウチには黒金(くろかね)が居ますからね」


 「父上が当主なので、そこまで勝手は言わないとは思うのだが……これもどうかは分からん。

 黒金(くろかね)に神様の眼で見てもらいたいんだが、いいか?」


 「構わないよ。

 神様の眼で()ること自体は簡単に済むんだけど、肝心な内容がねえ……いつかバレると思う。

 僕が確認出来る事を知った時、必ずやそれは洩れるよね? 赤橋北条家に」


 「………それは分からん。

 そうなる前に口を閉じさせる事は可能だろう。やってみなければなるまい」


 「まさか、殺すのですか?」


 「そんな事をするか。赤橋北条家との繋がりは、我が足利家にとっても必要なものだ。

 だから説得するか懐柔するかしかない。

 ただな……それも含めて報告される(おそれ)もあるし、そうなると余計に疑いの目が向く」


 「難儀な事ですね。

 下の家から嫁御を迎えたならば命じれば済むのですが、格上の家となるとそれは出来ませんし……」


 「ああ。だからこそ厄介であり、それ故に贈り物などで懐柔できないかと思ったのだがな」


 「どのみち危険な事をする理由にはならないよ。

 いつもの狩りだから護衛も居ないけどさ、護衛が居たら出来ない事だからね。

 一応は足利家の嫡男なんだし、それなりに大きい家だから五月蝿いんだよねえ」


 「それなりって……我が足利家は上から数えた方が早い家なんだぞ。

 それに「義」の字が許されているのだから、将軍になれる可能性のある家なのだ。

 父上の代からだから、アレではあるのだが……」


 「アレ?」


 「簡単に言えば、将軍になる出自ではなく怪しい家という事だ。

 もちろん我が足利家は御家人の中では名門の家なのだがな。

 しかし将軍になれる家かと言うと、そうではない。

 そこを北条家が後ろ盾となって、将軍になれるようにした、というところだ」


 「将軍になると何かあるの? 九朗だって普通に大将をやってたけど」


 「ここでいう将軍は征夷大将軍の事だ。

 頼朝公が任官され、代々の将軍が継承してきた役職。

 それはつまり武家の棟梁を意味するのだ。

 だからこそ征夷大将軍位を持つという事は、(すなわ)ち津々浦々の武士に命令をする事が可能だということ」


 「命令したって聞かないんじゃないの?

 あいつら勝手に拒否したりするし、聞く事は無いと思うけどね?」


 「だからこそ御恩(報酬)と奉公(労働)があるのだ。

 武士の世とはそれで出来ている。

 世知辛いが、誰であっても褒美も無いのに戦をしたりなどせぬ」


 「まあ、それが武士の在り方と言ったらそれまでだが、事実としてそういうところもある。

 それに命令する権利だけでも大きなものだ。

 それはそうそう手に入るものではないし、武家の棟梁というのはそれだけ大きい」


 「平氏は大相国、つまり太政大臣までいったのに、頼朝公は征夷大将軍とかいう将軍止まりだったのか。

 なんで平氏ほど上まで上がれなかったんだろうね?」


 「それは………分からん。

 武士なのだから将軍の方が正しいとは思う。

 だが、確かに太政大臣の方が上なのだよなぁ」


 「太政大臣って正一位、つまり官位官職における頂点ではないか。

 たしかに清盛公は位人臣を極められたが、それは清盛公だから出来た事であろう。

 我らは源氏とはいえ、頼朝公の御血筋ではないのだから無理だ」


 「そうなんだ。

 大相国の血筋や頼朝公の血筋なら成れるけど、それ以外の平氏や源氏では無理なんだね」


 「それ以前に平氏は滅亡しておるから、今残っているのは平氏を自称しておる家ぐらいだぞ。

 もしかしたら隠れ住んでいるかもしれぬが、もはや清盛公の血筋は残っておるまい。

 それに今の世で平氏と言うても下に見られるだけだ」


 「壇ノ浦で壊滅し、その後に宗盛公は斬首されておる。

 なので清盛公の直系の御血筋は断絶してしまった。

 もし名乗る者が居たとしても、それは偽物でしかない。

 まあ、実際に名乗る者もいないだろう」


 「ふーん……。

 話を戻すけど、まずは会ってみないと分からないんじゃない?

 口を閉じるかどうかは」


 「基本的に嫁にくる女というか、正室になる女は他家の者だと考えていい。

 なので嫁いだ家の事を実家に伝える役目をしておる。

 なので防ぐのは難しいのだが……」


 「いっそ、血が濃くなると危険な事を教えますか?

 それを報告したとて讒言(ざんげん)にしかならぬと分かれば、迂闊(うかつ)に赤橋家に(しら)せたりはしないのでは?」


 「ふむ……。その方法でいくか。

 あくまでも黒金(くろかね)の目で見た事ではあるが、神様からの一言ではあるからな。

 十分に信じられる事だ。しかし、それをどう考えるかは別となる」


 「執権様の側近に利用される可能性が高いですね。

 主に内管領(ないかんれい)外戚(がいせき)ですけど」


 またそいつらか。

 どうもそいつらが悪い事をしているというか、おかしな事を耳打ちしたりしているらしい。面倒な連中だね。

 執権にはもうちょっとしっかりしてほしいところだ。


 それよりも妖怪を狩りに来たんだから、ある程度は狩って帰らないといけない。

 又太郎でも狩れる妖怪は居るんだから、頑張って狩ってよ。

 贈り物とかして損は無いと思うからさ。


 斯明(かくめい)(つや)葛葉(くずは)に贈り物をする時は、必死になって妖怪を狩ってたしね。

 高値で売れる妖怪が出てくるかどうかは運だから、狙って狩れる訳でもないのが大変なんだ。


 そういう意味では、さっきの骸骨は幸運だったね。

 それなりに格は上だと思うし高く売れるだろう。

 それよりも頑張って狩ろうか。


 …

 ……

 ………


 妖怪を狩ったついでに鳥を二羽撃ち落したので持って帰る。

 既に血抜きや冷却だけではなく羽を(むし)り終わっているので、持って帰るのは楽だ。

 羽に関しては、持って来ている背負い袋に入れている。


 昔、京の都で買ったのと似た物があったので、それを購入した。

 今も変わってないけど、背負い袋って使いやすいんだよねー。

 こういう便利なのをたくさん残してくれた他の稀人(まれびと)には感謝だよ。本当。


 鎌倉の町に戻った僕達は霊玉を幾つか売り、さらに羽を売って足利家の屋敷へ。

 すると、屋敷の前に何やら5、6人の男達が居た。

 いったい何をしているんだろう?


 「そなたら、我が足利家の屋敷の前でいったい何をしておるのだ?」


 「こ、これは申し訳ありませぬ。それがしどもは赤橋家に仕える者。

 実は足利又太郎様に文をお届けに参りましてな。

 しかし御本人にお渡しせよと厳命されておりまして……」


 「それがしが足利又太郎だが、赤橋家の方が何故(なにゆえ)それがしに文を?」


 「申し訳ありませぬ。それは我らの口より申し上げる事は出来ませぬ故、御容赦を。

 こちらが文となりまする」


 「相分かった。赤橋家からの文、確かに足利又太郎高氏がお受け取りもうした」


 「では我々はこれで」


 「「「「「失礼いたしまする」」」」」


 そう言って男達は去っていった。

 赤橋家って赤橋北条家だよね? なんで又太郎に文を送ってくるんだろう?

 執権が直接来たらいいと思うんだけど……。


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