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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:足利貞氏(義観)



 また黒金(くろかね)がとんでもない事を言い出しおった。

 神様の御加護がある眼で見たら、頼朝公は北条に実権を奪われる事を知っていたと言い出したのだ。

 流石にマズいと思い早足で帰ってきたが、心の臓が止まるかと思うたわ。


 ワシは黒金(くろかね)の手を引いて屋敷に戻り、皆がゆるりとしておる火鉢が置いてある部屋に入る。

 そこで執権様の下に行ってきたこと、毎年の頼朝公の墓への参拝を終えてきた事を話す。


 「それはよいのだが、父上。いつまで黒金(くろかね)の手を握っておるのだ?

 黒金(くろかね)が迷惑そうにしておるぞ」


 「ぬっ? そうであった。すっかり忘れておったわ、すまぬの」


 「それはいいけど、いったい何だったの?

 急に手を握って早足で帰るし、ビックリしたよ」


 「それはワシの方が言いたいの。

 黒金(くろかね)、そなた頼朝公の墓で何を見た?

 頼朝公が北条氏に力を奪われる事を知っていたというのは、どういう事じゃ?」


 ワシの言葉を聞いた又太郎も仙太郎も(さい)達も驚く。

 頼朝公の御血筋は三代で途絶え、その後は北条氏が権力を握り続けておる。

 もちろんその北条氏の中でも権力の奪い合いがあり、今は得宗家の世となっておるがな。


 「僕は神様の加護の眼で()ただけだよ。

 そこには頼朝が暗殺されたこと、それに北条氏に力を奪われる事を知ってたって出てた。

 そして「この世は夢、この世は幻」、それを大相国を見て悟ったようだ。

 そう出たから言っただけ」


 「頼朝公が北条氏に力を奪われる事を知っていたとなると、暗殺される事にも気付いていたのではないか?

 しかも「この世は夢、この世は幻」など……」


 「あ、そうそう。

 愚か者どもが奪い合う醜き世を作る為に動いておった。

 そういう風にも書かれてたよ」


 「「「「「………」」」」」


 愚か者どもが奪い合う醜き世、か。正に今の世はそういう世だといえる。

 となると、今の得宗家の世ですら頼朝公の手の平の上という事か?


 ブルッ!!


 さ、寒気がするのう。

 どれほどの方であったというのだ、頼朝公は? 尋常ならざる方である事は間違いなかろう。

 しかし、本当にそれだけかと思うてしまうわ。北条家が奪う事すら分かったうえで生きるとは……。


 ワシであれば絶対に奪われぬように動く。しかし頼朝公は分かったうえで奪わせた。

 しかも理由は、愚か者どもが醜く奪い合う世を作る為だ。

 まるで世を鎮定する気が無いではないか。むしろ争わせる為に世を作りておられる。


 いったい何故(なにゆえ)そのような事をされたのかは分からぬ。

 分からぬが、今も頼朝公の手の平の上というのが恐ろしい。

 どれほどの方であったのかを考えると、本当に恐ろしいわ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:足利又太郎



 黒金(くろかね)が神様の加護のある眼で頼朝公の墓を見たらしいが、とんでもない事が分かった。

 頼朝公は自らの力が奪われる事を分かったうえで動いておられた。

 それも北条を排するのではなく、武士を争わせる為に動いていたのだ。


 いったい何故(なにゆえ)かは分からぬが、少なくとも北条は頼朝公の手の平の上のままという事になる。

 しかも暗殺されたという事は、間違いなくそこまで読んでおられたはずだ。


 己が暗殺されると分かっており、力も奪われると分かったうえで北条を排さぬ。

 その器がとんでもないと思う一方で、争いの世を生み出すのに尽力されたというのは……。

 どう考えるべきであろうか?


 頼朝公が北条氏を排して、己の家を安定させる事を求めなんだ理由は分からん。

 少なくとも頼朝公はどうなるか分かって今の世を作ったと言えよう。

 そして得宗家や内管領(ないかんれい)外戚(かいせき)は我が世の春と思うておるのであろうが……。


 もしそれが頼朝公の作られた夢や幻だと知ったら、いったいどう思うのであろうか?

 ……そうか、そういう事か! 平氏も我が世の春と思うて滅びたのだ。源氏も得宗家も同じ。

 となると、〝そういう世〟を作られようとしたのだ。間違い無い。


 頼朝公は愚か者が我が世の春を謳歌し、そして滅ぶ世を作られようとしたのだろう。

 この世は夢、この世は幻。愚か者が栄華を誇り、そして滅ぶ。

 ……踊らされておる者は滑稽(こっけい)だな。あまりにも滑稽(こっけい)に過ぎる。


 しかしこれを断ち切るのは恐ろしく難しいぞ。

 これこそ頼朝公の作りだした、日の本全土に対する呪いのようなものだ。

 愚か者が騒ぐように仕向け、騒乱が収まらぬようにしておる。

 そしてその場を作りだした頼朝公は、草葉の陰で世の者を嘲笑しておられよう。


 平清盛公が亡くなった途端、平氏は栄華が傾き滅んだ。<驕る平家は久しからず>の言葉の通りにな。

 そして源氏は三代で血筋が滅んだ。

 おそらく大相国こと平清盛公を見て、己の血筋もそうなると悟られたのであろう。

 それ故に争わせるように仕向けた。


 己の血筋を滅ぼすなら滅ぼしてみよと、代わりに愚か者が喰らい合う世が来る。そうされたのであろう。

 そして頼朝公の予想通りに北条は動き、争い奪い合う世を生み出してしまった。


 果たしてこれは北条の罪か、それとも頼朝公の呪いか。

 どちらかは分からぬが、如何(いか)にかせねばならぬのではないか?

 でなければ、日の本は呪われたままになってしまう。それが善い事のはずがあるまい。


 しかしだからといって、オレに出来る事など何も無い。

 何も出来ないのが歯痒いが、仮に出来る立場でも何をしていいか分からん。

 いったい何をすればいいのであろうか?



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:足利仙太郎



 まさか頼朝公がそのような事を考えておられたとは……。

 大相国こと平清盛公は確かに隆盛を誇ったと伝わっている。

 しかしながらそれを滅ぼしたのは頼朝公ではないか。

 で、あるならば自分の世が滅ぶ覚悟をせねばならぬのではないか?


 それを愚か者が争い合う世にするなど、おかしな事だと思うのは私だけか?

 清盛公の世を壊したならば、鎌倉の世もまた壊されねばならぬであろう。

 ……うん? となると次の世も、その次の世に壊されるのか?


 そうやって延々と壊され続けて、いったい何が残るというのだ?

 ……何も残らぬではないか! もしやこれが「この世は夢、この世は幻」という言葉の真髄か?

 もしそうなら、永劫に相食みあう世が続くだけではないか!


 それはいかん! そんな世が続いていいはずが無い!

 きっと、きっとどこかで鎮定された世が来るはず。いや、来なければならんのだ。

 そうでなければ、全てが夢幻と消えるだけになってしまう。


 そんなのは駄目だ。それでは我が足利家も消えてしまう。そんな事が許せるか。

 決して許す事は出来ん! 私は足利家の者だぞ!

 その私が足利家が滅ぶような真似を認める訳にはいかない!


 しかしどうしたらいいのか……。やはり私はまだまだなのだろう。

 もっと勉学に励んで、必ずや足利家が滅ばぬ道を見つけてみせる。

 それを兄上に話せば、きっとお分かりいただけるはずだ!



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 Side:黒金(くろかね)



 頼朝の墓の事を話したら、義観さん、又太郎、仙太郎がジッと黙っちゃったね?

 おそらく色々な事を考えてるんだと思うけど、意味無いって気付いてないみたいだ。

 そもそも頼朝がどう考えたところで、死んだ後の事まではどうにも出来ない。


 もし頼朝が死んだ後も頼朝の思い通りになってるとしたら、それはそういう風に考えているからだ。

 頼朝の言葉を外せば普通の結果でしかない。

 つまり頼朝の言葉を前に置いて今の世を見たって意味が無いんだよ。


 だって今の世に頼朝は生きてないんだしね。

 死んだヤツに支配されてるとか、影響を受けているとか。

 そんなこと自体、生きている側が勝手に思ってるだけさ。

 死んだヤツは何も出来やしないよ。


 ま、言うと五月蝿そうだから黙っておくけどね。


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