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式神と霊兵  作者: 田中始め
第二章 南北朝編
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0083




 Side:黒金(くろかね)



 「そろそろ起き、うわっ!!」


 うん? 何か五月蝿いけど、もう朝なの? 仕方ないな、起きよう。


 「おはよう、もう朝? 後なんかさっき五月蝿かったけど、なに?」


 「なんで霊兵を出しているんだ? いや、そもそも何だ、その真っ黒いのは!?」


 「これは影兵だよ。

 それと僕は寝ている間の身を守る為に、古兵なんかを出しっぱなしにして寝るんだ。

 源氏軍と一緒の時もずっとそうだったよ。

 あいつら賊のようなヤツも居るから、何をしてくるか分からないし」


 「ああ、それで霊兵とやらを出していたわけか。

 ……確かに寝ている間も守ってくれるなら、これ以上の寝ずの番もなかろうな。

 いや、それよりも朝餉が出来ておるから食うぞ」


 「えっ? 朝餉? 食べる食べる。お腹空いてたんだよね。

 昨日から何も食べてないし、最後に食べたのなんて糒飯(ほしいい)だよ」


 「壇ノ浦で神隠しにあったなら、確かに食べたのは糒飯(ほしいい)ぐらいだろうな。

 あれを食べなきゃならんのは厳しかろうが」


 そんな話をしつつ、又太郎という人の後ろを歩いてついていく。

 斯明(かくめい)の家とは比べ物にならないほど大きいね、この屋敷。

 一応武士らしいから、これぐらい大きな屋敷に住むのも当たり前なのかな?


 「一応武士と言われても困るのう。

 まあ、確かに一応武士と言われればそれまでじゃが」


 「食べる所も大きいね。斯明(かくめい)の家はもっと小さいよ。

 でも最初の家よりは大きかったけどね。

 最初は一人暮らしだったからか、寝る所と符を書く部屋しか無かったし」


 「流石に我が足利家と市井の陰陽師とを一緒にするな。

 我が足利は御家人の中でも名門だぞ」


 「そんな事を言われても聞いた事がほとんど無いしさ。

 何かで一度聞いた記憶はあるんだけど、それが何か思い出せないんだよね。

 確かどこかで足利兄弟が負けて逃げたって話だったはず」


 「それは永劫に思い出さんでいい!」


 仙太郎というヤツは何かと五月蝿いね。

 とはいえ足利って名前はそれぐらいでしか聞いた事が無いんだよ。

 それが事実なんだから仕方ないじゃん。だって、あ!


 「思い出した! 義仲だ、木曾義仲だよ。あいつが平氏を西に追討した戦。

 その海戦で足利兄弟と海野なんとかってヤツが討ち死にしたはず。

 その戦で聞いた事があったんだ。いやぁ、思い出せてよかった」


 「「「「「………」」」」」


 「どしたの? 朝餉を食べないの?」


 「いや、食べるのだが………それ、多分だかウチの祖先ではないの。

 元々は我が家もそうじゃが、下野(しもつけ)の国の足利群足利荘の生まれじゃ。

 そこは足利の名を持つ家がある場所じゃからの」


 「そうなんだ、そんな所があるんだね。……あれ? これは……」


 「どうした? 疑うところなど無く、普通に米であろう?」


 「ああ、やっぱりそうだ。(ひえ)じゃないんだね。

 斯明(かくめい)の家ではずっと(ひえ)だったから不思議だったんだよ。

 あれ、見た事ないな? って思ってさ」


 「武士は貧乏人ではないのだから、(ひえ)を食うたりなどせぬ!

 一度食うた事はあるが、あんな不味い物をよく食うなと思うわ」


 「えー? そこまで言う? 別に不味い物じゃないけどなー。

 そういえば公卿とか公家も(あわ)とか(ひえ)を見下してたんだっけ?

 武士も公家と変わらないねー」


 「「「「「………」」」」」


 ん? 何かあったのかな? また固まってるけど、早く食べないと冷めるよ?

 ま、僕は気にしないで食べるけどね。

 それじゃ、いただきます!


 「なんだろうな?

 黒金(くろかね)が食べていると美味しそうに見えるが、色々と考えさせられる一言が飛んでくるのは何なのだろうか」


 「確かにそうじゃのう。公家と一緒だと言われると凹むわ。

 確かに仙太郎の言うた事は、そう言われても仕方があるまいが……。

 我らは(おご)っておったのかもしれんの。

 もう少し気を引き締めねばならんかもしれん」


 「御家人の中にも鬱憤(うっぷん)は随分と溜まっておりますからな。

 兄上も苦慮しておったと聞きまする。

 とはいえ悪いのは蒙古であって、こちらではありませんが……」


 「我が足利は「義」の字を認められておる。それ故に得宗家側の言い分もよう分かるからの。

 向こうが攻めて来たのだから守るしかない、我が国を奪われる訳にはいかんのだ。

 しかし……」


 「恩賞も大してありませんでしたからな。

 皆が苦労して大陸の蒙古を叩き返しましたが、しかし疲弊しただけで終わり。

 これでは不満が溜まるのも当然のこと。

 しかし得られた物が何も無い以上は、恩賞として与える事は出来ず……」


 「本当にのう。そこに得宗家も苦労をしておられる。

 無い袖は振れんからな。如何(いか)にしようも無い」


 「大陸が攻めて来る、なんて事があったの?」


 「うむ。文永の役と弘安の役の二度な。

 その戦で大陸の蒙古を叩き返したのはいいが、皆が多くの物を持ち寄って必死に戦った結果、何も得られなんだというわけじゃ。

 おかげで皆が貧しくなってしもうた。特に西国はな」


 「西国は九州が攻められたのだ。

 一度目は対馬、壱岐、博多。

 二度目は対馬、壱岐、長門、博多、志賀島、伊万里湾、そして最後は鷹島だ。

 戦をするにも銭や兵糧が大量に要るからな」


 「知ってるよ。平氏が戦をする為に、西国や北陸に重税を掛けてたからね。

 だから平氏に対して蜂起したんだし、特に北陸を取り戻せなかった平氏は段々と西に追いやられていったよ」


 「その辺りは<吾妻鏡>にも書いてあったな。

 源氏とは違い、平氏は重税を掛けていたと。

 だから民の反発や在地の武士の反発を招いたともな」


 「越前なんて豪族が蜂起して官軍に勝ったりしてたしねー。

 あそこら辺で平氏に(かげ)りが出てきたって話をしてたかな?」


 「そうなのか。

 しかし当時を生きていたという黒金(くろかね)の話を聞けるのはありがたいな。

 オレなどは書を読まねば分からぬ事ばかりだ。

 その時に生きていた黒金(くろかね)の言葉ほど信じられるものも無い」


 「それでも本当の事を言うておるとは限りませぬ」


 「それを言い始めたら、寝小便を隠した事のある仙太郎の言葉も信用できんぞ?」


 「父上!」


 「ははははははは! しかし言葉など左様なものよ。

 相手の言葉を信じられんと言うておきながら、己の言葉は信じろと言う気か?

 それは無理というものじゃ」


 「うぐっ………」


 「話が聞きたかったら答えるけど、何が聞きたいかは言ってほしい。

 僕も覚えてるだけで、どこが聞きたいか言われないと分からないからね。

 後、分かるのは京の都の事や、都で聞いたりした事がほとんどだよ」


 「ならば静御前の事がお聞きしたいのですが、よろしい?」


 「しずかごぜん? ……誰それ?」


 「……いや、義経公の妾だった白拍子の事だが?」


 「………知らない。っていうか聞いた事も無いんだけど? その人、本当に居たの?」


 「「「「「………」」」」」


 「で、では巴御前は?」


 「………なんか聞いた事はあるね。

 確か義仲と一緒に居たっていう女武者かな?

 確か最期の戦まで付き従ってたけど、死ぬ前に逃げろって言われて逃げたんだっけ?

 その後はどうなったか知らないけど、かなり強い女性だったって聞いた記憶がある」


 「おお! やはり!」


 「となると、静御前は噂にならなかったのかもしれんな。

 巴御前とは違って白拍子であるし、それなら仕方があるまい。

 そもそも当時の後白河院がお褒めになられたのが最初と聞く」


 「後白河院は知ってるよ、二度も幽閉された余計な事しかしない院でしょ!

 あの人って源行家と同じぐらい引っ掻き回す事ばっかりするんだよ。

 しかも、やたらにしぶといって所もそっくりだし」


 「「「「「………」」」」」


 また固まってるなぁ。なんでだろう?


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