0102
Side:黒金
あれからさらに一年が経った。
今日は元亨四年の五月だ。
今、足利家の屋敷の一室は重苦しい空気になっている。
理由は又太郎が加古基氏という人物の娘との間に、子供を作っていたからだ。
「又太郎。お前はどうして言わなかった。
言っていれば側室にでもしたものを、何故黙っておったのだ?
というか、妖怪退治で稼いだ銭はこの事に使っておったな?」
「あー、うむ。済まぬ父上。正直に言って一目惚れであった。
どうにも抑える事が出来ず、とはいえ婚姻相手が既におるのでマズいと思い……。
気付けばズルズルとこうなっていた」
「はぁ……今までなんともなかったから、そういう事は無いと思っておったが、遅い春が来てしもうたか。
とにもかくにも加古家とは話し合いをせねばならん。お前も同席するんだぞ」
「それは当然だ。とはいえ子に罪は無い。それだけは……」
「当たり前じゃ! この田分けめが!
……仕方ない、伊豆の神社に任せるしかないの。
少なくとも我が足利一族の娘の子じゃ、正しく長男とするしかない。
とはいえ悪い所で育てる訳にもいかん。体裁は必要じゃ」
なんだか怒られてしょんぼりしているけど、これは又太郎が悪い。
皆に説明してればよかったんだろうけどね、何にも説明してなかったからこうなるんだよ。
ま、諦めてしっかり怒られなさい。
座っている「金沢の方」も「上杉の方」も呆れてるじゃん。
片や又太郎を教育した人で、片や又太郎を産んだ人だからだろうね。
子供の教育は正室がするらしいから、誰が産んだ子供かは関係ないんだって。
又太郎や仙太郎が大きな失敗をすると、教育した「金沢の方」の責任にもなるみたい。
だから「金沢の方」も「上杉の方」も怒ってるし呆れてる。
二人の母親から怒られてる気分はどうなんだろうね?
…
……
………
義観さんと二人で加古家の屋敷に行き、色々と話してきたらしい。
又太郎はかなり凹んでるみたいだけど、それは自業自得だよ。
誰も得をしない事をやらかしたんだし、完全に又太郎が悪い。
その後は母親二人の部屋に引っ張られていき、懇々と説教を受けたようだ。
仙太郎も呆れていたけど、義観さんは仙太郎もやらかすんじゃないかと思っているらしい。
僕にだけこっそりと言ってきた。
どうなんだろうね?
又太郎も一目惚れでやらかしてるから、仙太郎もそういう事はあるのかもしれない。
まあ、どっちにしても義観さんは大変そうだ。
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今日は九月二十三日。実はとんでもない事が京の都で起こっていた。
実は今現在の帝は何故か皇統が二つあり、それを<持明院統>と<大覚寺統>というらしい。
で、この二つから交互に帝を出す事で決まっている。
その一つ<大覚寺統>の帝である後醍醐帝が鎌倉を滅ぼして、帝自ら親政を行う為に決起したらしい。
という話なのだが、妙な部分が多数あり、変なところが多いんだって。
まず第一に、後醍醐帝はそもそも鎌倉に不審や不満を持っておらず協調していること。
そして第二に、父親である後宇多院が亡くなって、まだ二月ほどしか経っていないこと。
それらの事があり、どうも都の中での権力闘争ではないかという見方が強いようだ。
つまり……
「どちらが次の帝を継ぐかで争っておられるのであろう。我ら鎌倉からすれば迷惑に過ぎるわ。
執権様もこの話を聞かれた時に呆れられていた。京の都の争いをこちらに持ち込んで来るなとな」
「こういった有事は内管領や外戚では判断できませんからな。
結局、御輿にしている執権様に判断を仰がなくてはならぬという事ですか……。
そっちにも呆れますな」
「まったくです。
執権様から力を奪っておきながら、こういう時には日和見で己らで責をとろうとしない。
真に狡いものだと呆れます」
「まあのう。
そして黒金が言っておった通り、執権様は「おのれらの責でなんとか致せ」と放り投げたらしいわ。
内管領と外戚が頭を抱えておる」
「今の今まで好き勝手してきたんだから、正しく責をとらせなきゃ駄目でしょ。
都合の良い時だけ自分達には関係ないなんて、許されるはずが無い。
そんなの当たり前だよ」
「で、あるな。
いちおう京の六波羅探題が調べをしておるらしいが、どうも判然とせぬようだ。
六波羅探題に密告があったらしいのだが、この密告したというのも怪しい」
「その密告した者が、誰かに言われて左様な事をしたと?」
「都からの話だと、どうも<大覚寺統>の中でも揉めておるようなのだ。
嫡流の邦良親王と庶流の後醍醐帝、そして<持明院統>との三つ巴ではないかと言うておる。
もしそれが事実なら朝廷には関わらぬ方がよい。
全てから恨まれるやもしれん」
「ですな。どこに味方しても碌な事になりますまい。
こういった事は離れたところでジッとしているに限ります。
権力闘争など、やっている本人たちだけでしょう。必死なのは。
周りからすれば迷惑千万でしかありませぬ」
「兄上の申される通り、碌なものではありません。
本当に、なぜこのような揉め事を鎌倉まで持ってくるのやら……」
「どこも必死だからであろう。
いい加減にしてくれと思うが、当の方々は権力を持つ為に必死じゃ。持たねば殺されるかもしれんからの。
邪魔な者がどうなるかは、朝廷の過去が証立てしておる」
「まあ、それはそうでしょう。
我ら武士よりも余程にきな臭いのが朝廷ですからな。
散々に暗殺やら何やらとしてきておいて、我ら武士を悪し様に言われるのは納得がいきませぬし」
「ま、とりあえず妙に怪しい事が起きたと覚えておけばよい。
とにかく我が足利としては、こんな面倒なものに関わりなどせぬ。
関わったところで得るものなど何も無いからな」
「「「「はい」」」」
「それにしても、まだ下らない争いをしているんだね?
後白河院もそうだったけど、何がしたいのやら。
余計な事をされても周りが迷惑なだけなのにさ」
「本当にの。このような事をずっと繰り返しているのが朝廷じゃ。
そして周りの者を巻き込んで戦だ暗殺だとしておる。
いい加減にしてほしいわ」
結局、連中は変わらないんだろうね。今までもこれからも。
いつか変わる時が来るんだろうか? 来ないような気もするなぁ……
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今日は九月二十五日。続報が来たので教えてもらっている。
まず最初に行われたのは六波羅探題への密告だったらしい。
その密告をしたのは斉藤俊幸なる人物。
で、六波羅探題は疑惑のある多治見国長と土岐頼有という二人に出頭命令を出した。
するとこの二人はそれを拒否。
六波羅は二人の邸宅を襲ったものの、二人は自害。
これで真相が分からなくなった。
とはいえ六波羅としては後醍醐帝が鎌倉打倒を掲げるのは不自然だとして、調査を続けるとなったそうだ。
ちなみに密告した斉藤俊幸なる人物だけど、その斉藤に密告したのは土岐頼員という人物なんだって。
その密告というのが、後醍醐帝が鎌倉を滅ぼそうとしているという話だったそうだ。
しかしこの土岐頼員という人物の言っている事も怪しいみたい。
何故なら多治見と土岐頼有の兵では六波羅の兵にすら勝てないからだ。
数が少なすぎるそうなんだよ。
そんな事を本当にするのか? っていう疑いがどうにも消えないそうだ。
簡単に言うと「あり得ないだろう」という事みたい。
そこに出てくるのが朝廷の揉め事。
つまり誰かが後醍醐帝を陥れる為にやったんじゃないかっていう疑惑が出てくる。
その為に六波羅は調査を続けるんだって。
まあ、それしか出来ないよねえ。




