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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:黒金(くろかね)



 さて、どうするか……。

 僕は新しい鍋を買ってくるかどうかを悩んでいる。

 これからも(はらわた)から脂を抜くのなら新しい鍋が必要だし、今回だけなら焼いて食べれば終わる話だ。

 むぅ、悩むな。


 「そんな事で、そこまで悩むのか? たかだか脂を抜くかどうかだろう」


 「脂を抜いた(はらわた)は、その後に天日で干して乾燥させるんだ。

 そうすると長く保存できる食べ物になるんだよ。

 かす肉というんだけどね、それにするという手もあるから悩んでる」


 「長く保存できる、か……。それは兵糧にもなりそうだな。

 出先で(はらわた)とはいえ肉が食えるのはありがたいと思うぞ」


 「それもあるんだけど、(はらわた)って大量の脂を含んでるんだ。

 それを抜いているから煮物にも使えるんだよ。

 入れると結構美味しい出汁が出るんだよねー。

 そういう使い方も出来るから便利なんだ」


 「ほーん……なら脂を抜いたらどうだ?

 鎌倉の町にも石鹸を作っている所はあるはずだぞ。我が家でも使っているからな。

 とはいえ、あれが(はらわた)から出来ているとは思わなんだが」


 「そうなの? 石鹸は油と灰と塩で出来るんだよ。斯明(かくめい)がそう言ってたから。

 京の都の外にさ、色んな人が住んでるところがあるんだ、下京のさらに南だけど。

 そこの人達が作っててさ、それで斯明(かくめい)も知ったみたい」


 「中では作っていないのか……。

 何となく理由は分かるが、口にする必要は無いな」


 「臭いからね、公卿や公家が嫌がるんだと思うよ。ついでに外の人達の仕事でもあるし。

 それに物凄く臭いけど美味しい料理があるらしくて、お忍びで公卿や公家の一部の人は通ってたんだって」


 「そんな臭い料理をなぜ公家の方々が……」


 仙太郎にとっては驚きみたいだけど、そんなに驚く事じゃないんだよねえ。

 だってあっさりと手の平返しをする人達でもあるしさ。


 「物凄く臭いけど美味しいんだよ、だからその美味しさに嵌まった人が通ってる。

 そもそも仙太郎は勘違いしすぎ。公卿や公家なんて自分達に都合が良かったら、簡単に手の平を返すよ?

 それが公卿であって公家だし」


 「………」


 唖然とした顔をしているけど、それが公卿や公家の正しい姿だよ。

 だからあの人達は滅んでないんだ。

 それぐらいじゃないと、強く生きていけないんだと思う。

 あの京の都では……。


 「(まつりごと)の争いか……。

 たしかにそこまで(したた)かでなくば生きられまい。

 必要なら裏で暗殺すらされる方々だ。

 表は綺麗にしていても、裏では(はらわた)の中のように汚れている方々だな」


 「ほほほほほほ、その通りよ。足利の又太郎も賢くなったようじゃな」


 なんか公家っぽいけど若い人が来たね。いったい誰なんだろう?


 「こ、これは執権様!

 まさか我が家に来られるとは思わず、ご挨拶が遅れました事、申し訳ございませぬ」


 「ほほほほほ、構わぬ、構わぬ。

 それよりも、そこな(わらし)が伝説の稀人(まれびと)かな?」


 「ははっ!

 昨夜、それがしの目の前に急に現れまして、今は我が家にて滞在していただいておりまする」


 「ふむふむ。しかし美々しき(わらし)よな?

 稀人(まれびと)とは皆こうなのか?」


 「申し訳ございませぬ。御会いした事のある稀人(まれびと)は他におらず……」


 「それもそうじゃな。そなたは真に黒金(くろかね)と申すのか?」


 「そうだよ。

 というより正しく言うと、そもそも僕は神隠しに遭う前の事を覚えてないんだよね。

 だから斯明(かくめい)が名付けてくれた名前しか分からないんだ」


 「「「「「!!!」」」」」


 「貴様!! 執権様と知って無礼な口を利いておるのか!!

 事と次第によっては許さんぞ!!」


 「知らないよ、そんなこと。

 昨日、僕は壇ノ浦に居たんだ。

 そして今日はここだよ? 知ってるわけないじゃん」


 「なんだと、礼儀も無いガキめ! 今すぐ刀の錆になるがいい!!」


 キンッ!


 「<斬兵・豪壮武辺>! やれ!!」


 「!!!」


 ズドンッ!!!


 斬兵は太刀を抜いたヤツを一撃で真っ二つにして殺した。

 当たり前だけど、僕を殺そうとした以上は殺す。

 舐めてくるヤツや敵は殺せ。それが武士なんだから当然だ。

 奴らが僕を殺す前に、僕が殺す。


 「黒金(くろかね)


 「何を言っても無駄だ。

 源氏の奴らも言っていた、舐めてくるヤツや敵は殺せ。それが武士だってね。

 僕を舐めてたんだろう? だから簡単に太刀を抜く。

 抜いた以上は敵なんだから、殺される覚悟はあるだろうさ。だから抜いたんだしね」


 「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」


 「まさか武士なのに殺される覚悟もなかったのかい? でも駄目だ。

 敵である以上は殺す、舐めてきた以上は殺す。それが武士なのだからね。

 僕は武士じゃないけど、源氏の奴らは僕にそう教えてくれたよ」


 「黒金(くろかね)、しかしな」


 「駄目だ。そこで殺さなければ相手はずっと舐めてくる。

 そしたら簡単に殺しに来るんだよ。

 僕は黙って殺される気なんてない、むしろ先に殺す。舐めてくるヤツが居なくなるまで殺す。

 それが武士に対してしなければいけない事だ。

 僕はそう教わったんだよ、源氏の奴らに」


 「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」


 「執権様、申し訳ございませぬ」


 「いや、天晴れ!! 見事である!

 黒金(くろかね)殿、そなたは正しく源氏の方々より学んだのであるな。

 そうよ、武士は舐められたら負けなのだ。負けぬ為には何をすればよい?

 そう、舐めてくる者を殺すしかない。殺すしかないのだ。それは正しい」


 「いえ、執権様……」


 「我らはいつの間にか(たる)んでおったに違いない。

 だからこそ簡単に太刀を抜くのだ。

 本来ならば相当の覚悟がなければ抜いてはならぬはずぞ。

 しかしながら(わらし)を脅す為だけに軽々しく抜く。

 左様な者が真の武士か? そのような事はあり得ぬ。そうであろう?」


 「それは………はい」


 「うむ。私としては初めて見たかもしれぬ。これこそが武士なのだ。

 かつての源平の頃にあられた真の武士。その生き様よ。

 すまぬな、迷惑をかけてしもうた。この者は家の者に引き取らせる。

 愚かな事をしたと私が申しておこう」


 「ははっ!!」


 「この様な事になったのでな、今日のところは失礼しよう。ではの」


 そう言って公家っぽい人は去っていった。

 しっけんって言ってたから、あれが北条って家のヤツかな?

 なんだか物凄く若い気がするけど。


 「ふぅ………。まさか執権様が我が家に来られるとは思わなんだ。

 ………それにしても容赦なく殺ったな、黒金(くろかね)


 「太刀を抜くからだよ。他人に向けて太刀を抜いた以上は敵だ。

 そして敵に容赦をする阿呆などいない。

 さっきのしっけん? っていう人も言ってたけど、それが当たり前だ。

 抜いたら切られるという覚悟をするのは当然の事だろうに」


 「そう言われると返す言葉が無いのも、また事実なのだよなぁ……。

 実際、太刀を抜いた以上は容赦などできん。

 だからこそ軽々しく抜くな、と父上も申されていた」


 「それが当たり前なんだけどね。どうして簡単に太刀を抜くのやら。

 僕には理解できない」


 「………お前は本当に源平の頃の者なのだな。

 私は先程あっさりと殺したお前を信じられない。

 なぜそんな事が簡単にできる?」


 「逆だ、仙太郎。

 せねばならんのだ、本来の武士はこうであるが故に。

 先程も執権様が申されておられたであろう。

 このように切り殺されるから軽々しく抜く事はなくなる。

 脅しで抜くのを当たり前にしてみろ、軽々しく太刀を抜く者が後を絶たん」


 「………」


 誰だって死にたくなんてない。

 だから相手に対して太刀を抜いたりしなくなる。

 抜いたら殺されるかもしれないとなったら、簡単には抜かないよ。

 なんで軽々しく抜くようになったんだろう?


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