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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:黒金(くろかね)



 仙太郎が元服して一年経った。

 今は元亨(げんこう)二年であり、また元号が変わったんだよ。

 本当に面倒くさいし、いい加減にしてほしいね。何度も思うけどさ。


 それよりも蝦夷(えぞ)の方がちょっとマズいみたいだ。

 何でも六、七年前から争いがあったらしいんだけど、それがまったく治まる気配が無いんだって。

 とにかく争いがずっと続いている。


 問題は続いている事もそうなんだけど、内管領(ないかんれい)の長崎高資(たかすけ)という人が、争ってる双方から賄賂をもらっていた事だ。

 その所為で今もまだ治まっていないらしい。


 で、ついに公文所というところで裁定が下される事になった。

 ただし裁定が下っても素直に認めないだろうと言われていて、騒動が治まるとは誰も信じていないようだ。

 面倒だね。


 「蝦夷(えぞ)の騒ぎがずっと起こっている事を看過はできん。

 このままでは鎌倉の権威が失墜しかねんからな。

 内管領(ないかんれい)が下らぬ事をしたからだが、それを言っても始まらぬ」


 「とはいえ早々に治まる気配は見えぬとも聞くし、どうしたものであろうかな?

 父上の申す通り、このままでは鎌倉の権威が失墜しかねん。

 早急に鎮圧するべきだとは思うが……」


 「それをすると余計に暴れ回る気もしますから、難しいところでは?

 唯でさえ蝦夷(えぞ)の事は安藤家の事もありますし……」


 又太郎は足利家の政務を少しずつ始めており、義観さんから習っている。

 これは元服した直後から始まっていて、それなりに出来る様にはなったらしい。

 あくまでも義観さんが言うには、それなりなんだそうだ。


 とはいえ現在は仙太郎がそれを学んでいる。

 又太郎の補佐をするにも、学ばなければ出来ないからだ。

 でも当主と補佐のやる事は違うらしいので大変みたい。


 「このまま暴れさせるわけにもいくまい。

 いつかどこかで軍を出さねばならぬが……そこで負けると鎌倉の権威は完全に失墜する。

 そうなると相当にマズい」


 「そうなのだ。それ故に安易に軍を発する事もできぬ。

 執権様も話は聞かれておるが、好きにしろという態度であられる。

 元々が内管領(ないかんれい)の所為だからの、どうしようもない」


 「賄賂を貰って下らぬ事をするなど、碌な者ではありませぬ。

 得宗家に寄りかかって甘い蜜を吸おうなど言語道断。

 こんな事を許しているからこそ、世が荒れるのでは?」


 「とはいえ内管領(ないかんれい)は力がある、(まつりごと)の力がな。

 それは侮れぬ力だし、一歩間違えれば我が足利家もどうなるか分からん。

 安易に外で口に出さぬようにな」


 「それは分かっております。とはいえ……」


 「仙太郎の(いきどお)りも分からぬではない。

 誰しもが同じ(いきどお)りを持つ。

 しかしやるべき事と、その事を行った結果は考えねばならん。

 内管領(ないかんれい)を敵に回しても我が家に得は無い」


 「はい……」


 「まあ、このまま推移を見守るしかあるまい。

 それに執権様ではないが、好き勝手に(まつりごと)をしている者どもがおるのだ。

 その者らに万事任せて責もとらせればよい」


 「そうじゃの。己らで責をとらせれば好き勝手も減るであろう。

 家の名に傷がつくとなれば、そう簡単に下らぬ事もできぬであろうからな」


 「そういえば聞きたい事があるんだけどいい?」


 「どうした?」


 「治部大輔(じぶのたいふ)って官職貰ったじゃない? あれなんで返しちゃったの?

 結局、冶部の仕事なんて碌にしてないけどさ」


 「京の都におらぬから、そもそも冶部の仕事などできんがな。

 それに昔の冶部の仕事は戸籍や姓氏の訴訟など多岐に渡っていたが、今や僧尼や仏事、雅楽や山陵の監督しかやる事が無いのだ」


 「山陵とは古い時代の帝の墓の事じゃよ。

 冶部とはそういった仕事しか残っていない、いわば有名無実な官職なのだ。

 つまり箔を付けるにはちょうど良い官職、というわけじゃの」


 「だからすぐに返したわけだな。

 少なくとも従五位下の官位は貰ったままだ。昇殿は出来ぬが、箔は十分に付いた」


 「ふーん。という事は、別の人が今は治部大輔(じぶのたいふ)の官職を持ってるってわけかー」


 「まあのう。箔を付ける為に官位や官職を頂くのじゃが、その見返りとして結構な額を朝廷に奉じておる。

 朝廷は銭欲しさに官位や官職はどうだと言うてくるのじゃよ。ま、持ちつ持たれつというところか」


 「成る程ねー。そういえば荘園が奪われたりとかしてたから、あんまりお金ないんだったかな?

 それもあって武士を怨んでる公家も多かったと思う」


 「それはの……言われても困るとも言えるのだ。

 そもそも昔から住んでおる訳じゃし、公卿や公家の方々が勝手に荘園にする前から住んでおる者もおる。

 いきなりここは今日から公卿や公家の土地じゃと言われ、抵抗すれば殺されるという事があったのだ」


 「そんな事があったんだ」


 「うむ。それもあるからこそ、元々は我らの土地ではないかという思いは消えぬのだ。

 特に朝廷は東国を悪し様に扱ってきたからのう。

 それ故に頼朝公が鎌倉の世を作られた意味は大きい」


 「その頼朝公が、まさか争いを続けさせる世を作られたとは思いもしませんでしたが……」


 「言うな。ワシとてどのように考えてよいか分からんのだ。

 まさか頼朝公が左様な事をお考えであったとは」


 「元々頼朝公は熱心に御仏の教えを学んでおられたと聞きます。

 もしかしたら争いに嫌気が差してしまい、それを止めぬ者達への頼朝公からの仕置きかもしれませぬな。

 争いを止めぬ者達は、それが醜き事だと分かるまで争わせようとしたのかも」


 「どのみち愚か者は争う。ならばとことんまで争えばよいという事か。

 争いを止めぬ者達に嫌気が差したというのは分からぬでもないな。

 斯様(かよう)な下らぬ事を何故(なにゆえ)致すのかと思う事はある」


 頼朝の話になっちゃったけど、(まつりごと)に関して色々と思うところがあるみたい。

 確かにおかしな事をするのが居ると、大変だろうと思う。

 大相国もこんな事をしてたのかな? 憑かれながらも。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今日は元亨(げんこう)三年の十月二十六日。

 義観さんが北条貞時の十三回法要に、非常にたくさんのお金を寄付したらしい。

 執権から感謝の文と言葉があったらしく、法要に寄付した記録でも二番目に義観さんの名前が書かれたそうだ。


 それも名誉な事らしいので頑張ったみたい。

 又太郎は仕方がないなと言いつつも、あまり良い事だとは思っていないんだろう。

 最近は自分で妖怪を倒して銭も稼いでいるからね。お金の大切さは知っている。


 鎌倉の町で売っている櫛とか(かんざし)とかも買って送ってるみたいだしね。

 買うのに苦労しているから余計に大金を出した事に思うところがあるんだろう。


 仙太郎は仕方ないのでは? という意見だった。

 足利家としては出さざるを得ないというところらしく、義観さんが出した理由も分かるそうだ。

 出さなければ五月蝿い者も居るからだね。


 その法要には義観さんと又太郎が行ったらしいけど、疲れたし大変だったんだって。


 「執権様が上機嫌であられたのは良かったのだが、相変わらず内管領(ないかんれい)外戚(がいせき)にすり寄っておる者が多くてな。

 呆れかえってしまったわ」


 「ワシもじゃ。ああも露骨にするとは、恥も知らぬようになったらしいの。

 得宗家が執権であるというのに、内管領(ないかんれい)外戚(がいせき)に擦り寄るなど言語道断であろう」


 「それより上様は如何(いかが)なされておられるのだ? オレはそちらの方が心配だ。

 あまりにも無視され過ぎておる。宮将軍と呼ばれていようと、上様は上様。

 得宗家の上にあられる方なのだ」


 「最早すり寄る者すらおらぬ。

 上様におかれては、御心痛どころではなかろう。我ら武士の事など信じてもおられまい。

 かといって、都の事を信じてもおられぬであろう。都に行かれた事も無い故に」


 今の征夷大将軍は守邦親王というらしい。

 親王というのは説明されて分かったけど、以仁(もちひと)王よりマシじゃないかな? としか思わなかった。


 京の都にあって三十歳を過ぎても親王にしてもらえなかったんだよ、以仁(もちひと)王はさ。

 それに比べれば親王宣下されてるだけマシだよ。


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