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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:黒金(くろかね)



 僕が鎌倉に来てから二ヶ月が経った。今は文保元年九月の五日だ。

 義観さんは忌明け(四十九日)後にすぐお肉を食べていたね。

 しかも美味しそうに食べていたよ。長かったから余程に食べたかったんだと思う。


 最近は炊き込みご飯などにもお肉を入れてるし、足利家も普通に食べるようになった。

 台所方の人達も色々と工夫をしているみたいだ。

 あの人達にも余った部分とかは渡しているので、色々とそれでやっているみたい。


 ちなみに稀人(まれびと)が残した料理の一つにハンバーグというのがあるけど、それを作るのは非常に面倒くさいんだ。

 ただ、影兵に任せると楽なので、僕は(もっぱ)ら影兵に任せている。

 本当に面倒くさいんだよ。


 ちなみに今日までに四度ほど執権という人がやってきた。

 聞かれたのは僕が居た頃の話ばっかりだったね。余程に昔の話は楽しいらしい。

 僕にとっては普通の事でしかないんだけど、この人達にとっては違うんだろう。


 護衛の連中も熱心に聞いていたし、頷いている事も多かった。

 なお、僕が殺した護衛の弟も加わってたけど、そいつは兄が殺された事をなんとも思っていなかった。

 不思議だったので聞いてみたら、あいつは性格が悪くて嫌われていたそうだ。


 一応次男なので自分より上だが、それを笠にきて虐めてくる事が多かったんだって。

 しかも他人には分からないように虐めてくるから性質(たち)が悪かったんだそうだ。

 人を殺して喜ばれるのもどうかと思うけど、こういう事もあるんだね。


 そんなこの日、またもや執権の人がやってきた。

 理由は昔の事が聞きたいらしい。

 とはいえ今まででほとんど話したけどね?


 「今日聞きたいのは京の都の事じゃの。

 古の京の都とは如何(いか)な所であったのであろうかと思うてな」


 「昔の都……かぁ。普通に都だったけどね? なんと言ったらいいんだろう?

 自分が生きてたから、これといってどうこうと思った事は無いんだ。

 自分が暮らしてる町ってだけかな?」


 「ふむ……ではどのような物が流行りておったのだ?」


 「流行りねえ……。僕が居たのは下京だから、普通に民が暮らしている場所だよ。

 だから流行りとかそういったものは無かったかなぁ……。

 うん、そんなのがあった記憶は無いね」


 「今様が流行りておったのではないのか?」


 「いまよう……ああ、後白河院が若い頃に好きだったってヤツね。

 僕が居た頃には流行りというよりは普通って感じだったけど? やってる人も居るってぐらいかな?

 僕は興味なかったし、どうでもよかったから知らないし出来ないね」


 「ふむ、なるほど。その頃には今様は普通の事になってしまっておったか。

 確かにそれでは流行りとは言えぬのう……」


 「それに京の都も戦に巻き込まれたり、治安が悪くなってたりしたからね。

 流石にそういう頃には皆が大人しくしてるよ。

 平氏が横暴だったり源氏が横暴だったりしたし」


 「源氏が横暴か?」


 「源氏も横暴だね。どっちにしたって悪いヤツは居るよ。

 平氏だって京の都の奴らは……まあ、源氏を虐めたり馬鹿にしたりしていたらしいけど、賊紛いの事はした事ないんだ。

 むしろ賊紛いの事をしていたのは源氏だしね」


 「むう……そうなのか」


 「それに京の都の平氏と地方の平氏もまた違ってた。

 地方の平氏は相当に酷く源氏を扱ってたみたいで、怒りと怨みと憎しみは凄かったよ。

 都の源氏も怨みや憎しみは持ってたけど、地方の源氏ほどじゃなかったね。

 それは間違い無い」


 「都の源氏の方々は、そこまで怨みや憎しみは持っていなかったと?」


 「そうだね。特に母方が平氏と言う人も多かったから余計にじゃない?

 片方は平氏なんだし、難しい立場でしょ」


 「なるほどのう、確かにそれは厄介じゃな。

 母方が平氏だと憎むに憎めんところはあろうな。

 それで都と地方では違うわけか、分からぬではない」


 「それに平氏は国司として任官されたら、地方に来て色々と奪っていったと言ってた。

 だから地方に来た平氏が随分と悪さをしていたんじゃないかな?

 力で潰して回ってたとか、在地の者と結託して好き勝手してたとか聞くし」


 「そうか……。当時の事も分からぬ事は多いからのう。

 そういえばじゃが、そなた義経公と共に戦ったとか言っておったのう。

 ならば一ノ谷の戦いはどうだったのじゃ?」


 「一ノ谷ねえ、聞きたいのは鵯越(ひよどりごえ)の事?」


 「その通りよ。あの逆落としは何度読んでも驚くべき事じゃからのう。

 我もあの場面では震えが来たわ」


 「あれはいつも通りに九朗が奇襲すると言い出して、またかと思いつつ付き合わざるを得なかったんだよねー。

 それに精鋭七十騎とか言ってたけど、多くは震えてたし。

 まあ、結構な崖だったから当然だけど」


 「むう、やはり精鋭でも足が震えるほどの恐ろしき事であったか。

 書では怖れておるような事も書かれてあったからのう。仕方ない事ではあるが……」


 「鵯越(ひよどりごえ)を越えるまでは藪の中のような場所を延々進んだだけだね。

 面白いところも何も無いよ、唯々疲れただけ。

 そして逆落としっていうの? あの崖はさっさと下りたよ。

 僕が一番早く下りたし」


 「ぬっ? 義経公が一番先であろう?」


 「確かに九朗が一番最初に行ったけど、途中で止まったからね。

 そこで僕の方が先に行ったんだよ。

 そこは真っ直ぐと言ってもいいほどの崖だったからさ、九朗も流石に止まったんだ。

 僕が下りた後に下りて来たけど」


 「そなたはそのような危険な所、よく下りられたな?」


 「僕の場合は乗ってたのが霊兵、つまり黒馬だからね。

 落ちて死ぬとかないからさ、それでさっさと下りたんだ。

 馬が転落して死ぬ事はあったけど、源氏の誰も死んではいなかったよ。

 その後は一気に進んで奇襲だね」


 「うむうむ。敵陣に突入して暴れ回ったと聞く。素晴らしき活躍じゃ」


 周りに居る護衛も「うんうん」と頷いてるから、よっぽど好きな場面なんだろう。

 僕としては普通に戦っただけだから何とも思わないけど、書で読むと違うのかな?


 「その後は煙の出ているのを見て取った範頼(のりより)公が突撃を命じ、一気に突破して敵を打ち倒すのだ。

 そして熊谷直実(なおざね)という方が悲劇の武士と出会ってしまう」


 「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり。

 一度生を()け、滅せぬもののあるべきか。

 これを菩提の種と思ひ定めざらんは、口惜しかりき次第ぞ。

 ですな」


 「うむ。平敦盛(あつもり)公よ。

 御年十六でありながら、見事な武士としての振る舞いである。

 真の武士とは斯様(かよう)な者なのであろう」


 「あつもり? 僕もあの時にあつもりっていうのに会ったけどね?

 何故か一騎打ちだ勝負だと言われたけど、断ったら地団駄(じたんだ)踏んで怒ってたよ。

 その後、馬に乗って問答無用で襲ってきたから、符術で叩き落としてやったけどね」


 「「「「「「………」」」」」」


 「しかもその後に九朗の従者が矢を射ってさ、それがあつもりの右足に刺さったんだ」


 「義経公の従者が一騎打ちの邪魔をしたというのか? そんなバカな!?」


 「でも九朗は言ってたよ?

 「一騎打ちは武士同士の作法だ。平民の陰陽師相手にする事じゃない」ってね。

 で、その後、あつもりは邪魔をした者に首を獲られるぐらいなら僕に獲れって言ってきたんだ。

 で、仕方なく僕が首を獲った」


 「………となると、もしかしたら書物の方のは作り話か?

 何か証となる物は無いのか? 敦盛公の笛とか」


 「笛? なんで笛が出てくるの?

 ……意味が分からないけど、その後に頼朝公? 鎌倉殿? から褒美は貰ったよ。

 太刀だったけど、僕には使えないから斯明(かくめい)の家に置きっぱなしにしてあるね。

 まだあるかな?」


 「「「「「「………」」」」」」


 「面白いよね。わざわざ「白銀」っていう銘の太刀を送ってきたんだよ。

 なんで僕の名前を逆にした太刀を送ってきたのか知らないけどさ。

 実際に渡してきたのは九朗だったけど、半分笑いながら渡すのは止めてほしいよ」


 「そ、そうか。頼朝公がそなたに褒美をな……。

 という事は、おそらく敦盛公を討ったのはそなただったのであろう。

 その敦盛公は若くなかったか?」


 「若武者だと言われてたよ。そんな若者の首を獲っても恥にしかならないって。

 だからお前が獲って功にしてやらねばならぬ。

 そう言われたのを覚えてる」


 僕の言葉を聞いて、執権と護衛がガックリしてる。なんかあったのかな?


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