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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:黒金(くろかね)



 僕は黒馬に乗って山の方に行くも、不安なのか仙太郎が喚いてくる。

 そんなに怯えるのもどうかと思うんだけどなぁ。

 仕方なく速度を落とし、話が出来る速度にまで下げる。


 「いったい私達をどこに連れて行く気だ!

 まさか私達を亡き者にしようという気ではなかろうな!?」


 「そんな面倒くさい事をいちいちする訳がないでしょ。

 山に行ってるのは肉を獲りにいく為だよ。

 今日の朝餉には肉が出ていなかったし、美味しい肉が食べたければ自分で獲りに行くしかないからね」


 「ほう、肉か。

 ただ、肉ならば鎌倉の町で買えばよいだろう。

 わざわざ獲りに行く必要があるのか?」


 「普通の人が獲ってきた肉は臭い事が多いんだ。

 それは殺してすぐに一気に血抜きをしない事と、死体を冷やして肉が悪くなる事を防ぐこと。

 そして肉の臭味の元を捨ててないから臭いんだよ」


 「ふーむ……つまり一気に血を抜いて冷やし、そして臭い物の元を無くせば上手い肉になるのか。

 ……当たり前のような風に聞こえるのだが、猟師がやっているのではないのか?」


 「残念ながら僕と同じ事は出来ないんだよ。

 僕は影兵に命じて血を抜くのとすぐに冷やす事が出来る。

 さらに付いている虫を取ったり、肉の中の臭味だけを抜く事が出来るのも影兵だけだ」


 「影兵というのは、この馬になっているものであろう?

 この者はそんなに色々な事ができるのか、凄いな。

 霊兵というのが凄いのか、伝説の稀人(まれびと)が凄いのかは分からんが……」


 「ついでに妖怪も倒して行くから、得物を見つけるまでに時間が掛かるかもね。

 それでも霊力を感知してるから、そこまで時間は掛からず見つかるだろうけど」


 「霊力を感知?」


 「霊力ってね、微力だろうが何だろうが誰だって持ってるんだよ。

 逆に言えば霊力を感じ取れるなら、誰がどこに居るかも分かるわけ。

 だから僕には隠れて不意打ちとか効かないよ」


 「それは凄いな。流石は伝説に名がある稀人(まれびと)だ。

 そのような力まで持つとは」


 「いや、これは葛葉(くずは)、つまり大妖怪から教えてもらった事だよ。

 それに同じ時から習い始めたけど、斯明(かくめい)の方が早く使えるようになったしね。

 僕だからとかは無いよ」


 「そうなのか? それはオレにも使えるという事では?」


 「まあ、練習すれば出来るようになるかもね。

 そんなに使いたいの?」


 「当然だ! それが出来れば不意打ちを喰らわずに済むのだろう?

 戦では不意を打ってくる事などよくあるそうだ。

 中には死体のフリをして襲ってくる事もな。

 そういう意味では、その霊力の感知? というのは役に立つだろう」


 「まあ、確かにね。

 九朗と話している最中に動いた平氏を殺した事もあるし、そいつも死体のフリをしてた。

 ああいう事があるのは間違い無いよ」


 「既にあったし経験していたのか……。

 やはり戦場(いくさば)ではそういう事があるのだな。

 気をつけねば、命などすぐに消えるのが戦場(いくさば)なのであろう」


 「おっと、妖怪発見。やっぱり山は妖怪が多いね。

 ちょっと霊玉を稼いでおいた方がいいかもしれない。

 小さいのはとっとこう」


 「うん? 霊玉というのは売る物ではないのか?」


 「霊玉は売れるけど、なぜ売れるかと言えば符術や式神に呪術にも使うからさ。

 ただ、呪術は悪い使い道だから止めた方がいいけどね。

 それでも平氏も源氏も呪術師を雇って相手を呪ってたよ」


 「今は呪術師に頼むというか、呪術を使う事は禁じられておる。

 呪術を使うと分かっただけで処刑されるからな」


 「それがいいよ。

 呪術を使うって事は怨みと憎しみを使うって事だ。

 そんな事をしていたら、そのうち取り返しがつかない妖怪が現れかねない」


 「………そうか。黒金(くろかね)は知らなかったのだな。

 そなたを保護した斯明(かくめい)という陰陽師は、京の都に現れた凶妖と呼ばれる妖怪を倒す為に命を犠牲にしたと言われておる。

 なので京の都では有名な陰陽師だぞ。

 東国ではあまり知られておらんが」


 「………そっか、斯明(かくめい)がね。

 とはいえ、そんな妖怪がいつか現れると思ってたよ。

 皆とそういう話はしてたから」


 「そうか………。

 それにしても簡単に妖怪を倒していくな。

 後、この黒馬はやはり馬ではなかったか。

 体から鞭のような物を生やしておるし、どう考えても馬では無いな。

 まあ、出てきた時から人の形をしていたが……」


 「影兵は、その名の通り影だと思えば分かりやすいよ。

 体の形を自在に変えられる霊兵。だから<自在黒命>と言うんだしね」


 「なるほどな。

 とはいえ普通の馬より乗りやすいし助かる。

 それにどこでも出せるというのが良い」


 「確かに。

 この馬なら逃げなければいけない時に、いつでも逃げられます」


 「それだけではなく、この馬はそもそも疲れるのでしょうか?

 息すらしていない気がするのですが……」


 「そもそも霊兵は息なんてしないよ。ついでに影兵に疲れなんて無いしね。

 ずっと走る事が出来るけど、上に乗っている人が持たないんだ。

 そこは気をつけないといけない」


 「ああ、それがあったか……。

 確かに人も疲れる以上、休憩はせねばならんな。

 とはいえ馬の疲れよりも休憩の数は減ろうが」


 「それを考えれば秀でたる馬なのでしょうけど……」


 「仙太郎は未だに恐がっておるのか、それではいかんぞ。

 良いものは良いのだ。黙って受け入れればよい」


 「兄上。そうは言われますが……」


 「おっと、鹿発見! <猛兵・剛射隼人>!」


 僕は見つけた鹿に対して猛兵を呼び、素早く射らせた。

 猛兵の矢はあっさりと鹿の首を貫き、その一撃で鹿は重傷を負う。

 その後は素早く近付いて古兵を呼び出し首を切らせて終わり。


 そして影兵を呼び出したら、一気に血抜きと虫取りに冷却をさせる。

 そして古兵に荒く解体をしてもらい、さらに影兵に肉の臭味の元を吸い取らせて捨てさせる。

 十分に全てが完了したら、新しい黒馬の背中に乗せて帰る。


 「終わった、終わった。

 今日は包丁を持ってきてないから、古兵に荒く解体させるしかなかったよ。

 鎌倉の町に帰ったら霊玉を売って包丁を買おう。

 流石に将門の短刀で解体はしたくないし」


 「当たり前だ!! 将門公の短刀をなんだと思っている!!」


 「だからしないって言ってるじゃん。

 したら怒るのは分かるけど、しないって言ってるのに何で怒られなきゃなんないのさ」


 「それは確かに黒金(くろかね)の言う通りだな。

 仙太郎、流石に先程のは理不尽だぞ」


 「申し訳ありません」


 「オレに謝ってどうする。黒金(くろかね)に謝れ」


 「すまん。私が悪かった」


 「まあ、謝れるだけいいと思うよ。

 あの頃の源氏なんて、謝りもせずに切りかかってきたからね。

 ワシは悪くないとか言ってさ。

 だからこそ斬兵にぶった切られるんだけど」


 「「「「「………」」」」」


 とりあえずはお肉も手に入れたし、さっさと帰って保管させてもらおう。

 いきなりでは食べられないし、食べられるのは内臓だけだ。

 心臓と肝臓に大腸と小腸くらいかな? 後は危ないから捨てよう


 僕はお肉が得られた事にホクホクしながら戻り、又太郎に案内してもらいながら陰陽所というところへ。

 そして中に入ると、昔の陰陽寮の出張所と変わらない形だった。

 ……こういう風に作れって決まってるのかな?


 「いらっしゃい。

 ……って、(わらし)の来るところじゃないぞ」


 「霊玉の買取をやってるんでしょ。

 子供だろうがなんだろうが、霊玉を持っている以上は買い取ってくれるよね?」


 「そりゃあ……まあ、な」


 僕は気にせずに上がり、おじさんの前に霊玉を並べていく。

 それなりに稼げたから、一旦は全部売る。

 符術や式神の為の霊玉は明日からだ。


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