0097
Side:黒金
「まあ、あれだ。オレも嫁御を貰うので色々と入用になる。
分かるであろう? 家の銭に手をつける訳にはいかんからな。
ならば自力で稼ぐしかあるまい。他に方法があるか?」
「いや、まあ、それはありませんけど……。
とはいえ稼いで何かを渡すつもりですか?
まずは様子見でいいんじゃないかと思いますよ?」
「そうかもしれんが、こういうのは最初が大事だとも聞いたのでな。
相手は赤橋北条家の娘だ。正直に言えば格上の家からの嫁なので扱いにくい。
それも分かるであろう?」
「それはよく分かりますけどね。正直に言って扱いにくいと思います。
何をされるか分かりませんし、面倒な事を言い出される事もあるでしょう。
特にウチには黒金が居ますからね」
「父上が当主なので、そこまで勝手は言わないとは思うのだが……これもどうかは分からん。
黒金に神様の眼で見てもらいたいんだが、いいか?」
「構わないよ。
神様の眼で視ること自体は簡単に済むんだけど、肝心な内容がねえ……いつかバレると思う。
僕が確認出来る事を知った時、必ずやそれは洩れるよね? 赤橋北条家に」
「………それは分からん。
そうなる前に口を閉じさせる事は可能だろう。やってみなければなるまい」
「まさか、殺すのですか?」
「そんな事をするか。赤橋北条家との繋がりは、我が足利家にとっても必要なものだ。
だから説得するか懐柔するかしかない。
ただな……それも含めて報告される虞もあるし、そうなると余計に疑いの目が向く」
「難儀な事ですね。
下の家から嫁御を迎えたならば命じれば済むのですが、格上の家となるとそれは出来ませんし……」
「ああ。だからこそ厄介であり、それ故に贈り物などで懐柔できないかと思ったのだがな」
「どのみち危険な事をする理由にはならないよ。
いつもの狩りだから護衛も居ないけどさ、護衛が居たら出来ない事だからね。
一応は足利家の嫡男なんだし、それなりに大きい家だから五月蝿いんだよねえ」
「それなりって……我が足利家は上から数えた方が早い家なんだぞ。
それに「義」の字が許されているのだから、将軍になれる可能性のある家なのだ。
父上の代からだから、アレではあるのだが……」
「アレ?」
「簡単に言えば、将軍になる出自ではなく怪しい家という事だ。
もちろん我が足利家は御家人の中では名門の家なのだがな。
しかし将軍になれる家かと言うと、そうではない。
そこを北条家が後ろ盾となって、将軍になれるようにした、というところだ」
「将軍になると何かあるの? 九朗だって普通に大将をやってたけど」
「ここでいう将軍は征夷大将軍の事だ。
頼朝公が任官され、代々の将軍が継承してきた役職。
それはつまり武家の棟梁を意味するのだ。
だからこそ征夷大将軍位を持つという事は、即ち津々浦々の武士に命令をする事が可能だということ」
「命令したって聞かないんじゃないの?
あいつら勝手に拒否したりするし、聞く事は無いと思うけどね?」
「だからこそ御恩(報酬)と奉公(労働)があるのだ。
武士の世とはそれで出来ている。
世知辛いが、誰であっても褒美も無いのに戦をしたりなどせぬ」
「まあ、それが武士の在り方と言ったらそれまでだが、事実としてそういうところもある。
それに命令する権利だけでも大きなものだ。
それはそうそう手に入るものではないし、武家の棟梁というのはそれだけ大きい」
「平氏は大相国、つまり太政大臣までいったのに、頼朝公は征夷大将軍とかいう将軍止まりだったのか。
なんで平氏ほど上まで上がれなかったんだろうね?」
「それは………分からん。
武士なのだから将軍の方が正しいとは思う。
だが、確かに太政大臣の方が上なのだよなぁ」
「太政大臣って正一位、つまり官位官職における頂点ではないか。
たしかに清盛公は位人臣を極められたが、それは清盛公だから出来た事であろう。
我らは源氏とはいえ、頼朝公の御血筋ではないのだから無理だ」
「そうなんだ。
大相国の血筋や頼朝公の血筋なら成れるけど、それ以外の平氏や源氏では無理なんだね」
「それ以前に平氏は滅亡しておるから、今残っているのは平氏を自称しておる家ぐらいだぞ。
もしかしたら隠れ住んでいるかもしれぬが、もはや清盛公の血筋は残っておるまい。
それに今の世で平氏と言うても下に見られるだけだ」
「壇ノ浦で壊滅し、その後に宗盛公は斬首されておる。
なので清盛公の直系の御血筋は断絶してしまった。
もし名乗る者が居たとしても、それは偽物でしかない。
まあ、実際に名乗る者もいないだろう」
「ふーん……。
話を戻すけど、まずは会ってみないと分からないんじゃない?
口を閉じるかどうかは」
「基本的に嫁にくる女というか、正室になる女は他家の者だと考えていい。
なので嫁いだ家の事を実家に伝える役目をしておる。
なので防ぐのは難しいのだが……」
「いっそ、血が濃くなると危険な事を教えますか?
それを報告したとて讒言にしかならぬと分かれば、迂闊に赤橋家に報せたりはしないのでは?」
「ふむ……。その方法でいくか。
あくまでも黒金の目で見た事ではあるが、神様からの一言ではあるからな。
十分に信じられる事だ。しかし、それをどう考えるかは別となる」
「執権様の側近に利用される可能性が高いですね。
主に内管領と外戚ですけど」
またそいつらか。
どうもそいつらが悪い事をしているというか、おかしな事を耳打ちしたりしているらしい。面倒な連中だね。
執権にはもうちょっとしっかりしてほしいところだ。
それよりも妖怪を狩りに来たんだから、ある程度は狩って帰らないといけない。
又太郎でも狩れる妖怪は居るんだから、頑張って狩ってよ。
贈り物とかして損は無いと思うからさ。
斯明も艶や葛葉に贈り物をする時は、必死になって妖怪を狩ってたしね。
高値で売れる妖怪が出てくるかどうかは運だから、狙って狩れる訳でもないのが大変なんだ。
そういう意味では、さっきの骸骨は幸運だったね。
それなりに格は上だと思うし高く売れるだろう。
それよりも頑張って狩ろうか。
…
……
………
妖怪を狩ったついでに鳥を二羽撃ち落したので持って帰る。
既に血抜きや冷却だけではなく羽を毟り終わっているので、持って帰るのは楽だ。
羽に関しては、持って来ている背負い袋に入れている。
昔、京の都で買ったのと似た物があったので、それを購入した。
今も変わってないけど、背負い袋って使いやすいんだよねー。
こういう便利なのをたくさん残してくれた他の稀人には感謝だよ。本当。
鎌倉の町に戻った僕達は霊玉を幾つか売り、さらに羽を売って足利家の屋敷へ。
すると、屋敷の前に何やら5、6人の男達が居た。
いったい何をしているんだろう?
「そなたら、我が足利家の屋敷の前でいったい何をしておるのだ?」
「こ、これは申し訳ありませぬ。それがしどもは赤橋家に仕える者。
実は足利又太郎様に文をお届けに参りましてな。
しかし御本人にお渡しせよと厳命されておりまして……」
「それがしが足利又太郎だが、赤橋家の方が何故それがしに文を?」
「申し訳ありませぬ。それは我らの口より申し上げる事は出来ませぬ故、御容赦を。
こちらが文となりまする」
「相分かった。赤橋家からの文、確かに足利又太郎高氏がお受け取りもうした」
「では我々はこれで」
「「「「「失礼いたしまする」」」」」
そう言って男達は去っていった。
赤橋家って赤橋北条家だよね? なんで又太郎に文を送ってくるんだろう?
執権が直接来たらいいと思うんだけど……。




