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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:黒金(くろかね)



 正月の頼朝の墓の事で、又太郎も仙太郎も勉学に励んでいるようだ。

 思い詰める結果になってしまったかもしれないけど、そこまで思い詰める必要は無いんだけどね。

 どうせ人が出来る事なんて生きている間の事だけだ。


 その後の事が頼朝の思い通りの結果でも、それはこじつけに過ぎないんだ。まったくもって意味は無い。

 もしかしたら自分の言葉が伝わって、一番笑っているのは頼朝かもね。

 まあ、その結果どうなるかは、僕には一切関係ないんだけど。


 それはともかくとして、日夜勉学に励んでいる割には、又太郎も仙太郎も狩りと妖怪退治にはついてくるんだよね。

 といっても陰陽術を覚えようとしているのは又太郎だけで、仙太郎は諦めてる。


 むしろ仙太郎は猛兵から弓の使い方を習ってるくらいだ。

 なぜかは知らないけど、猛兵の弓の射り方をジッと見て覚えようとしてるんだ。

 武士の使う武器は弓矢もあるから間違ってないんだけどさ、なんか必死なんだよね。


 あそこまで必死にやっても上手くいかないと思うんだけど、どうなのかな?

 とはいえ僕が言っても聞かないだろうし、満足するまでやらせるしかない。

 ちなみに又太郎は式神を使う事が出来る様になっている。


 最初に使える様になったのは鼠だ。

 とはいえ何かを探ってくるとか、小さい物を取ってくるとかは出来るので、大喜びで使ってるみたい。

 僕に式神を教える事が出来るかは分からなかったけど、出来て良かったよ。


 僕が使うのは霊兵だからね。あくまでも式神の知識があるだけで、僕自身は式神を使う事は無い。

 これに関しては又太郎にも伝えてあるので、彼が怒り出す事は無かった。


 今は烏の練習をしているけど、今のところは上手くいっていない。

 とはいえ鼠が使えているので諦める気は無いようだ。

 それと【霊波】は使えるようになっているので、妖怪を太刀で斬れるようにもなってる。


 やはり僕が予想した通り、今の陰陽師は【霊波】で妖怪を斬るのが主流らしい。

 理由は銭が掛からないのと、符を作る修行が大変だからだそうだ。

 体を鍛えて【霊波】が使えれば妖怪退治は出来るからね。


 ただし太刀などで戦うのは危険だから、陰陽師の死亡は多いらしい。

 中には槍で戦う人も居るらしいけど、穂先まで霊力を伝えられずに妖怪に攻撃が効かなくて、死んでしまう人も中には居る。

 バカすぎて呆れるしかなかったけど。


 色々な陰陽師が居る中で、もちろん昔ながらの符術と式神を使う人は居た。

 ただしその数は少なく肩身は狭いみたい。

 安全を考えたら符術や式神の方が良いんだけど、なぜか太刀で戦わないヤツは邪道と言われていたよ。


 太刀で戦えないような勇気の無いヤツは陰陽師を辞めろ。

 そんな事を言い出すヤツまで居た始末だ。

 頭が悪過ぎるし、なんで陰陽師が武士みたいな事を言ってるのか意味が分からない。


 なんと言うか、あの当時と比べて随分と陰陽師も変わったんだなぁと思う。

 それが良いか悪いかは知らないけど、今はこういう形なんだろうね。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 あれから更に一年経った。

 特に何も無く、又太郎や仙太郎は勉学に励んでいる。

 仙太郎は弓の腕が随分と上達し、又太郎は遂に霊力が分かるようにまでなった。

 不用意に他人に教えないように言ったけど、本人は大喜びだったよ。


 式神はそれなりに使えるようになったけど、それ以上には成れなかった。

 又太郎の霊力は二十九で頭打ちになり、これ以上は上がる気配が無かったんだ。

 ちなみに仙太郎は未だ霊力三のままで止まってる。


 本人が鍛える気も無いので上がる事が無いのは当然だけどね。

 代わりに知恵は上がってるし、知識は大きく上がってる。

 そこら辺は又太郎も変わらない。

 このまま成長すれば足利家は安泰だと、義観さんも喜んでるよ。


 とはいえ又太郎も仙太郎も頑張ってるとは思うけど、あまり根を詰めても上手くいかないと思うんだけどね。

 ちょっと頑張りすぎな気もするし、休む事も覚えた方がいいと思う。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今年は文保三年だったんだけど、四月の十八日に元号が変わったらしく、元応元年になったみたい。

 まだ元号をころころ変える事を繰り返しているらしいね。

 いい加減にしてもらいたいところだ。


 今は五月の二十二日だけど、ようやく鎌倉まで元号が変わったという話が来た。

 どうやら随分と遅れるみたいだけど、京の都に居るわけじゃないから仕方ないね。

 それでも変わった事が分かるだけマシかな?


 僕達は変わらず生きるだけなんだけど、何かの不幸が京であったのかも。

 元号を変えるくらいだし。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今日は元応元年の十月十日。

 なんと又太郎が従五位下の官位と治部大輔(じぶのたいふ)の官職を貰うんだってさ。

 それと同時に元服するから執権の家に行ってる。

 僕? 武家伝奏とかいう官職の公家が来るらしいので行かない事にした。

 だって面倒くさいし。


 仙太郎はジト目で見てきたけど、僕は気にしない。

 だって公卿とか公家って面倒くさいんだもん。

 いちいち相手なんかしたくないし、僕には関係ないからね。

 それに義観さんも又太郎も顔を出さない方がいいって言ってたしさ。


 「それはそうかもしれんが、兄上の晴れ舞台だぞ。見に行きたいとは思わんのか?」


 「別に思わないけど? 元服というのをしてもしなくても、又太郎は又太郎だしね。

 別に気にする事でもないじゃん」


 「元服したら一人の大人として扱われるのだぞ?」


 「知らないよ、そんなの。

 元服しなきゃ大人じゃないって時点でおかしいと思わないの?

 元服してなくても大人な人も居ると思うけどね?」


 「それは、そうかもしれんが……」


 「ま、とにかく公卿とか公家とかいう面倒くさい人の居るところに行く気は無いよ。

 簡単に手の平を返す連中に会ったところでねえ。

 面倒な事とか嫌味とか言われるだけじゃん」


 「………」


 そんなに晴れ舞台とやらを見に行きたいのかな?

 別に見に行ったところで何かある訳でもないんだし、自分の元服を楽しみにしていればいいじゃん。

 僕はそうとしか思わないけどね。あ、帰ってきた。


 「戻ってきたみたいだから、話を聞いてきたら?」


 「なに!? 帰ってきたのか! なら早速兄上に聞いてこなければ!」


 ドタドタドタドタドタ……!


 あの騒がしさは義観さんにそっくりだね。

 なんでああもドタドタするんだろう?

 親子の繋がりを感じるけど、嫌な繋がりだとしか思えないね。

 もうちょっと静かに移動できないものかな?


 「黒金(くろかね)殿。殿と又太郎殿が帰ってきましたよ」


 「あ、知ってます、霊力を感じとったので。

 後、仙太郎はドタドタと走って行きましたよ。義観さんソックリだと思いましたけど」


 「クスッ。確かにそうですね。さ、参ってお話を聞きましょうか」


 「はーい」


 面倒だけど行くしかないようだ。

 ちなみに声を掛けてきたのは「金沢の方」と言われてる、亡くなった長男の母親らしい。

 ちなみに又太郎と仙太郎の母親は「上杉の方」と言われてる。


 その名前の通り、金沢北条家と上杉家から嫁いできたらしい。

 よく分からないけど、そう呼ぶんだそうだ。

 斯明(かくめい)の家では(つや)葛葉(くずは)って呼んでたんだけどね?

 なんで家の名前なんだろうか。


 僕が最後だったみたいだけど、部屋に入ると一斉にこっちを向いてきた。なにかあったかな?


 「黒金(くろかね)が来るまで話をしていなかっただけだ。

 それにしても執権様が誘われたのに断るとは思わなかったぞ。

 まあ、公卿の方に会いたくないというのは分かったので、執権様が折れて下さったがな」


 「だって、あいつら面倒なんだもん。いちいち会いたくなんて無いよ。

 そもそも会いたい人ってここに居る?」


 全員が顔を背けたじゃん。

 誰だってあいつらに会いたくなんて無いよ。


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