0087
Side:黒金
僕達は陰陽所と呼ばれているところで霊玉を売っている。
あまり大物の妖怪は居なかったけど、乙級のが幾つかあったから、それなりの金額にはなるだろう。
そう思っているんだけど、時間が掛かるなぁ。
「ふう……。
乙六級と乙七級、それに乙九級があるんだが……これは本当にお前さんが倒したのか?」
「そうだ。オレ達も見ていたので間違いない」
「あんたは?」
「この方は河内源氏義国流、足利氏本宗家の七代目棟梁、足利義観様の御次男、足利又太郎様だ。
無礼は許さんぞ」
「そ、そりゃ申し訳ございません。
しかし、そのような御方がなぜこんなところに……」
「単に山に行くので一緒について行っただけだ。
そこで黒金が獲物を獲ったり妖怪を倒していたのを見ていた。
なので、そこの黒金が自ら獲った物で間違い無い」
「わ、分かりました。少々お待ち下さい」
そう言って奥に行ったけど、おそらく金庫から銭を出しに行ったんだろうね。
又太郎達は分かってないから、首を傾げているけど。
「あれは奥にある金庫に行ったんだと思うよ。
京の都の出張所でも奥に金庫があるからね。
銭を取られるかもしれないから、出張所を預かってる人しか金庫を開けられないようになってるんだ」
「なるほど、銭を取りに行ったわけか。
霊玉とやらを持って行ったのでな、いったい何かと思ったぞ」
そんな話をしていたら戻ってきたけど、相当に急いだのか少し汗ばんでるね?
それぐらい足利って家は大きいのかな?
とはいえ足利兄弟が死んだっていう記憶しかないんだよねえ……。
「乙六級が小銀板二枚、乙七級が小銀板一枚、そして乙九級が大銅貨三枚だ。
残りの小さいのが全部纏めて大銅貨一枚に大銅板二枚だな。
これでいいか?」
「うん、それでいいよ。とはいえやっぱり大物を狙わなきゃ駄目だね。
細かいのは掃除するけど、大物じゃないと稼げないや。
狙うは甲級か」
「こうきゅうとはなんだ?」
仙太郎が質問してきたので僕は答える。
とはいえ珍しいな、やっぱり銭が貰えるとなれば変わるんだろうか?
「妖怪は格が明確に決まってるんだ。
下から丙級、乙級、甲級、大級の四つ。
そしてそれぞれに九から一までが決められてて、それぞれによって値が違う。
その理由は中に含まれてる霊力の量だよ。
それによって値が変わるんだ」
「ほう……なるほどな。
つまり強い妖怪ほど高く売れる霊玉を落とすわけか。
黒金の実力なら、確かに強い妖怪が出てきた方が良かろうな」
「そういうこと。ま、とりあえず銭は手に入ったんで次に行こう、次に」
そう言って僕は陰陽所を出ると、次に鍛冶師のところへ行く。
包丁を売ってないかなと思ったんだけど、ちょうど一本だけあったよ。
それを小銀板二枚で売ってもらった。
結構減ったけど仕方ない。金属で出来た物は高いんだよね、当然なんだけどさ。
そんな事を考えつつ、僕達は足利家の家へと戻る。
そういえば兄が亡くなったって言ってたけど、色々としなくていいの?
「それをやるのは父上だ。当主がやる事であり、他の者は出来ん。
兄上が当主だったのだが、兄上は二十一で亡くなってしまったからな。
オレ達も「まさか」という思いしかない」
話を聞きつつ台所に行き、台所の人達に説明しつつ影兵を置かせてもらう。
台所の人はビックリしてたけど、木の形になってもらった影兵の洞に食材を詰めていく。
そして閉じてもらったら完了。
「なんだかよく分からない事をしているが、ああすると何があるのだ?」
「鹿を殺したあと、血を抜いて冷却したでしょ。
食べる物を冷やしておくと腐り難くなるんだよ。
そして影兵は吸い取る事が出来るんだ、熱も。
つまり温かさを奪い取って冷たいままに出来るって事だね」
「ほう! 夏場は涼しそうだな!
………まさか、だから真っ黒なものの上で寝ていたのか?」
「そうだよ。影兵の上だと、夏は涼しくて冬は暖かいんだ。
だから僕は影兵の上で寝るんだよ。
ついでに寝ている間も守ってくれるし」
「メチャクチャだな。
いや、伝説に相応しいとは思うが、とんでもないとしか思えん。
むしろ伝説の陰陽師である黒金に関して、残っている情報が少なすぎるのか……」
「僕の何が残っているのか知らないけど、だいたいは嘘だとか思って書かなかったんじゃない?
僕が複数の神様から加護を受けている事すら、本来はおかしいらしいし」
「他の稀人と比べても違うという事か。
それは書いた者も信じなかったであろうよ。
本物を見たら分かるが、知らない者が読んでも絶対に嘘だと思うであろうな」
「でしょうね。今日一日で既に驚き疲れました。
もう疑う気もありません」
「なんだ、まだ疑っていたのか。
とはいえ仙太郎はあの眩しき光を見ていないから仕方ないのであろうな。
見れば疑う余地など、どこにも無いのだが」
「それよりお肉は夕食として作るんだけど、味噌ダレとか作れないからどうしよう?
京では味噌煮込みとかにしてたんだけど、鹿肉だからなぁ……」
「鹿だと何かあるのか?」
「鹿肉ってあっさりしてるんだよね。
だからタレに付けて食べるのが良いかな?
熊肉は味噌煮込みで美味しいんだけど、鹿肉は焼いて食べた方が美味しいと思う。
なのでそうしよう」
「実際に食うてみなければ分からんから、今から夕餉が楽しみだな」
「え? 食べるのは明後日だよ。
肉は一日か二日置いておかないと柔らかくならないから、今日食べられるのは内臓だけ。
だからこれから大腸と小腸の処理をする。
中の糞を綺麗に取り除かないと食べられないし」
「だいちょう? しょうちょう?」
「腸って言ったら分かる?」
「ゲテモノではないか! そんな物を食う気か!?」
「いや、普通に食べられるけど?
石鹸の材料にもされてるけど、それは脂だけだからね。
京の都の外では脂を抜いた後の腸は普通に食べられてるよ。
美味しいんだけど、知らない?」
「正気か………?」
どうやら仙太郎は信じていないようだ。
まあ、それならそれでいいんだけど、どうして又太郎は食べる気満々なんだろう?
この兄弟、本当にバラバラだね?
「とりあえず今から腸の中を綺麗にするけど、脂を抜いた方が良いかな?
石鹸作ってる所に持ってったら引き取ってくれるはず。
それが駄目なら普通に焼いて食べるのがいいね」
「腸を焼いて食うのか。
どういう物か知らぬが、一度食うてみねば分からんな」
「兄上、正気ですか? 糞が詰まっておる所ですぞ?」
「食われておるならば大丈夫という事だ。
仙太郎は無理に食わんでいい。オレは食うがな」
「ま、とりあえず綺麗にするよ。
まずは洞から必要な物を取り出そう」
僕は洞から腸を取り出すと、台所の外の小道へと行き、まずは影兵を呼び出す。
そして穴を掘らせたら包丁で腸を裂いていく。
その後は影兵に任せて綺麗に糞を取り除いてもらう。
もちろんそれだけではなく表面のぬめりや汚れも取ってもらったら、最期に包丁を綺麗にしてもらい切っていく。
一口の大きさに切っていったら準備は完了。
問題はここからだ。
「焼くなら火鉢の上に網を置いて焼くんだけど、脂を抜くなら鍋が要るんだよねー。
どうしようっかなぁ……」
「鍋なら台所にあるぞ?」
「それは使えないんだ。
なぜなら腸から脂を抜く作業だと、猛烈に肉の匂いが鍋に移るから。
そうすると鍋の肉の匂いは取れないんだよね。
他の料理を作る際に付いちゃうんだよ。肉の香りが」
だから斯明の家だと、専用の鍋を使ってたんだ。




