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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:黒金(くろかね)



 執権と護衛が僕の言葉を聞いてガックリしてるけど、なにか落ち込む事でもあったかな?

 ちょっと待っていると、執権が口を開いた。


 「………ならば間違いないの。敦盛(あつもり)公を討ったのは、そなたであったのか。

 幾らなんでも捻じ曲げ過ぎであろうよ。何だか気が抜けたわ、まったく」


 「僕は逃げればいいって言ったんだけどね、敵に背を向けて逃げられるかって怒ってたよ。

 他の平氏は関係なく逃げてたのにさ。

 そこは立派だったんじゃないかな? なぜか一騎打ちをやたらにしたがってたけど。

 でも僕相手にしてどうするんだろうね?」


 「………確かにの。(わらし)相手に一騎打ちも、どうなんじゃろうな?

 それはそれで卑怯ではないのかと思うわ」


 「僕も霊兵で殺したから何とも言えないけどね。

 とはいえ将門の短刀を汚したくなかったし、仕方ないかな?」


 「まさかど? ……それは平将門公か!?」


 「そうだよ。この短刀が将門から貰っ、危ない!!」


 バシィ!!


 僕が伸びてきた手を叩くとビックリした顔をこちらに向けてきた。

 叩いたのは悪かったかもしれないけど、触れるとマズいのを理解してないからな。


 「この将門の短刀は認められた僕か、知り合いだった葛葉(くずは)以外が持つと、祟られて呪い殺されるんだよ。

 昔、僕から奪おうとしたヤツが実際に呪い殺されたからね」


 「そ、そうか……すまぬ、助かった。

 確かに将門公と言えば首が飛び、怨みと憎しみの果てに怨霊になられたのだったな。

 不用意に持てば呪い殺されても文句は言えぬか。危なかったわ」


 「いきなり他人の物を触るのは駄目だよ、どういう物か分からないし危険だ。

 僕は問題ないからいいけど、他の人にとっては危険って事はあるからね」


 「うむ。胆に銘じておこう。流石に呪われとうないでな」


 「お待たせいたしました。申し訳ございません」


 又太郎と仙太郎が来たみたいだ。

 一応出てこなくちゃいけないんだろうけど、元々は僕に会いに来ている。

 なので、勉学に励んでいていいって言ってたんだよね。執権は。


 「なになに。黒金(くろかね)から話を聞けておったし、そもそもの目的はそれじゃからの。

 それにしても敦盛(あつもり)公の首を獲ったのが黒金(くろかね)だとは思わんかったが」


 「「えっ!?」」


 又太郎と仙太郎が一斉に僕を見てきた。

 そんなに見られてもね、若武者のあつもりなら間違いなく僕が首を獲ったヤツなんだよ。

 くまがやとかいうヤツが獲った事になってるらしいけど。


 「まさか敦盛(あつもり)公の首を獲ったのが黒金(くろかね)だったとは……。

 平家物語には熊谷直実(なおざね)が獲ったと書かれていたが、違っていたのか」


 「なんだかもう、色々と信じられなくなってきました。

 何が本当の事なんでしょう?」


 「誰かが適当な嘘を書き記したか、それともそういう話に仕立て上げる必要があったか。

 我が祖先とは関わりが無いが、それでも我が足利の名が出てくるのは負けて首を獲られたというところだけだぞ」


 「そうなんですよね。海野なにがしという方と共に負けて首を獲られただけ……」


 「それでも京の近くで戦ったから知ってるんだよ?

 東国の事なんて分からなかったから、こっちの事なんて碌に知らないしさ」


 「それでも負けただけというのは……。祖先でないだけマシではあるけど」


 「そうじゃの。祖先では無いとはいえ、負けたという事だけではな。我が北条はどうなのだ?」


 「知らない。そもそも京の都では聞いた事も無いよ。

 多分だけど来なかったからじゃないかな? 来ていなければ聞かないし」


 「そうか……。

 まあ、我が家は頼朝公をお助けしておったであろうから、鎌倉から動いたりはせなんだであろうな。

 それでは京の都で名を聞く事などあるまい。

 それでも<山猿>として名が残らなかっただけ良かったわ」


 「木曾殿はちょっとアレですからな。

 黒金(くろかね)から話を聞いて、何故にそのような事をされるのかと思いました」


 「そうじゃの。次の帝を勝手に決めようとするなど、朝廷の方々からすれば言語道断であろう。

 あまりにあまりで、確かに<山猿>と(ののし)られても仕方のない事よ。

 やってはいかん事は、やってはいかんのだ」


 「しかも平氏に負けるわ、鎌倉に進軍すると言うわ、勝手に興福寺に鎌倉討伐の兵を出せと命じるしさ。

 あれは駄目だよ、どうにもならない。

 挙句の果てには負けて討ち死に。本当に何の為に京の都に来たのか、未だに謎なんだよねー」


 「確かに黒金(くろかね)が言っていた通り、倶利伽羅(くりから)峠から全く良いところが無い。

 流石の私も義仲公の事をちょっと考え直す事にした。義経公は考え直さぬが」


 「九朗かぁ……そういえば神様の加護の眼で最後に()た時、妙な言葉が見えたんだよね。

 あれって何だったっけ? 何か聞いた事が無い言葉だったんだけど」


 「ふむ。義経公の事が何か分かるかもしれん。頑張って思い出しておくれ」


 「んー……」


 なんだっけ? 何か妙な漢字だったような記憶があるなぁ。

 なんだが鳥だとか蔵だとか、読み方がよく分からなくて、意味が分からなかった……あ、アレだ! 思い出した!!


 僕は又太郎に鉛筆と紙を頼んだ。

 すると又太郎はすぐに取りに行ってくれ、そして戻ってきた。

 僕は読み方が分からなかった漢字があると言いつつ、その時に()た言葉を書く。


 「絞兎死して良狗()らる、高鳥尽きて良弓(おさ)められ、敵国破れて謀臣(ほろ)ぶ。

 ………漢の国を興した劉邦。その劉邦に仕えた将軍である韓信に対し、家臣である蒯通(かいとう)が言った言葉じゃの」


 「ええ、自分も存じております。

 兎を獲ってしまえば、獲るのに役立った狗も食われる。

 鳥が尽きれば良い弓も必要なくなり蔵に収められ、敵が居なくなれば忠義を尽くした家臣も邪魔となる」


 「これを神様の加護のある眼で見たとなれば、答えは一つじゃ。

 頼朝公にとって義経公は邪魔になったということ。

 つまり、その時すでに頼朝公は義経公を殺そうとしておったという事になる」


 「そんな………。平氏を討つ為に戦をし、あそこまで尽くした義経公をなぜ……」


 「それは間違いじゃろう。

 頂点にあられるは頼朝公なのだからして、それ以上の名を持つ者など邪魔にしかならぬ。

 たとえそれが平氏を討った義経公であろうとも、そこは変わらぬのだ。

 言い替えれば、義経公は活躍をし過ぎた。それに尽きる」


 「活躍するのは立派な事なれど、主以上に名を売っては謀反の疑いを持たれても仕方がない。

 家臣はあくまでも家臣なのだ。分を(わきま)えねばならん」


 「それは………」


 「そもそも九朗は最初に神様の眼で()た時、顔と腹の中が一致しないヤツだから気をつけろと言われたくらい、性格の悪いヤツだからねえ。

 殺されたとしても仕方ないんじゃない?」


 「義経公は性格が悪かったのか………それは初めて聞いたな」


 「顔は笑ってるのに目が笑ってないんだよ。

 言ったじゃん、目が笑っていない状態じゃなかったのは、弁慶を見る時だけだったって。

 それぐらい他人を信じていないヤツだったよ」


 「なるほどのう。義経公がそういう方だったと知れば、また書の内容も変わってくるな。

 これはもう一度読み直した方がよいかもしれぬ。

 今日は良き話がたくさん聞けた、感謝するぞ。ではな」


 そう言って執権は帰って行った。

 それを見送ってから、ようやく又太郎と仙太郎は長い溜息を吐く。

 どうやら疲れたらしい。


 僕も面倒くさかったよ。暇だからってわざわざ来られても困るんだよね。

 あれの相手をしていると山に行けないからさ。お肉の期間がズレたりするんだよ。


 僕にとって執権なんてどうでもいいし、興味も無い。

 勝手にフラフラしてればいいけど、こっちに迷惑をかけるのは止めてほしいよ。本当。


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