0101
Side:黒金
北条貞時という人物の十三回法要が終わって一月。
相変わらず僕は妖怪退治の為に山に行っている。
今日は移動の距離を伸ばして遠い山に来ているけど、どうやら来た甲斐はあったみたいだ。
「シッ!」
「ぐあっ!?」
「ハッ!」
「ごっ!?」
又太郎が槍を持って首を一突きにし、仙太郎が弓で顔を射った。
見事に直撃させているけど、二人にとったら賊退治はよくある事でしかない。
どうやら僕達が鎌倉近くの山へよく行くので、賊はそれより遠い山に潜伏していたようだ。
僕達は見つけた賊を次々に殺し、何も反論など聞く事なく皆殺しにしていく。
そもそも賊の意見なんて聞く意味は無い。
こいつらを許す事なんてあり得ないし、賊行為そのものが罪だ。
誰かが被害に遭っても駄目なので、ここで確実に始末する。
なにより霊力を感知しているので、賊の仲間を逃がしたりなんてしない。
確実に殲滅するし、そもそも逃げている霊力は分かりやすいからね。
僕達から早く遠ざかろうとするし。
「よし、これで賊どもは居なくなったな。
大した物は持っていないが、こいつらの武具でも売れば銭になる。
霊玉よりも稼げるから賊退治はありがたい」
「まあ、確かに収入は多いですが、この者どもも賊などせねば長生き出来たものを……
とはいえ真面目に生きている者が多くいる以上、こやつらは殺さねばならんが」
「そうそう。迷惑を掛けられる人がいる以上は確実に殺さないとね。
そもそも賊なんて誰にとっても邪魔でしかないんだ、生かす価値も理由も無い。
それが京の都であろうが鎌倉であろうが変わらないよ」
「だな。賊は容赦なく確実に始末せねばならん。
こいつらが狙うのは弱い者だ。武士はそういった者を守らねばならぬ以上、賊は確実に打ち倒さねばな。
いちいち殺す事にどうこうと考える必要は無い」
「とりあえずは綺麗にして回収するよ。
死体はどうしようも無いからね。穴を掘って埋めるしかない。
おそらくは骸骨の妖怪になると思うけど、それは諦めるしかないよ。
そういうものだし」
「妖怪は人の怨みや憎しみから生まれる、か。
オレ達が妖怪を生み出しているという事実は重いな。
とはいえオレ達がどう考えようと争いは無くならず、妖怪は生まれてくるのだが……」
「少しでも減らす事は可能なのではありませんか?」
「そんな事は無理だよ。命じたって勝手な事をするじゃん。
それで怨みや憎しみが生まれて、結果として妖怪が生まれるんだよ。
結局のところ勝手を全て無くすなんて無理なんだから、妖怪が生まれないようにするのも無理」
「それは……」
「武士の勝手を無くすのは無理だな。どう考えても無理だ。
それが出来たら誰も苦労せんし、上様も執権様も御活躍されておられるはずだ。
内管領や外戚を見れば分かろう。
あの立場の者ですら勝手をするのだからな」
「………」
「そもそも平氏だって源氏だって好き勝手するヤツは居たよ。
勝手に国司として重税を強いて好き勝手にする平氏、京の都近くの公卿や公家の荘園から略奪する源氏。
ね? 好き勝手してるでしょ」
「……古き時から変わらんという事か」
「だからこそ頼朝公は愚か者を争わせようとしたのかもしれん。
そういった田分けどもに嫌気が差しておられたとしても不思議ではない。
オレ達でさえ、うんざりするのだぞ? 頼朝公はもっと多く見てこられたであろうよ」
「そうですね。
多くの者を束ねる立場であられた頼朝公は、私達の比ではないほどに見てこられたでしょう。
それなら呆れ返っても仕方がないのかも」
「よし、武具は全部持たせたし、死体の処理も終わった。
帰ろうか? 賊も退治したし」
「そうだな! 帰って売って銭を得ねばならん。
それじゃあ、帰るぞ!」
相変わらず元気だなぁ。
赤橋家の女性とは上手くいってるみたいだからいいけど、又太郎は銭を溜めこんでるみたいなんだよねー。
いったい何を考えてるのかは知らないけど、悪い事じゃないから放っとこう。
…
……
………
賊の武具も売り終わり、銭を三等分した僕達は足利家の屋敷へと帰る。
黒馬に乗っていても文句は言われないので助かるよ。
ただし又太郎か仙太郎が居ないと乗っちゃ駄目な事は変わってないんだよね。
それはともかく戻った僕達は、いつも通りに解散してそれぞれの部屋へ。
僕はそれよりも肉を影兵に渡したり、今日食べる肉を出しておかなきゃいけない。
台所方の人も慣れたもので、肉を渡すと今日の献立を考え始めた。
僕はそれを見ながら部屋に戻り、いつもの場所に銭を置く。
少しゆっくりとする為に手足を伸ばしてから寝転がり、目を閉じて体の力を抜く。
そうしていると、部屋に誰かが来た。
「黒金殿、おられるかしら?」
「はい、帰ってきたのでいますよ」
ガラッ!
「よい茶が手に入ったそうなんだけど、一緒に飲まない?」
「あ、飲む飲む。又太郎と仙太郎にも言ってこないと」
「二人は呼びに行かせているから、行きましょうか」
「はーい」
何か知らないけど、僕の所には「上杉の方」が来るんだよね。
たまに「金沢の方」が来る事もあるけど。
僕が歳をとらないからか、なんだか子供扱いをされ続けている気もする。
僕自身も、あんまり気にしてないけどね。
そもそも何年経っても体が変わらないし、背も伸びないからさ。
又太郎も仙太郎も大きくなった。
それに比べて全く成長しない僕はどうなってるんだろうね? 本当にビックリだよ。
葛葉もこんな気分なんだろうか?
いや、葛葉は背が高いから違うかな? まあ、とりあえずお茶を飲もう。
良いお茶はたまにしか飲めないからね。
麦湯はよく飲むけど、茶葉は結構高いから簡単には飲めない。
それでも昔の稀人が奨励したらしくて、結構な所でお茶は作られてる。
源平の頃だってお茶は飲まれてたし、公卿や公家は産地にやたらに拘ってた。
僕にとっては意味不明だったけどね。
庶民が飲むのは水だし、たまに麦湯を飲むくらいかな?
何度も煮出して味がしなくなるまで飲んでたなぁ。
まぁ味がしなくなっても沸かした湯だから普通に飲めるしね。
どっちにしても、お腹を壊したりはしない。
おっと、皆が揃ってたみたい。
水飴を使ったお菓子まで用意してあるけど、よくあんな高いの買うよね。
この辺りを見るに、やっぱり足利家って上の方の家なんだと分かる。水飴だって結構高いのにさ。
シャカシャカシャカシャカ……
僕達は適当な雑談をしながら、義観さんが淹れてくれるお茶を待つ。
作法とか無いのが助かるね。何か色々と作法があるのは面倒で仕方ないからさ。
お茶に関してはそういうの無いんだよ。
義観さんはお茶を淹れるのに拘りがあるらしく、良いお茶が手に入ると一人ずつに淹れてくれる。
僕も何度か見たから淹れ方は知ってるけど、この面倒なお茶の淹れ方は好きになれない。
昔の稀人が煎茶というお茶の作り方を伝えてるんだけど、あっちの方が楽なんだよね。
お湯を入れて待つだけで済むからさ。
抹茶も煎茶もそれぞれ義観さんの好みがあるらしいけど、僕はあっちの方なら自分で淹れてもいいかなって思う。
僕の方に茶碗が出されたので一口飲む。
……いつも通り味が濃い! そしてお菓子を食べると甘さを感じる。そして再びお茶を一口。
……うん、これがお茶とお菓子の良いところだ。交互に飲んで食べるのが良いんだよねー。
「相変わらず父上の茶は美味いな」
「そうですね。お菓子の甘さと茶の苦さが、ちょうどよい塩梅です」
「そろそろ又太郎か仙太郎が継いでくれると助かるのがな?」
「それは勘弁してくれ。オレは茶に拘りが無い。
飲んで美味いかは分かるが、それを自分で淹れようとは思えんのだ」
「申し訳ありません。私も兄上と同じです」
「はぁ……仕方ないのう。これに関しては分かる者と分からん者がおるからな。どうにもならんか」
僕も分からないから覚える気はないかな? 煎茶の淹れ方なら覚えたし。




