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Side:黒金
「それよりも黒金、お主やってくれたようじゃの?
執権様は喜んでおられたそうじゃが、まさか護衛の者を切り殺すとは……」
「父上、あれは護衛の者が悪い。
あの者は黒金相手に太刀を抜いたのだ。抜かねば殺されておらん。
武士にも関わらず安易に太刀を抜くのはどうかと思うわ。
執権様も弛んでおると言っておられたぞ」
「………はぁ、分からんではないがな。
それに源平の頃と言えば、確かに舐められたら負けよ。それ故にお互いに緊張感があったと伝う。
相手の面目を汚せば殺し合いは免れぬ。だからこそ安易には動かなかったとも」
「それがいつしか軽々しく争う者が増え、御成敗式目が作られた。
そして守られるようになったが、安易に太刀を抜く者がおる。
むしろ抜けば死ぬとなっておった方が、抜く者は少ないのかもしれん」
「言いたい事は分からぬではない。
相手が下っ端で己を害する事はできぬと思うから舐めるのだ。
抜けば殺されると分かっておれば抜く事など絶対にあるまいよ。
おそらくは黒金の見た目で抜いたのであろうが、愚かに過ぎるのは間違い無い」
「そもそも黒金のような童の見た目の者に殺されたのだからして、恥にしかならぬと思うが?
そう言えば良いとしか思えぬ。実際は真っ二つにされて死んだがな」
「真っ二つ、か………とんでもないのう。
当たり前の事だが、人が真っ二つになるなど、そうそうあり得ぬ事ぞ。
それが出来るという事が既に尋常ではない。やはり伝説の稀人である事は疑いようがないな」
「とりあえず父上、勉学の合間に黒金から陰陽師の技を習う事にした。
それならば良かろう?」
「又太郎。お主、まだそんな事を言うておるのか」
「父上、陰陽師の技とて知っておるのと知っておらぬのでは違うぞ?
黒金は霊力というのを感じる事で、相手の居場所を把握しておる。
これが出来るようになれば不意を打たれる事は無くなるという」
「まことか?」
「そうだよ。霊力が感知できるようになれば、霊力のある場所が分かるようになる。
人は誰でも霊力を持ってるからね、多いか少ないかはあるけどさ。
でもその霊力の位置が分かれば、それが人の居る位置だから、隠れてても分かるよ」
「なんと……」
「という事で、オレは陰陽師の技を習う。
まあ、実際には陰陽師の技ではなく、大妖怪の技らしいのだが」
「大妖怪じゃと!?」
「父上も聞いた事があろう? 京の都には数百年も生きる大妖怪が居ると。
どうもそれは黒金の知り合いらしい。
そして源平の頃に黒金は習ったのだそうだ」
「そうであったか。しかし京の都の大妖怪と繋がりがあるとは思わなんだわ。
確かじゃが、大妖怪は公家の安倍家と関わりがあったはず……今は土御門家だったかの?」
「さて? その辺りは詳しく分からん。
公家の家は山ほどあるからな、詳しくなど覚えてもおらんよ。
それよりも再び執権様が我が家に来そうなのがな、なんとも言えん」
「それか。先代様がご立派に勤めを果たされておられれば良かったのだが、晩年はな……」
「オレ達にすら聞こえてくるほどに酒浸りであったと聞く。
出家されておられたのに酒を飲むのはどうかと思うが、執権様に物を言えるわけも無し」
「そうじゃの。
それはともかくとして、先代様が政をされる様を見ておられぬ今代様は、如何様に政をしてよいかが分かられぬのだ。
仕方があるまいがな」
「先代様が為されなかったので、見た事も無く分からぬか。それ故に内管領や外戚が勝手な事を?」
「勝手と申すな。決まっておる事を、決まっておる通りにやっておるだけじゃ。
決まりを守っておる事そのものに間違いはない。………間違いはないのだがな」
「それ以外が出来ぬか。決まり通りに物事を決めるしか出来んとは、これからが不安になる」
「言うな、我が足利は支える立場じゃ。それだけは忘れてはならん」
「うむ。それは分かっておる。
話を戻すが、また来られた場合はどうすればよいのだろうか?」
「それよ。執権様は政をされておられぬから暇なのだ。
それ故に色々と出歩かれておられるのであろうが、困ったものよ。
いきなり来られても歓迎も何も出来んぞ」
「そうなのだよな。そこはどうしようもあるまい。
いきなり来られるのだからして、出来る事をするしかないであろう。
それに何度も来られるかどうかも分からんしな」
「うむ………それにしても美味そうに食うておるな? 仙太郎も手を出しておるし」
「いや、それは、その……」
「仙太郎はこんなものだ。
見た目とか聞いた事で否定するが、実際には己で確かめてみぬ事には分からぬ。
にも関わらず、誰ぞから聞いた事を鵜呑みにする。
そろそろ己で考えるという事をするべきだ」
「しております!」
「であるならば、頭ごなしに否定するな。
そなたは何でもそうだが、すぐに否と言いすぎなのだ。
食べてみて美味かったのだろう? それを食いもせずに否定しておったのだぞ」
「………」
「大変だねぇ……。余計な事を言わなきゃよかったのに、っていうヤツはよく居るけどさ」
「お主はお主で好きにしとるのう。
まあ、悪い事をしておる訳では無いから構わんが……。
それにしても美味そうじゃな。忌明けまで食えんのが残念でならん」
「当主は忌明けまで、血の穢れに関わる物を食うてはならんからな。
これに関しては仕方がないのであろう」
「そうなの? 誰も気にしないと思うけどね?
そもそもお肉を食べたところで関係ないと思うし。
亡くなった人がお肉が好きだったからって、盛大に食べてる人達とか居たけど」
「それは出家しておらぬ者達であろう。出家したらば穢れは気にせねばならんのだ」
「ふーん」
よく分からないなぁ。そんなに気にしないと思うけど。
だって死んだ人にとっては関わりない事だしね、誰が何を食べるかなんて。
夕餉が終わったけど、その時には義観さん以外の全員が食べていた。
美味しかったらしいので良かったけど、肉類はやっぱり良い物が少ないみたいだ。
売ってるのは売ってるけど、割と高いらしくあんまり食べないとのこと。
さらに言うと美味しくないんだそうだ。
夕餉に出した内臓の炒め物も、普通のお肉みたいに臭味が無かったと言ってた。
影兵みたいに綺麗にできないから当然なんだろうけど、臭いお肉は好きになれないみたいだね。
僕は昨日と同じ部屋に案内してもらったので、そこで古兵と影兵を出して寝転がる。
ちょっと早いかもしれないけど眠たくなってきたので、さっさと寝ようっと。
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あれから十日経った。順調に鎌倉近くの妖怪は退治し、お肉も充実してきたよ。
一日に一度、何かは狩ってくるので途切れる事は無い。
そして二日目からは僕一人で狩りにも行けるようになった。
どうやら心配しなくても大丈夫だと思ったみたい。
又太郎も仙太郎も勉学に励んでいるけど、どちらも息抜きは普通にしている。
木刀を振ったりしながら剣の練習をするのが息抜きみたい。
両方とも強いし筋が良いんだってさ。剣術を教えている人がそう言ってた。
その人は何故か強さを自慢していたので、古兵と戦わせたらボコボコにされて負けてたけどね。
とはいえ本人は気にしてなかったけど。
どうやら霊兵で、しかも古の兵に負けたならしかたないって事らしい。
たまに手合わせを頼まれるから、僕が居る時にはやってるよ。
当然、古兵が持っているのも木刀だし、相手を殺すのは駄目だと言ってある。
じゃないと木刀でも人は殺せるからね。
それにしても戦うの好きだなぁ。
僕は妖怪と戦ってるから、それだけで十分だよ。




