0093
Side:黒金
今日は文保二年の一月一日。
年が明けたけど、特に変わる事も無いね。
執権が足利の屋敷に来る事は減ったけど、特に何かがあったという訳じゃないみたい。
単に色々な書を読んだりしているだけのようだ。
前にも言ってたけど、本来の執権がやらなきゃいけない事が出来ておらず、執権の仕事のほとんどは別のヤツがやってるみたい。
そいつが牛耳って好き勝手してると言った方が正しいのかな?
ただ、メチャクチャな事をしているというよりは、決まりの通りにしているだけって感じみたいだ。
本当にそれ以外が出来ていないんだって。
なので細かいところが上手くいっていないらしい。
又太郎や仙太郎は未だに勉学に励んでいるし、僕は鎌倉の町で知られるようになってしまった。
一つは鎌倉の町の中で喧嘩を何度か制したこと。
なぜか止めさせようとした僕に喧嘩を売ってきたので、影兵で殴ったんだ。
そしたら名前と顔が知られるようになってしまった。
ちなみに真っ二つ以降、賊以外は殺したりしていない。
相手が太刀を抜いたり槍で突いたりしてこない限り、僕だって相手を無闇に殺したりはしないし。
ついでに太刀を抜いた相手を真っ二つにして殺したのも噂として広がった。
それに関しては非難してくる者も居たけど、多くは理解できる、または太刀を抜いたヤツが悪いと言っている。
やはり今でも武士は武士らしい。
僕が足利の屋敷に来てから半年ぐらいは経っていて、銭は十分過ぎるほどに貯まった。
今は部屋に置いているし、その銭もあまり使う事は無い。
又太郎なんかは色々な物を買えばいいと言っているけど、買う物なんて無いんだよね。
前に稗と薩摩芋を買ってきて、一緒に入れた粥を作って仙太郎に食べさせている。
仙太郎は多少嫌そうな顔をしたものの、食べるとそこまで嫌な物じゃなかったらしく、普通に食べていた。
それを見て義観さんと又太郎が呆れていたけどね。
食べた事があったから、決して食べないで拒否していた訳じゃないけど、頭ごなしに拒否していただけみたい。
米と比べてだから分からなくもないけど、普通に食べられるのにね。
ちなみに米の半値以下だと聞くとビックリしていたし、又太郎は稗なら倍は食えるのかと驚いていた。
やっぱりと思うけど、又太郎は目の付けどころが変わってる。
もちろん悪い事じゃないんだけどね。
今日は正月なので執権の家に来ている。
何でも目上の方のところに挨拶に行くのが当然らしい。
そして正月の挨拶では、もてなす側も大変なようだ。執権の家にはたくさんの人達が来ている。
そういえば京でも公卿や公家の家にはたくさんの人が来てたっけね。
あれと同じ事をしていると考えれば分かりやすいのかな?
執権は公卿や公家じゃないけど、似たような事はしなくちゃいけないらしい。
僕が執権の家に来ているのは付き添いだ。
何故か義観さんと共に来ていて、又太郎や仙太郎は居ない。
正月の挨拶は当主のみが来るのが基本なんだそうだ。
じゃあなんで僕がと思うが、僕が来るのは執権から言われたからみたい。
なんでだろうね?
「いやぁ、よくぞ来てくれた。挨拶が多くて疲れるわ。
もちろん受けぬなどという事はあり得ぬのだが、少しずつの挨拶でも、こう人が多いとのう」
「お疲れ様でございます」
「お疲れ様です」
「うむうむ。黒金の顔を見ていると元気になってくるわ。
それに義観もよう来てくれた。そなたらが来てくれると楽になる。
何を考えておるのか分かる眼の者ばかりじゃ。呆れてくるやら何やら」
「執権様」
「分かっておるよ。されど愚痴が言いたくなるほどに鬱陶しいのも事実なのだ。
我は確かに父上の背を見て育たたなかった。
父上は酒浸りで、我には何も教えては下さらなかったからの。
とはいえそれだけで見下される謂われなど無い」
「そのような者どもが?」
「ほほほほほほ、多くおるよ。いい加減にせよと思う程度にはの。
内管領と外戚が好き勝手をしておるからこそ、そちらにすり寄っておる者が多いがな」
「それは……」
「別にそれで良いんじゃないの? 何か問題があったら、そいつらに責を押し付ければいいと思うよ。
だってそいつらの所為だし」
「……ほほほほほほほ!! そうじゃの! そうじゃのう! 失敗でもしたらば、そう言うてやるか。
おのれらの失敗なのだから、おのれらで責をとれとな。
ほほほほほ、やはり黒金と話すと楽しいわ」
上機嫌な執権とその後も幾つか話したけど、すぐに他の客が来たので僕達は帰る。
執権は名残惜しそうにしていたけどね。その帰り道に義観さんが僕に言う。
「そなたの言いたい事は分かるのだが、難しかろうな。
執権様は頂点じゃ。何かあれば責はとらねばならぬ。
ただし内管領や外戚に重い責を与える事は可能であろうな」
「好き勝手にしてるのに、執権が責をとらなきゃいけないの? それって変だね。
執権の下で好き勝手してるなら、それは執権の所為じゃないでしょ」
「まあ、そうなのだがな。
執権様のお立場では、その者達に好き勝手をさせない必要がある。しかしそれは無理じゃ。
内管領や外戚が政の仕方を知っておるからな」
「執権は何をやっていいか分かってないから、勝手な事をしている奴らを認めるしかない?」
「そういう事じゃ。とはいえ、確かに両者共に好き勝手をし過ぎではある。
いつかそれが大きな問題にならぬかと思うておるのだが……」
「すでに大きな問題だと思うんだけど、そうじゃないの?」
「それを言われると返す言葉が無いの。
確かに今の時点ですでに大問題なのだが、今さら言っても始まらぬ。
それこそ頼朝公の血筋を三代で途絶えさせた事まで遡らねばならんからの」
「そんな事を言ってたけど、なんで頼朝公の血筋って三代で途絶えたの?」
「まあ、色々あるんじゃよ……」
義観さんは言い難そうにしているから、これ多分だけど暗殺されたね。
その後で力を持ったのが北条ってヤツなんだから、暗殺したのは北条かその近くのヤツだ。
結局は平氏と似たような滅び方してるじゃん。
「ところで歩いているけど、これどこに向かってるの? 屋敷は向こうだよね?」
「頼朝公の墓じゃよ。参拝する者は少ないが、おらぬ訳ではない。
ワシは正月になると必ず頼朝公のお墓に参拝しておるのだ。
鎌倉の世を作られた方の墓じゃからの」
お墓に参ったところで意味なんて無いと思うんだけどね?
それでも義観さんが行くというなら付き合うかな?
とあるお寺に入ると坊主に案内される。
寺って悪いヤツばっかりっていう意識しかないけど、出てきて案内してる坊主は普通だ。
でも暴れてたヤツとか居たしなぁ……。
頼朝の墓だっていう所に案内されたので義観さんがやっているように祈っているフリをする。
僕は頼朝に興味なんて無いからね。
それよりもこっちの方が気になる。
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源頼朝の墓
鎌倉の世を作りた征夷大将軍であるが、最期は暗殺されて死亡した。しかし本人は北条氏に実権を奪われる事を理解しており、愚か者どもが奪い合う醜き世を作る為に動いておったのだ。この世は夢、この世は幻。大相国を見てそれを悟ったようだの
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神様の眼で視ると、そんな言葉が出てきた。
ちょっとビックリしたけど、ここで言うのはマズい。
なので神妙にしているフリをしつつ義観さんと寺を後にした。
帰り道で僕は義観さんに話しかける。
「さっき神様の加護の眼で視たらさ、北条氏に力を奪われるのを分かっていたみたいだね。頼朝公は」
「なんじゃと!?」
義観さんはビックリした後で周りをキョロキョロし、その後は僕の手を引いて急いで歩く。
まだ全部説明してないんだけど?




