0096
Side:黒金
「それで元服っていうのはどうだったの? 上手くいった?」
「上手くも何も烏帽子親の方に烏帽子を被せていただき、偏諱を賜るだけだ。
今日からオレの名は足利又太郎高氏となった」
「あれ? 又太郎のままなのですか、兄上は?
本来なら「三郎」を名乗るのが筋でしょうに。
我が家の嫡男は全て「三郎」を名乗るのですよね?」
「そうじゃが、「三郎」は長男にのみとするようにした。
又太郎の子が生まれれば、その嫡男に「三郎」を名乗らせるのは認める。
だが又太郎は又太郎のままじゃ。仙太郎も仙太郎のままにする」
「そうですか……変わらないので楽ですが、父上がそれで良いと言われるのでしたら、それで良いと思います。
又太郎高氏兄上、おめでとうございまする」
「ありがとう。
とはいえ仙太郎も後二年か三年で元服だろうがな。それまではゆっくりと待つといい。
そう急がずとも、その時が来たら早かったと思うものだ」
「はい、分かりました」
「そういえば黒金は元服の儀を執り行ったのかの?」
「ううん。
だって僕が斯明の下に連れて行かれてから三年ぐらい居たけど、まったく大きくならなかったからね。
足利家に来て二年経っても変わらないしさ。
昔、葛葉に言われた事があるんだけど、僕は歳をとらないかもしれないんだ」
「大きくならぬから変だと思っておったが、歳をとらんとは……」
「何でも複数の加護を得ている僕は、現人神一歩手前なんだってさ。
だから歳をとらないか、もしくは物凄くゆっくり歳をとるみたい。
だから人間と同じに考えても駄目だって言ってたよ」
「現人神とはまた………。
絶対に話せん事を言われても困るのう。
信じられんと思う気持ちと、そなたならばと思う気持ちの両方があるわ」
「オレもだ。なんと言うか、黒金ならばそういう事もあるのだろうと納得できる。
ただし、これは余計に公卿や公家の方々には会わせられんぞ。
童の姿のままでずっと居るなど、色々とおかしな事を考えるかもしれん」
「そうじゃの。何か善からぬ事を企みかねんと思うわ。気をつけておかねばな。
それはともかくとして、又太郎の元服は目出度いが、早々に嫁をもらう事になった。
家は赤橋家じゃ」
「赤橋家ですか……。
得宗家としても足利家と縁組をして、絆を強くしておきたいという事ですね」
「どうやらそのようじゃ。とはいえこちらは否とは言わぬ。
得宗家の嫁御を貰うというのは誉れでもあるからの」
「又太郎の母は「上杉の方」だから大丈夫だろうけど、気をつけた方がいいよ」
「黒金? どういう事だ?」
「今までは黙ってたんだけどさ、執権を見た時に神様の眼に出てたんだよね。
それがずっと気になってたんだ」
「神様の眼に?」
「うん。それはね……」
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北条(赤橋) 高時 男 十六歳
体力・十四
霊力・二
術技・一
知恵・三十四
知識・三十二
運勢・普
こやつ病気がちではあるが、それは生来の体の弱さが原因じゃ。ただしその原因は体の所為ではない、同じ家との婚姻を繰り返した結果となる。近親婚は血が濃くなり危険なのじゃが、こやつらは分かっておらんのう
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「そう出てたんだよね。
つまり同じ家か似た家からの婚姻を繰り返すと危険みたいなんだ。
だから止めた方がいいよ」
「「「「「………」」」」」
「そのような事を今さら言われてものう……。
これは黙っておくしかないか? 迂闊に言おうものなら、何を言われるか分からん。
最悪は讒言と受け取られかねんぞ」
「しかし……もしかしたら、あの子の体が弱かったのも、その所為なのでは?」
「それは……」
「確かに兄上はあまり体が強い方ではなかった。
それが血の濃さを原因とするのならば、ちょっと変わってきますな。
とはいえ母上は上杉家の方ですので、連続でなければ問題ないのでは?」
「なるほどの、そうかもしれん。
高祖父であられる北条時氏公から、ずっと赤橋北条家の御正室は安達家じゃ。
それに執権様の御正室も安達家の方。
もしかしたら、その血の濃さで赤橋北条家は滅ぶかもしれん」
「父上、仮にそれが分かっていても言えるか?」
「無理に決まっておろう。
先程も言うたが、周りの者が讒言だと言うだけよ。
むしろ我が足利家の立場が悪うなってしまうわ。
血の濃さの事は黙っておくしかない。
我が家は血の濃さに気を付けねばならんがの」
「そうだな。神様が危険だと仰るくらいだ、相当に危険なのは間違い無い。
そうなるくらいなら、血の離れた者を嫁にもらう方がいい。
子が病弱などというのは、流石に……」
「生まれ来る子にも申し訳が立たぬからのう。
しかし我が家だけとはいえ、知る事が出来て良かったわ。
黒金様々と言うところじゃの」
「変な言い方されても困るんだけど、神様は色んな事を教えてくれるからね。
そのうちの一つを言っただけだよ。
とはいえ大事そうな話もなかなか無いけど」
「それは無い方が良いのではないか? 私など先程からの話は、心の臓に悪いとしか思えん。
まさか同じ家から嫁御を貰い続けると危険など、考えた事も無かった」
「誰だってそのような事など、考えた事もあるまい。
まさか血の濃さの所為で病弱な事が決まっておるなど、今の今まで知らなんだわ。
そう考えてみると、思い当たる節は幾つかあるがの」
「古き書を読み解けば左様な事などあったのでしょうな。多くの者が知らぬだけで」
「で、あるな。そなた達も黙っておくように。
讒言だと思われたら、どのような目に遭うか分からん。
色々と思うところはあろうが、黙っておくのが一番良い」
「「はい」」
危険な事を、今まで危険だと思わずにやってきたからね。それは恐いだろうと思う。
それはともかくとして、これからも又太郎なのは楽でいいね。
名前が急に変わっても困るしさ。
とりあえず元服後の話はこれで終わりにしよう。
皆も色々と疲れちゃったみたいだし。
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今日は十月の三十日だ。
山に来て妖怪を退治してたんだけど、久しぶりに強い妖怪が出てきた。
いったい何故なのかは分からないけど、出てきたのはありがたい。高値で売れるからね。
とはいえ……
「ぬんっ! ……おっと、そうそう簡単に当たったりなどせぬぞ?
もっと思いっきり向かって来い!!」
「兄上、無茶は止めて下さい!
その妖怪は強いと黒金も言うておるでしょう!」
「何を言うておるのだ仙太郎! だからこそ戦わねばならんのだ。
蝦夷の者どもが騒いでおるらしいではないか。
ならば我らにも下知があるかもしれぬ。それに備えねばなるまい!」
「兄上は確かに元服しましたのであるかもしれませんが、ここで怪我などしたら行けなくなってしまいますよ」
「ここで勝てねば戦でも勝てまい。
なぁに……ふん!! よし、これでどうだ!!」
「ゴォォォォォォ!!」
「まったく効いていないではないですか!
さっさと黒金に交代して下さい!!」
「くぅ! 仕方ない。黒金、任せた!」
「やっとか。古兵、やれ」
「!!!」
ズガッ! ドガッ! ドゴンッ!!
骸骨系の妖怪は切っても大した意味が無い事が多いんだよね。
だから蹴らせてるんだけど、これが良く効くんだ。
影兵の方が良いんだけど、誰が見ているか分からないから古兵に頑張ってもらってる。
「ふぅ………。兄上、元服してから危険な事をするのが増えてませんか?」
「オレも本格的に家を継ぐ事になったからな。
出来る事は出来るようになっておかねばならん。そういう事だ」
本当かな? いきなり言い出したからこそ、怪しい。
仙太郎も信じてないね。




