0082
Side:黒金
それにしても変だなぁ……源氏の人達は舐めてくる奴らはブチ殺せと言っていたのに、違うのか?
でもそれが武士だって言ってたのに違うなんて、いったいどういう事なんだろう?
「そなたが本当に黒金であれば分かっておらぬのであろうが、源氏と平氏に分かれて争っていたのは今から百三十年ほど前だぞ?」
「は? 百三十年? ………それって凄く前ってこと?」
「ああ。正直に言って、頼朝公のお血筋は三代で途絶えたし、今は得宗家である北条家が執権として政を行っておられる」
「ほうじょうけ? ………聞いた事が無いんだけど、そんな家あったの?」
「北条家は頼朝公の正妻であられる尼御台様のお家であるな。
しかし………北条家を聞いた事が無いのか?」
「無いね。全く聞いた事が無いよ。
東国では有名なのかもしれないけど、京の都に居た僕には全く聞き馴染みが無い。
ハッキリ言えば、僕を蹴り落とした梶原より知らないよ」
「それはまた……。とりあえず執権である北条家は有名な家なので粗相は止めてくれ。
我が足利家にまで善からぬ事が降りかかってくるかもしれぬでな」
「分かってる。平氏も源氏も京の都で横暴だったからね。
かつては平氏に虐げられてたのに、自分達の方が強くなったら源氏も平氏と同じ横暴を始めたし。
どっちにしても碌な者じゃなかったよ」
「そうかもしれぬが、源氏は平氏に酷い目に遭っていたと聞くぞ?」
「あいつら変わらないよ。
平氏は自分達を批判するようなヤツは斬るし、源氏は賊と変わらない事をするし。
あいつらが居るから治安が悪いとか、賊が蔓延るとか言われたからね」
「そこまでか……。我らが祖先は知らぬが、あまり褒められたものではなかったようじゃの」
「<吾妻鏡>とかもあるが、そなたに聞いた方が分かりそうだな。源平の頃の事は」
「僕が知ってる事なら答えられるけど、知らない事は答えられないよ?
僕、そもそもずっと京の都に居たからさ。
出たのは義経が無理矢理に戦に連れて行った時ぐらいかなぁ?」
「そういえば、今思えばこんな幼子を戦に連れて行ったのだな。義経公は……。
そう考えると、確かに無理矢理に連れて行ったというのは分からぬでもない」
「確かにそうですな。オレだって初陣もまだなのに、この歳で何度も戦を経験しておるとは……。
よくよく考えれば罪作りな事をしておると思います。
何故にそんな事をしたのでしょうな?」
「義経が僕を連れて行ったのは、平氏方の呪術師とかに対抗させる為、っていう建前だったよ。
もちろん本音は僕の霊兵が目当てだったんだけどさ」
「霊兵……さっきの兵の事か。
そういえばそなた義経公や頼朝公の諱を堂々と呼んでおるが、それは止めた方がよい。
諱を呼び捨てる事は褒められた事ではないからの」
「え? でもさっきから呼んでるじゃん」
「頼朝公と呼んでおるだろう。
公を付ければ許されるというのはあるが、亡くなった方であるからな。そういう部分もあるのだ。
生きておられた頃は鎌倉殿と呼ばれておられた」
「ややこしいね。
そもそも僕の事は普通に黒金って呼んでる癖に、意味が分からない。
まあ、そういう事だと覚えておくけど」
「うむ。それがよい。
ちなみにワシの名は義観じゃ、既に出家しておるからの。
息子が亡くなったので再びワシが当主じゃが、それで良いな?」
「もちろんだ。そもそもオレは次男で継ぐ予定など無かったはず。
まさか兄上がこのような事になるとは思わなかった。
本当なら陰陽師に弟子入りするはずだったというのに」
「お前はまだそんな事を言うておるのか。
あのような妖怪と戦う者達に憧れるのは止めよ。
仮に家を継がぬにしても、お前は家を支えなければいかん立場ぞ」
「分かっておるさ。
とはいえ、妖怪を斬って倒して銭を稼ぎ、自由に生きておるのを見るとなー……」
「えっ? 妖怪って太刀で斬れないけど?」
急に訳の分からない事を言い出したね? 妖怪は刀で倒す事なんて出来ないのにさ。
……もしかして【霊波】を使って斬ってるのかな? それなら分からなくもないけど。
「そうなのか? だが陰陽師は太刀で切り捨てておるはずだぞ?」
「あれぇ……? もしかしたら【霊波】を使うのが普通になったのかな?
かつては符術か式神で戦うのが普通だったのにさ。
とはいえ太刀で戦った方が銭が掛からないから得なのかな?」
「よく分からんが、そなたも腰の短刀で戦うのだと思っていたぞ」
「これは抜いて紫の線を見る為だよ。
僕は建武雷神様の加護があってね、斬るべき線が見えるんだ。
そこを切るとスパスパ切れるんだよ。その為には刃物を持たなきゃいけないんだ。
だから持ってるんだよ」
「ならば、小刀でも何でもいいのではないか?
なんでそんなしっかりした短刀を持っておるのだ。
私だってまだ貰えてないのに……」
「自分で稼いで買えばいいんじゃないの? 後、これは貰った物だよ。
まあ、くれたのは将門だけど」
「は? まさかど……? もしかしてそれは、平将門公の事か!?」
「そうだけど? これ京の都で怨霊として出た将門を成仏させた時に貰ったんだよ。
僕と葛葉以外が持つと祟られて呪い殺されるから注意してね」
「そんな危ない物を誰も持たんわ!
というか、将門公の短刀を持っておるとは………<吾妻鏡>などにも書かれていなかったぞ」
「あづまかがみ?」
「鎌倉の世になった後、六代将軍までの事を纏めた書物だ。
ただし書かれて無い期間があってな、特に頼朝公がお亡くなりになられた頃の記録が無い。
後に執権となる北条家の書かれた物なのでな。そこに何かあるのであろう」
「暗殺かな? あの頃も普通にあったし、別に変な事じゃないよ。
表では軽い罪で許しておいて後で暗殺とかもあったし、別に珍しい事じゃないんじゃない?
頼朝が邪魔になったんでしょ」
「邪魔って……いや、どうなのだろうな?
元々尼将軍の父は頼朝公との婚姻を認めてなかったとか読んだしな。
案外そういう事は根深く覚えておるものだ」
「これ、滅多な事を言うでない。
何があったにせよ、今は得宗家の世なのだ。
何をされるか分からぬ」
「そうだな。ここだけの話としておこう。
そういえば黒金はオレの前に出てきたが、オレに何かあるのか?」
「え? 知らない。そもそも壇ノ浦で何があったか覚えてないんだよね。
梶原とかいうヤツに蹴られたのは覚えてるけど、それ以降は何も覚えてない。
気付いたらここだし」
「そうなのか……。
つまりアレか、壇ノ浦で蹴り落とされた後、また神隠しにあったという事かもしれんな。
それなら助かったのも分かる。父上、ウチで預かりたいがいいか?」
「構わん。というより、我が家で預からねばマズい。
諱を当たり前のように呼び捨てるなど、いつ斬られても仕方がないぞ。
稀人が斬られるなど、あってはならぬ事だ」
「えー? 僕、二回ほど斬られて死に掛けたけど? その度に神様が降りてきて助けてくれたけどさ」
「二度も斬られて何故生きているのだ? と思わんではないが、神様が何かされたのであろう。
いや、それも色々とおかしいが」
「まあ、とにかく黒金はウチに居ればいい。
そもそもいきなりオレの前に出てきたのだから、オレに何かあるのだろうしな」
「でも陰陽師の出張所に行って登録しないといけないね。
銭を稼ぐにもそうしないといけないし」
「登録? 陰陽所ならば近くにあるぞ。
そこに霊玉というのを持って行けば買い取ってくれるはず。
登録などは知らぬな」
「あれ? 京の都では登録が必要だったんだけど……東国では違うのかな?」
困ったな。東国の事なんて知らないし……。




