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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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 Side:黒金(くろかね)



 今日は十月五日。

 鎌倉に万理小路宣房(のりふさ)という朝廷から送られた公卿が到着した。

 どうやら朝廷からの話が聞けるみたいだ。

 送り出したのは後醍醐帝だから、そっちの話が聞けるんだろうね。


 一応は宮将軍、執権、内管領(ないかんれい)外戚(がいせき)始め、多くの鎌倉の重要人物も聞きに行っているらしい。

 ちなみに義観さんも足利家の当主として呼ばれたそうだ。本人はあからさまに嫌そうだったけど。


 僕達はあれやこれやと考える事もなく、今日は屋敷の中で適当に過ごしている。

 ちなみに内部で処理したからか、赤橋家の女性に又太郎の子供の事はバレてないらしい。

 それは良かったと思うけど、余計な揉め事は要らないよ?


 「オレも揉めたくてやった訳ではなくてな。

 とはいえ、今思えばああいう事もあるのだなと思う。

 彼女には申し訳ない事をしたが、どんな子が生まれてもオレの子である事に変わりはない」


 「それはそうでしょう。いい加減にして下さいよ、兄上。

 生まれて来たのが男子(おのこ)であれば、問題になりますよ。

 まあ、正室腹ではないので継ぐ事は無いでしょうけど」


 「男子(おのこ)ならオレが色々と教えてやろう。剣でも弓でも式神でもな。

 オレだって教える事は出来るだろうし、その子は陰陽師として生きていけばいい。

 オレには出来なかったが、その子なら出来るだろう」


 「………」


 どうも又太郎は未だに陰陽師として生きたいみたいなんだよねえ。

 足利家を継がなくちゃいけないんだけど、子供の頃からなりたかったらしいから、仕方ないのかな。

 うん? 義観さんが帰ってきた?


 「父上が帰ってきたみたいだな。外から入ってくる者が居る」


 「そうだね。義観さんで間違いないと思う」


 「相変わらずだが、便利なものだな。

 兄上も出来るようになっているし、私も修行した方が良かったのだろうか?」


 「さてな。これだけは合う合わないがあるだろうし、元々の霊力が三だったからなぁ……。

 修行しても出来る様になったかは分からん。

 陰陽師として才や能があるなら出来る様になるだろう」


 「では、無理ですね。

 ま、父上が帰られたのですから、話を聞きに行きましょう。

 何を言われるかは分かりませんが」


 僕達は立ち上がり、帰ってきた義観さんのところに行く。すると、何故か執権もいた。

 どうやら足利家の屋敷に来たみたいだけど、何かあったのかな?


 部屋に入った僕達は、とりあえず話を始める。


 「何とも言えぬのう。わざわざ鎌倉まで来られて、言われる事があれとは……」


 「仕方がありませぬ。

 帝の綸旨(りんじ)でございましたが、こちらを叱責するものばかりでしたからな。

 始まりにも「逆鱗以て甚だし」と激怒しているという内容からでしたので」


 「そのような文だったのですか? 帝は大変お怒りのようですね。

 とはいえ……」


 「そうよ。おそらくは六波羅(ろくはら)からの(しら)せの通り、朝廷内での揉め事であろうな。

 誰かが帝を陥れる為に讒言(ざんげん)をさせたのであろう。傍迷惑(はためいわく)な事よ」


 「まったくですな。<大覚寺統>と<持明院統>、さらには<大覚寺統嫡流>と<大覚寺統庶流>。

 これらが組み合わさって揉めているとなれば……」


 「これから流言飛語(るげんひご)が相次ぐぞ? どこからの言葉かすら分からん困った事態になるわ。

 碌な事ではないが、それでも何とかはせねばならん。鎌倉としての答えを出さぬと後々に響く。

 とはいえ……」


 「はい。帝に対する疑いは無しでしょうな。

 そもそも今の帝が鎌倉の打倒を考える必要がありませぬ。

 何よりそれをやるのであれば、邦良親王か<持明院統>に近付くでしょう」


 「庶流である今の帝は立場が弱い。

 そして立場の弱い帝に近付いて鎌倉打倒などあり得ん。そんな事は愚か者でも分かる事よ。

 となると、どちらかだが……」


 「どちらかは分かりませぬな。しかしこちらが流される必要はないかと。

 こういうものは通用せぬと見せる事が重要でしょう。

 鎌倉の町には邦良親王側の者もおりますので、あまり明け透けには出来ませぬが」


 「ま、それでも考えるのは内管領(ないかんれい)外戚(がいせき)の者どもよ。

 散々好き勝手をしてくれたのだ、ここはきっちりと己らの責で事を治めてもらわんとな」


 「最悪の場合には……」


 「うむ。我が出て一喝。それで治めるしかあるまい。

 とはいえ、それならば奴らの名が下がり弱まるからの、悪い事では無いのであるし」


 「はっ」


 そういう話で決着したようだ。

 こういう話は執権の屋敷では出来ない、誰が聞いているか分からないからだ。

 なので足利家の屋敷でするのがいつもの事となっている。

 とはいえ今代の帝は激怒しているようだね。


 気持ちは分かるけど、この先どうなるのやら?



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今日は十一月の一日。京の都に後醍醐帝は無罪であるという話が届いたらしい。

 しかし京の都の六波羅(ろくはら)探題が、勝手に後醍醐帝が鎌倉打倒を掲げていると流布(るふ)した所為で激怒していた事が分かった。


 それに関しては鎌倉から執権の名で厳しい叱責の文が送られたようだ。

 そして帝の側近である日野資朝(すけとも)と日野俊基(としもと)の二人が鎌倉に送られてくるみたい。


 取調べをするという風に見せかける為らしく、実際には後醍醐帝の意見などを詳しく聞く為なんだって。

 ようするに朝廷の中がどうなってるのか聞かせろって事だね。三つ巴で争ってる可能性が高いから。


 それにしても迷惑な話だけど、この問題はそう簡単に終わらない気がする。

 それと<大覚寺統>の後宇多(うだ)院は亡くなったけど、<持明院統>の花園院はまだ生きてるんだって。

 ややこしいよね。


 なんか源平の頃より面倒くさい事になってる気がするんだけど、何でこんな事になってるんだろう? さっさと一本化すればいいのに。

 院が何人も居るって……そういえば源平の頃にもたくさん居たか。


 後白河院が居た時にも崇徳院とか近衛院とか居たもんね。

 ややこしいのは何も変わってないのかぁ……。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 今日は十二月の十五日だ。

 京の都から文が届いたらしいので何かと思ったら、また元号を変えるらしい。

 今度は正中(しょうちゅう)という元号なんだってさ。何だかバカみたいだけど、朝廷にとっては大事なんだろうね。

 僕にとってはどうでもいい事だ。


 それより日野なんちゃらの二人が鎌倉に留め置かれているけど、この二人の言葉で内管領(ないかんれい)外戚(がいせき)の顔が真っ青になったらしい。


 理由は一つ、この事件の全てを明るみに出すと、朝廷内の内紛が明るみに出るからだ。

 ひいては日の本を割る大戦が始まる恐れすらある。

 その事に気付いたらしく、大慌てになっているみたい。


 六波羅(ろくはら)探題が派手に動いた所為で、既に後醍醐帝は激怒してる。

 邦良親王と<持明院統>は水面下で後醍醐帝を排しようと動いている。

 とはいえ後醍醐帝の鎌倉打倒は嘘だった。


 うん、完全にどうにもならないね。

 誰がこんな事を考えてやらかしたのかは知らないけど、最初の六波羅(ろくはら)が派手な失敗をしているので、どうにもならない。


 結局、内管領(ないかんれい)外戚(がいせき)は結託し、今回の事を有耶無耶にしようとしているようだ。

 とはいえ有耶無耶にしたところで後醍醐帝は激怒してるんだけどね? そっちはどうするんだろう?


 関係ないのに鎌倉打倒を掲げているなんて言われたし疑われたんだ。

 次は本気で鎌倉打倒を考えても不思議じゃないんだけどなぁ……。

 後白河院も何度もやってたし。


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