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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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0089




 Side:黒金(くろかね)



 とりあえずしっけんとかいう人は帰ったので、僕は料理を再開する。

 とはいえ、どっちにするかは未だに悩んでいるんだけど、本当にどうしようかな………


 「そういえば焼くか脂を取るかで悩んでいたのだったな。

 執権様が来られたので、すっかり忘れておった。

 さて、どちらにするのだ?」


 「それを悩んでるんだよね、いったいどっちにしたらいいかと思ってさ。

 鍋が必要なら買いに行けば済むし、焼くなら焼いてから出すか焼きながら食べるかだし。

 どっちでもいいんだけど、どうしよう?」


 「もうどっちでもいいのではないか? 私はお前が色々とおかしくて疲れた。

 これが源平の頃だと言うのであれば、私は源平の頃では生きられん」


 「そんな事は無いでしょ。その時に生きていれば、どうせ普通になる。

 皆は慣れてただけだし、生きていれば慣れるよ。必ずね」


 「そもそもオレ達だって、今に慣れているとも言えるしな。

 執権様が太刀を簡単に抜くな、抜いたら斬られる覚悟をしろ。

 そう(おっしゃ)られれば、それに慣れるのだ。そんなものだぞ、仙太郎」


 「そんなものでしょうか………」


 「それよりこのまま置いておいて、鍋を買いに行こうか。

 ちょっと影兵に持っておいてもらえば済むし」


 という事で僕達は再び町中へ。

 鍋と板を二枚買い、それで小銀板一枚と大銅貨二枚を使った。

 板は(まないた)や揚げ終わった後のかす肉を置く為の物だ。

 他にあればいいんだけど、今のところはこれでいい。


 足利家の屋敷に戻ると、誰かが居たので又太郎が話しかけた。

 なんか五人ぐらいが困っている感じでウロウロしている。


 「我が家の屋敷前でいったい何をしておられるのだ?」


 「これは、足利家の方でしたか。

 実は我が家の御次男様が殺されたとの事で、執権様より亡骸(なきがら)を引き取ってこいと……」


 「ああ、その事であられたか。こちらへどうぞ」


 そうして案内した場所で、五人の男達は唖然としていた。

 おそらくは頭の上から股間まで真っ二つになってるからだろう。

 男達は大きな板を持って来ていたけど、それに真っ二つになった男と零れた〝色々〟を載せて持って帰って行った。


 その男達になんとも言えない顔を向ける仙太郎と、()して気にもしない又太郎。

 本当にこの兄弟はバラバラだなぁと思う。ここまで違うって不思議だね。


 「とりあえず今の内に揚げてしまうよ。そうしないと日が暮れそうだしね。

 まずはそこの石をちょっと借りるよ。古兵、そこの石を何個か持って来て」


 庭にあった手頃な石を持って来てもらい、鍋が置けるように石を配置したら、その上に鍋を置く。

 ……よし、倒れたりしないね。


 その後は薪と炭を少々もらい、火を着けて燃やしていく。

 鍋が温まったら水を少し入れて沸騰するまで待つ。

 その後に切った(はらわた)を投入。

 ジュワーっと揚がる音がしてくるので、そのまま十分に脂が出るまで揚げる。


 十分に脂が出切ったら、板の上に箸で上げて次を投入。

 その繰り返しで脂を抜いていく。

 音がするからか台所の人達が見に来たけど、僕が(はらわた)を揚げていると知って驚いている。


 「あちち、ほふほふ………うん! 普通に肉の味がするな?

 ただし噛んでも噛んでも、くにゅくにゅしておる。これはどうすればいいのだ?」


 「適当に噛んだら飲み込むといいよ。これはそういうものだから。

 今日すぐに食べてもいいけど、保存食にするなら明日外で干して乾燥させないといけないね。

 今日はもう夕方に差し掛かってるから無理だし」


 「そういえば保存食になるとか言っていたな。

 確かに保存食にしておけば長くもつのだから、そちらの方が良いと言えばいいのか」


 「今日食べられるとしたら、心臓と肝臓ぐらいかな?

 肝臓は苦味が多いから好みは分かれるけど、心臓は普通に食べられるよ。

 肝臓は小さめに切って、野菜と味噌炒めにしたら食べられるでしょ。

 体には良いし」


 「ほう、肝臓というのがよく分からんが、意外に食える所というのは多いのだな。楽しみだ」


 「肝臓は肝の事だよ。神様の眼で()ると肝臓と出ているから、僕はそう呼んでる」


 「そんな事を言っていたな、神様の加護の眼と……

 それは人だけではなく色々な物を見て知る事が出来るわけか、凄いな」


 「まあね」


 そんな話をしつつ揚げきった僕は、鍋の脂をどうするか悩み、とりあえずは放置する事に決定。

 引き取ってもらうにしても明日だ、明日。


 僕は台所の人達にことわりを入れて、味噌とか色々な物を借りた。

 そして余っていた野菜と肝臓と心臓、そして少しのかす肉を入れて炒めたら完成。

 それなりの量になったから食べられるでしょ。


 「大きな皿に乗せるのだな? 膳に乗らんぞ。

 何故そういう大皿に乗せたのかは知らぬが」


 「これはそれ専用の箸で小皿に取り分けるんだよ。

 食べたい人は食べ、食べたくない人は食べなくてもいいようにね。

 仙太郎とか食べたくないんでしょ?」


 「それは、まあ……」


 「なるほど、食べなくて余るのはもったいないからな。

 美味かったら残りはオレが全部食う」


 「兄上……」


 いや、美味しい物はたくさん食べたいって言ってるだけだから、普通の事でしかないと思うけどね?

 又太郎って物怖じしないというか、細かい事を気にしないよね。

 もしかしたら違うのかもしれないけど。


 そんなこんなで夕餉。

 皆の前に膳が運ばれていくけど、僕は影兵に大皿を持ってこさせて説明する。

 (はらわた)と聞いて唖然としたけど、僕は一切気にしないで影兵に小皿へ取ってもらう。


 そして膳の横に置いたら一口食べてみた。


 「うん、変わらないね。これだよ、これ。

 心臓も肝臓も(はらわた)も普通に食べられるんだから、食べなきゃ損だよ」


 「オレの分も取ってくれ、できれば大盛で」


 「又太郎、正気か?」


 「父上、食べてみねば何も分かるまい。

 黒金(くろかね)はそもそも食べていたというのだ。ならば問題なく食べられる物であろう。

 後は食べてからの判断だ」


 そう言いながら小皿を受け取り、早速口に運ぶ又太郎。

 本当に躊躇(ちゅうちょ)とか一切無いね?

 まあ躊躇(ちゅうちょ)する理由も何も無いんだけどさ。


 「……ふむ、肝臓というのは確かにちょっと苦いな。とはいえ食えない苦さでもない。

 あと心臓は普通に美味いな。これは苦味も何も無く、普通に肉だ。

 そしてくにゅくにゅしておる(はらわた)だが、味が染みておるのか結構美味いぞ」


 「でしょ。

 そもそも狩りに出る人とかは肉を売っても、こういう内臓なんかは自分の家で食べてたんだよね。

 むしろ、こういう内臓が食べられるのは獲ってきた人の特権みたいなものだよ」


 「ほう。獲ってきたものの特権な。

 ワシはまだ肉などの物は食えぬが、忌明け(四十九日)すれば食べてみても良いかもしれん」


 「父上。父上は出家しておられるでしょうに。

 にも関わらず肉を食うのですか?」


 「仙太郎、何を勘違いしている? お釈迦様とて肉を食うておられたのだぞ?

 かつての稀人(まれびと)が伝えておる。お釈迦様が禁じたのは酒であって肉ではないと。

 お釈迦様でさえ肉を食うておられたのに、肉を食うのを禁じる訳が無い」


 「……そうなので?」


 「そうじゃ。

 肉を食うのを禁じられておったのは修行の身にある者でな、説法などを行えるようになれば肉を食うても問題ない。

 絶対に駄目なのは酒を飲む事だ。不飲酒戒と言ってな、明確に戒律にも書かれておる」


 「そうだったのですね、知りませんでした」


 「仙太郎はもっと色々と学ばねばならんの。まだまだこれからではあるが」


 仙太郎は五月蝿いからね。少しは学んで落ち着いた方がいい。


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